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都会の冒険者、ホンダ「ADV150」が示したスクーターの新たな可能性とは!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
HONDA ADV150 写真出典:Honda/Webikeバイクニュース以下同

都会からそのまま非日常へ

先日の東京モーターショー2019では国産各メーカーから様々な新型モデルが発表になりましたが、中でも個人的に注目したい一台がありました。それが今回正式に国内発売がアナウンスされたホンダの「ADV150」でした。ちなみに発売日は2020年2月14日、なんとバレンタインデーです。

開発コンセプトは「限界を超えていく都会の冒険者」。ホンダのリリースによれば、「スクーターの魅力である快適性や利便性、機動力に加え、個性的で力強い外観と優れた走破性により、通勤や通学から趣味や非日常も楽しめる軽二輪スクーターを目指し製作された」となっています。

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特に私が注目したのは走破性の部分です。つまり、オフロードを走ることを想定した作りになっているということ。ベースは「PCX150」で、スクーターらしからぬ高剛性ダブルクレードルフレームの骨格に水冷 4スト OHC149ccから最高出力15psを発揮する最新のグローバルエンジン「eSP」を搭載するなど、走りの良さには元々定評があることに加え、足まわりを専用設計として、ちょっとしたダートから高速道路を使ったツーリングまで幅広いシーンで活躍することを想定したモデルです。

スクーターのまま限界に挑んだモデル

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通常のスクーターは通勤・通学などを主目的として作られた、いわゆるシティ・コミューターです。スクーター本来の使い勝手の良さ、つまり足着きの良さや乗り降りしやすさ、オートマで楽に乗れて小回りが利くなどのメリットは、一方で走行性能や走破性を犠牲にしている部分があることも事実です。

たとえば、足着きを良くするためにサスペンションのストロークを短くすればギャップ吸収性は落ちるし、ライポジ的にニーグリップできないため人車一体の操り感が希薄だったり、オフ車と対照的な小径ホイールはもろ走破性に影響したりします。また、オートマは瞬発力が欲しいときにタイムラグがあったり、とダート走行を考えるといろいろ不利な部分もあるわけです。

X-ADV
X-ADV

というような理由から、今まで本格的な“冒険スクーター”が現れなかったのでしょう。「X-ADV」があるじゃないか、という声も聞こえそうですが、そちらの排気量は750ccもあってオートマでもトランスミッションを有するDCTだし、チェーン駆動だったりとほぼ通常のバイク。その点、「ADV150」は兄貴分のデザイン要素は上手く取り込みながらも中身はスクーターのまま限界に挑んだモデルなわけです。

ダート走行を見据えた強靭な足まわり

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ただし、あえてスクーターという制約の中で不利な部分をカバーしつつ、アドベンチャースタイルと名乗るだけの「本気」を見せている点が新しいと思います。

それは、PCXより高くワイドなバーハンドルの採用や、ダートでもトラクションを得られやすくするために低中速寄りにふった出力特性や、ウエイトローラーや遠心クラッチなど駆動系の設定変更をはじめ、前後サスのストローク量アップ(PCX比でフロント30mm/リヤ20mm増加)とそれに伴う最低地上高のアップなどに見られます。また、オン・オフ兼用のセミブロックタイヤは接地感と乗り心地向上のため、前後ともPCXよりワンサイズワイドな110と130サイズを採用。さらに走破性重視のためホイールサイズもフロントは14インチをキープしたままリヤだけ13インチに小径化してその分リヤサスを強化、3段バネと別体式リザーバータンクを装備したツインショックでストローク量を稼ぐなど、“日常を超えていく”ための工夫が随所に見られます。

ADV150 インドネシア仕様
ADV150 インドネシア仕様

実はいち早くインドネシア仕様の「ADV150」に乗る機会がありました。詳しいインプレッションなどは別の機会に譲るとして、ちょっとした起伏のある林道レベルでは時にスタンディングしながら普通に走れてしまいます。もちろん本物のオフ車のような高次元のダート走行は難しいですが、軽量な車体や足着きの良さを生かしつつ、気の向くまま気軽に寄り道できる自由さはとても気持ちがいいものでした。

開発者はアフリカツインも手掛けた人

CRF1100L アフリカツイン
CRF1100L アフリカツイン

デザインも都会的な洗練さの中にアドベンチャー色を織り込んだもので、新型アフリカツインにも似たフロントマスクに手で高さ調整できる2段階スクリーン、高い位置にマウントされた多機能メーターなどの装備がその気にさせてくれます。それもそのはず、実は東京モーターショーでも開発担当者の藤井氏に話を聞く機会があったのですが、以前はアフリカツインの開発にも携わっていたそうです。道理で納得がいきました。聞くところによると、メインターゲットとしているASEAN諸国では未舗装路が多い道路事情などもあり、ダートにおける走行性能の高さは実用面にも直結しているとのこと。そして、日本や欧米などの先進国ではレジャーなどのファン領域へと広がりを持たせたいということでした。なるほど、だからこその「本気」の作り込みだったのですね。

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もちろん、スクーターですから27L容量のシート下スペースもしっかり確保され、スマートキーシステムや、急ブレーキ時に自動的にハザードを高速点滅させる「エマージェンシーストップシグナル」を採用するなど最新装備も充実しています。

日常から非日常へ、都会から冒険の旅へと誘ってくれるのがアドベンチャーモデルですが、「ADV150」はその敷居をぐっと低くしてくれるモデルではないかと。電制テンコ盛りの高価なスーパーマシンじゃなくても普通の人が普段着のまま、なんだったらスーツ姿のままプチ冒険気分を味わえる。そんな新しい世界を見せてくれそうですね。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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