【渋谷区】月夜の階段を降りて記憶と感情が結びつく、大人が通う山種美術館の空間とは
渋谷区にある山種美術館は、JR渋谷駅とJR恵比寿駅の中間の坂の上にあります。所蔵する日本画に合わせた演出が施され、多くの大人たちが山種美術館の展示企画のファンとなり訪れています。海外の美術館へ訪れるのなら、一度こちらの美術館にも足を運ばなければ惜しいほどの雰囲気を持っています。現在、【特別展】「没後50年記念福田平八郎×琳派」(開催期間:2024年9月29日(日)~2024年12月8日(日))が開催中です。
大人が楽しむ、月夜のように静かで美しい階段と館内
展示室は地下1階です。階段の薄墨色の壁はイタリアから取り寄せた大理石で「アンモナイト」が目で確認できるほどの数が埋まってます。階段の足元は月の灯りに照らされているような、夜の庭を歩いている幻想に誘われます。
展示室入口の大きな自動開閉の扉は、中央にガラスがはめ込まれ、展示室内が見えます。「ドアは日本画の銀色をイメージしてます」(美術館の職員さん談)
銀色の壁のような入口は、一歩足を踏み入れる緊張感を演出している注目すべき場所です。そして階段から展示室内まで柔らかな光は「月光浴」のようでした。訪れている方の鑑賞から伝わる穏やかな空気の要因かもしれません。「これらのデザインや照明は有名建築家によるものではなく、山種が日本画を見てもらうために考えたものです」(美術館の職員さん談)
【特別展】「没後50年記念福田平八郎×琳派」
作品 《筍》福田平八郎
今回の展示で代表作として紹介されている日本画です。
生で見ると、色、形、皮の端の枯れ具合など、非常に実在感があります。
私自身の記憶として、幼い頃に通学路に野生の竹林では、筍が食べられる時期を過ぎ、真っ黒に変色した皮をまといながら伸びていく姿がたくさんありました。その異様な生命力を持つ、「恐ろしいもの」は、鮮明に記憶に残っています。その様子を福田平八郎は捉えています。色使いや背景など洗練された日本画で描かれていますが、それは現実に存在するものを描いており、子供だった当時の記憶や感情と結びつき、他様々な当時の様子も思い起こさせる、珍しく貴重な体験をしました。
記憶と感情が結びつく鑑賞とは
福田平八郎の作品は、実在する対象物の特定の部分をデザインや特徴の誇張、細かな描写や色使いで表現し、複雑な意図の重なりを感じさせます。
その独特な作品は、鑑賞者に「これを描こうと思った理由は何だろう」と考えさせ、福田平八郎から直接「私にとってはこう見えていたのだが、どうでしょう?」と問いかけられているような感覚に陥ります。
意図するものが鑑賞者によって解釈されるとき、鑑賞者は「はい、確かに、こう見えていました」と言いたくなる、それは過去の記憶と結びついたり、当時の感情までもを呼び覚ます力を作品が発揮した瞬間なのでしょう。
福田平八郎の日本がは対象物が実物大で描かれているものが多いことにも気づきました。それも作品の中にある意図と通じているのかもしれません。
展示は若き日の20代・大正時代から30代・昭和時代へと移行し、生涯最後の作品《彩秋遊鷽》(個人蔵)が順路の最後にあります。
若い頃の日本画作品と比べて、最後は柔らかく溶け落ちそうな油絵にも見える画風です。それでも、鷽(ウソ)という鳥の赤い色の喉元など、作家の視点を描くことは終始変わることがありませんでした。
展示は、次に「琳派」の作品へと移ります。
最初に《槙楓図》伝俵屋宗達が展示され、それに追随する作家の作品が並んでいます。金箔の屏風に描かれた作品は、「モダンな構成」や「たらしこみ(墨の技法)」など見どころ満載ですが、今回はその中で《秋草鶉図》【重要美術品】 酒井抱一について書きます。
和菓子を食べた後に改めて作品を見る面白さ「 Cafe 椿 」
1階のロビーにはカフェがあります。美術館に一休みできる大人のカフェがあるのは訪れる者の楽しみのひとつです。
山種美術館では、日本画を鑑賞するとともに、会期ごとに5つの作品を選び、和菓子にするという試みがされており、和菓子は青山の老舗菓匠「菊家」さんの特別オーダーです。
秋 草 Akikusa
秋草に月と鶉を描いた抱一の金屛風をイメージしたきんとんです。
月と鶉は羊 羹で表 現しました。(黒糖風味大嶋あん・羊羹)
和菓子で表現された作品がこちらです。
《秋草鶉図》【重要美術品】 酒井抱一
この作品では黒い部分が「月」を表しています。
これは私の鑑賞における感想ですが、月の満ち欠けを表す「月齢表」において黒い部分は月の影として描かれます。
丸い円から黒い部分を取り除いたものが月の形となり、「月齢表」では月齢0である「新月」からスタートします。《秋草鶉図》に描かれている黒い影の形状から、月齢26の「二十六夜」に該当すると推測することができます。
秋の「二十六夜」を思い浮かべると、作品中の月明かりの描写も頭に浮かびます。
和菓子の餡にはコクがあり、作品と和菓子を比べながら食べるという貴重な体験でした。
さらに、お抹茶も香りが良く美味しく、この和菓子を食べると、もう一度作品の前に立ちたくなり、再度展示室へ向かいました。
海外観光客向けには14の言語で解説を読むことができるQRコードも提供されています。館内ではWi-Fiに接続することで、展覧会の作品解説などの音声ガイドを利用することができます。
また、会期中の水曜日には学芸員による展示作品の解説(先着25名)ギャラリートークに無料で参加できます。(入館料は必要です)
【特別展】「没後50年記念福田平八郎×琳派」は、12月8日まで開催されています。秋晴れの中、恵比寿駅からは徒歩約10分です。気軽に訪れてみてください。
取材では山種美術館様の協力により、入館料及び抹茶とオリジナル和菓子のセットを無償で提供いただきました。本記事制作にあたってはガイドラインに基づき公平中立に制作しています。
山種美術館
所在地 東京都渋谷区広尾3丁目12−36
開館時間 午前10時から午後5時
月曜休館。入館は閉館の30分前まで
※今後の状況により、開館時間は変更になることがあります。
TEL:050-5541-8600
Cafe椿
営業時間 10時30分~17時
(展覧会によっては変更になることがあります。)