円安加速の背景
ここにきて円安の動きが加速している。ユーロ円は119円台をつけ、ドル円は89円台をつけてきた。この背景には国内外の要因が重なり合ったことがある。
今回はドルに対するよりもユーロに対する円の下落ピッチが速かったように感じる。その背景には、ユーロ危機の収束が意識された。1月10日に開催されたECB政策理事会では、全会一致で主要政策金利の据え置きを決定した。ドラギ総裁は理事会後の会見で、「事態が悪い時に伝染ということがしばしば口にされたが、良くなる時にはプラスの伝染というものがあると思う」と語り、ユーロ圏の国債市場が3年にわたる混乱を脱し安定するに伴い、域内経済が今年、徐々に健全性を取り戻すとの見通しを示した。(ロイター)。
10日のスペイン国債の入札では58億ユーロを調達し、予定の50億ユーロを大幅に上回った。これを受けてスペイン国債は急伸し、スペインの10年債利回りは5%割れとなったのである。去年のスペインの10年債利回りは、一時7.75%近辺あたりにまで上昇していたが、7月以降、利回りは低下してきた。このスペインの長期金利の低下も、ユーロ圏の危機が後退したことを示す象徴的なものと言えよう。
ユーロ圏についても足下景気の悪化はあるものの、ドラギ総裁は今年中に「緩やかな景気回復が始まる」との見通しを示していた。中国の12月の輸出が予想以上に回復したことを受けて、世界の景気回復への期待が高まったこともあり、ユーロ高を演出した側面もあった。
米国については1月3日に発表された2012年12月11~12日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が大きく影響している。この中で、一部の委員から出口を意識した発言が出ていたことが明らかになった。この会合では毎月450億ドルの米国債を追加購入すると発表したが、ここではQEを終える可能性も議論されていたのである。「超低金利を維持する時期の目安に失業率を据えるなどの大盤振る舞いは、量的緩和の終わりの始まりだった可能性がある」(日経新聞電子版の記事より)。との指摘もあった。
国内では、日銀の追加緩和への期待が強まっている。9日に約3年半ぶりに再開した経済財政諮問会議で首相は、日銀に対して、デフレ脱却に向けて2%の物価上昇率目標を設け、一段の金融緩和に踏み切るよう正式に要請した。これを受けて日銀は、「21~22日の金融政策決定会合で、2%のインフレ目標を設定するとともに、その達成が見通せるまで金融緩和を続けることを検討する」(読売新聞)とも伝えられた。この読売新聞の記事は11日朝刊一面中央にあり、「日銀、無制限緩和を検討」との見出しが躍っていた。この件については、もう少し内容を吟味する必要もある。しかし、出口を意識し始めたFRBや利下げ観測の後退したECBと対照的な、日銀による追加緩和観測が円売りを加速させた側面はあろう。
11日には昨年11月の国際収支状況(速報)が発表され、経常収支は2224億円の赤字になった。赤字は10か月ぶりとなり、1月以外では1985年以降初の赤字である(ただし、季節調整済みでは2259億円の黒字)。11月の経常収支が赤字となったことも、円安を加速する要因となった。つまり特にユーロを主体とする国外要因と、日銀の追加緩和期待と経常収支の赤字という複数要因が重なって、円売りが加速したとみられる。
安倍首相の言葉を借りれば、ここにきての円安の動きは、まさに次元が違うような動きとなっている。しかし、その大きな背景にあるのは、あくまで世界的なリスク要因の後退にある。円が売られやすい地合となっているところに、いくつもの円売りの材料が重なり合ってきている。いったん流れが出来てしまうと、その流れに沿うような材料に反応しやすくなるのも相場の習性である。ここにきて少しピッチの速さが気になるところではあるが、この円安の動きは新たな材料が出ない限りは、当面続くものとみられ、節目のひとつであるドル円の90円もすでに視野に入りつつある。