英ポンドが対ドルで過去最安値更新、通貨介入は困難、大幅利上げの可能性も。IMFは英財政政策の再考促す
英ポンドが対ドルで過去最安値を記録した。26日に一時1ポンド1.03ドル台と、1985年の水準を下回り、英ポンドは変動相場制移行後の最安値を付けた。
イングランド銀行は26日、2%のインフレ目標を達成するために「必要なだけの」金利変更を躊躇しない方針を明らかにした。
イングランド銀行のベイリー総裁は、2%のインフレ目標を達成するために必要であれば「躊躇なく」金利を引き上げるとした上で、資産価格の急激な動きを受けて金融市場を「非常に注意深く」見ていると語った。
市場では、大幅な緊急利上げが実施かと予想した向きもあったが、「注意深く見ている」だけであったことで、これもポンド売りを誘った可能性がある。
また市場では介入期待もあり、ポンドの急落から介入の可能性を意識した参加者の失望売りとの見方もあった。
しかし、英国は元々外貨準備はさほど多くない。つまり売るべきドルをそれほど保有していない。英国の外貨準備高は8月末時点で807億ポンド程度である。
元イングランド銀行副総裁のジョン・グリーブ氏は、英国の外貨準備はポンドを下支えする手段としては有効でないとの見方を示した(26日付ロイター)。
グリーブ氏は、外貨準備は通貨を支える2つの方法のうちの一つで、もう一つは金利だと指摘。「通貨市場の規模に比べれば、外貨準備はさほど多くない。したがって効果的な武器とは見なされないと思う」と語った(26日付ロイター)。
主要通貨のなかでも英ポンドのボラティリティはもともと高いとされる。つまりそれは投機対象にされやすく、1990年にはジョージ・ソロスのクオンタム・ファンドなどのヘッジファンドが大量のポンド売りマルク買いを仕掛けたことでも知られている。
今回の英国ショックといえるものは、英国のトラス新政権が1972年以来の大規模な減税を打ち出したことが原因といえた。
イングランド銀行は22日に0.5%の利上げ決定を発表し、保有する英国債の市場での売却を始めると発表した。これを受けて英国債は22日に10年債利回りは3.49%と16日の3.31%から大きく上昇していたが、トラス政権の1972年以来の大型減税と国債増発を受けて、火に油が注がれた格好となった。
トラス氏への懸念は対イングランド銀行にもあった。
トラス氏は党首選で勝利すれば、英中銀が「インフレに厳しい態度で臨む」ことを確実にするため、マネーサプライに目標を設定することも示唆。テレビ討論では高インフレの責任は英中銀にあると批判し、次期政権はインフレ抑制に成功している他国に目を向けるべきだと主張、日本銀行を良い例に挙げた(7月19日付ブルームバーグ)。
そして、トラス政権と同様の政権が今度はイタリアで発足しようとしている。26日には英国債だけでなく、イタリアの国債も急落していた。
国際通貨基金(IMF)は27日、市場の混乱につながっている英国の新たな財政政策について、大規模で的を絞っておらず、国内の不平等拡大を招くほか、金融政策の効果を損なう恐れがあると警告した。大規模な減税や歳出拡大の代わりに、より的を絞った世帯・企業向け支援を行うよう当局に促した(27日付ロイター)。