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日本一のエレベータークラブ、大分トリニータは混沌のJ1昇格争いで最後に笑えるか

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

今季からより狭き門となったJ1昇格への道

 残り5~7試合を残した段階で、約半数のチームが残留争いを繰り広げるなど大混戦模様となっている今シーズンのJ1だが、その一方で、来シーズンのJ1昇格をかけたJ2の戦いも例年になく白熱している。

 残り試合数にばらつきはあるものの、全42節のうち36節を終えた時点で首位に立っている大分トリニータと、7位横浜FCとの勝ち点差はわずか6ポイント。試合を終えるたびに順位はめまぐるしく入れ替わり、最後まで目が離せない状況になっているのだ。

 ここで今シーズンのJ1昇格のレギュレーションをおさらいしておくと、まず1位と2位のチームは従来どおり自動昇格となるが、3位から6位までのチームは新たにスタートした「J1参入プレーオフ」に参加する。

 昨シーズンまでは「J1昇格プレーオフ」を行い、その勝者がJ1昇格となっていたが、「J1参入プレーオフ」では、3位対6位、4位対5位が対戦し(1回戦)、勝者同士が2回戦を戦い、さらにその勝者はJ1の16位チームと決勝を戦うことになっている。仮にJ1の16位チームが決勝の勝者となれば、J1に昇格できるのは1位と2位のチームだけとなるため、J2勢にとってはJ1昇格がより狭き門になったわけだ。

 ちなみに、J1クラブライセンスを保持していない町田ゼルビアが現時点で3位につけているが、仮に町田が2位以上の成績を収めた場合、自動昇格は1チームのみ。3位から6位チームが出場する「J1参入プレーオフ」では、決勝でJ1の17位チームと対戦する(J1の16位は残留)。また、町田が3位から6位だった場合は、町田を除いた3チームが「J1参入プレーオフ」に出場し、決勝でJ1の16位チームと対戦することになる(J1の17位は自動降格)。

 残留争いも昇格争いも、町田の動向が大きく影響することになるが、いずれにしても、最大3枠をかけた昇格争いは予断を許さない状況であることに変わりはない。

 そんななか、ここにきて32節から5連勝を飾るなど、現時点で一躍リーグ首位に踊り出たのが大分トリニータだ。

 大分と言えば、かつてシャムスカ監督の下でナビスコカップ(現ルヴァンカップ)初優勝を果たすなど旋風を巻き起こした時代もあったが、J1の上位争いにも食い込んだその黄金期はもう10年前のこと。以降、2010年にJ2降格の憂き目に遭い、2013年に再びJ1の舞台に戻ったものの、わずか1年でJ2に降格。さらに2015年にはまさかのJ3降格を味わうなど、日本でもっとも浮き沈みの激しいクラブとして知られている。

 しかし、2016年に就任した片野坂知宏監督が1年でJ2昇格に導くと、J2残留が目標だった昨シーズンは望外の9位でフィニッシュ。3バックをベースにボールを保持する攻撃的スタイルが浸透し始めたうえ、今シーズンは課題だった守備面も改善した。とりわけ第23節以降は複数失点を喫した試合がなく、自慢の攻撃力に頼るサッカーではなくなったことが、成績浮上につながったと言えるだろう。

 しかもリーグトップの65ゴール(10月8日時点)の内訳を見ても、藤本憲明が11ゴール、馬場賢治と後藤優介がそれぞれ10ゴールを記録するなど、ひとりのストライカーに偏らず、どこからでもゴールを奪えるのが最大の強みだ。残りの対戦相手には、町田、松本山雅、横浜FCと、上位直接対決が3試合も残っているという不安材料はあるが、現在の勢いを含めて、十分に2位以上を狙えるチームになったと見ていいだろう。

 その大分とは対照的に、現在2位につけている松本山雅は自慢の守備力をベースに安定した成績を維持している。

 今シーズンは即戦力を大量に補強した影響もあってか、確かにシーズン序盤は不安定な戦いが続いたが、第7節大宮戦の初勝利をきっかけに浮上。以降は順調に勝ち点を積み重ねて第22節で首位に立つと、一度は町田に首位の座を譲るも33節からは再び首位に返り咲いた。

 現在は大分の勢いに押された格好で2位に甘んじているが、実力的には自動昇格にもっとも近いチームと言っていい。7年目を迎える反町康治監督のサッカーにブレはなく、相手の良さを消す戦略と巧みな采配は相変わらず。36節を終えた時点での総失点33は、もちろんリーグ最少失点記録だ。

 逆に、ここまで11ゴールをマークするチーム内得点王セルジーニョ以外に、決め手となる得点源がないのが不安材料。もっとも、夏の移籍で主力MF前田直輝を名古屋グランパスに引き抜かれたことを考えれば、ここまでは上出来の後半戦と見ることもできる。最終的に2位以上の成績を残せるかどうかは、大分戦、東京ヴェルディ戦と続く第39節からの2連戦がカギとなりそうだ。

 一方、開幕前までは優勝候補筆頭と見られながら、予想外の苦戦を強いられているのがJ1降格組の大宮アルディージャだ。

 不振の引き金は、思うように勝ち点を積み重ねられなかった序盤戦に、毎試合失点を喫したこと。初めてクリーンシートを記録したのは第10節のアルビレックス新潟戦だった。鹿島時代に高い評価を得ていた石井正忠監督にとっても、質の高い選手を揃えながらなかなか守備を安定させることができなかったことが大誤算となってしまった。

 とはいえ、目下21ゴールをマークして得点ランキングトップを走る大前元紀を筆頭に、ロビン・シモヴィッチや夏に補強したダビド・バブンスキーといった優秀な助っ人外国人選手がベンチに控える陣容は、J2では別格の豪華さを誇る。復調した後半戦は「J1参入プレーオフ」出場圏内に位置するまで順位を浮上させてはいるが、クラブの規模、J1経験年数、残りの対戦カードから見ても、6位以上はノルマと言える。

 その他、町田戦しか上位直接対決を残していない4位アビスパ福岡、CB畠中槙之輔を横浜F・マリノスに引き抜かれながら手堅いサッカーで昇格を狙うロティーナ監督率いる6位東京ヴェルディ、J2ではワンランク上の存在感を放つレアンドロ・ドミンゲスと点取り屋イバを擁する7位横浜FCも、熾烈を極める昇格レースに最後まで絡んでくるはずだ。さらに言えば、リカルド・ロドリゲス監督の指導により良質なサッカーを実践する8位徳島ヴォルティスも、ここに加わってくる可能性もある。

 ちなみに、ヴァンフォーレ甲府、新潟、大宮の3チームがいずれもJ1昇格を逃した場合、J1昇格プレーオフがスタートした2012年以来、初めて降格組が1チームも昇格できないケースとなる。

 果たして最後に笑うのはどのチームになるのか。降格組の不振によってますます群雄割拠の色合いを強めた今シーズンのJ2は、11月17日の最終節にクライマックスを迎える。

(集英社 Web Sportiva 10月11日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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