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元祖“スーパーサラリーマン”田端信太郎さんに聞いてみたオトナの転職①「40過ぎたら芸術作品になれ!」

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
欲しくない人にはタダでもいらないものが、欲しい人は1億円でも欲しい。(写真:アフロ)

■ビジネスマンとしての自分ブランドの作り方

リクルート時代の後輩といえば後輩で、リクルートにいた当時は「R25」の立ち上げを第一線でされていたスター選手でもあった田端信太郎さんとつい先日、お話しする機会がありました。

田端さんはもともと新卒でNTTデータに入社し、以来、リクルート、出版社のコンデナストを挟み、Livedoor、その後NHN JAPAN(のちのLINE)と、46歳で7社を渡り歩き、IT産業やメディアプロデュース界隈でバンバンと自身のキャリアを磨いて、年収も爆上げ。“元祖・スーパーサラリーマン”との呼び声も高く、現在はキャリア構築のプロとしていろいろなビジネスのコンサルテーションや人材育成に携わっていると伺いました。

そんな田端さんがこのたび、田端さん本人がみっちりと本気で能力の棚卸しやメンタリングに付き合ってくれるという転職サービス「転職ブートキャンプ」を立ち上げ、人事業界を騒がせています。「転職ブートキャンプ」は、IT企業のINCLUSIVE株式会社との共同事業で、期間半年で10回以上の面談や職務経歴書の添削を行い、年収2割以上増での転職を支援するというメンタリングサービだそうです。

求職者が半年で30万円を支払うというちょっと高額なサービスながらも、今年10月の募集開始早々に30名近い応募があり、既に5名に絞られた精鋭たちのブートキャンプ第1期がスタートしているといいます。

■ “サラリーマン”としての価値は戦略的に上げられる

転職に対するハードルも年々下がり、かつてよりも転職を志す人は格段に増えていますが、丁寧にキャリアの棚卸しをして戦略的に”サラリーマン”としてのバリューを上げることができている人は少ないのではないでしょうか。田端さんの実感では、「実際に転職をするたびに武器とバリューを身に付けてきたメンターとガチに向き合うことで、ビジネスマンとしての価値のアピールにも、もらえる報酬にも天と地ほどの差が出る」ということでした。

現在の転職市場では採用企業が人材を紹介するエージェントに報酬を支払うという構造が殆どだと思いますが、実は求職者のほうが、実力あるメンターによる、カスタムメイドされたメンタリングに投資するべきなのかもしれません。

田端さんと共通の古巣でもあるリクルート出身者の転職前後の年収の増減を、以前リクルートにいた際にウォッチしたことがあるのですが、20代ではリクルートから転職する際に年収がアップした人が多かったですが、30代になると逆に他社へ移るときに年収を下げている人が多い傾向がありました。大手からベンチャーへ移る際には500万円レベルで落として転職するケースも(私自身、リクルートから転職する際、年収は大幅減でした)。

これはもちろん、移る側の企業規模などにもよるところと思いますが、ミドル世代で年収を上げて転職するには、それなりの戦略が必要な気もしてきます。

■コモディティな価値だけでは戦えないこれからの労働市場

比較的以前から存在する職種の中で転職を考えると、たとえば「ビジネススクールを出てMBAをもっていて、ストラテジックコンサル会社でコンサルタント実績が何年あり…」という一見、バリューがありそうな経歴で高値がつくような気もしますが、実はこういった武器は広い視野でみるとコモディティ化していて、そんなに大きな価値にならないのではないでしょうか。

「ビジネススクールを出て戦略コンサルにいました、っていう人は世界に数千人いますよね。あと、例えるなら、これから電気自動車の時代だぞっていうときに、ハイオクガソリンを売ってるような感じになりかねないです」とは田端さんの弁。この考えには非常に同感です。コモディティ化した武器しかない人は、バリューアップに限界がきます。

ゴールド(金)の売り買いになぞらえるとわかりやすいかもしれません。ゴールドの“量(重さ)”に関しては、その時々の時価が定まっていて、市場の中で需要と供給が一致すれば売れるというだけのこと。しかし、金でできた“一品モノのアート”としての価値が出てくると、よりハイバリューを叩き出すことができます。20代、30代のほうが新しいことを吸収する能力もミドル世代より高いし、同じコモディティ価値しかなければ若いほうが採用されます。40オーバーの人材がバリューを上げていくには、コモディティ価値だけではない、芸術作品のそれのような、「わかる人にはわかる」高次元な相対取引の対象となるかが勝負です。

■芸術作品の価値を査定できる人と巡り合えればそれでいい

田端さんは「ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言」(幻冬舎)という書籍も執筆していて、唯一無二の芸術作品的なビジネスマンであることは周知の通りです。どんなマインドでこの唯一無二のバリューを身に付けてきたのでしょう。

「狙ってやってきたというわけではないですが、世界に数百万社も会社がある中で、0.01%の社長に好かれればいいや、と思って。それでも候補先は1000社もあります。1000社の社長に好かれれば、それこそ自分1人が採用してもらう企業候補としては十分すぎるわけです。選挙と一緒で、マイナスの票が入らない、っていうんでしょうか」(田端さん)。確かに、誰に目をかけてもらうのか、自分を高く評価してくれる人と巡り合う“身の置きよう”が重要なのは頷けます。八方美人になる必要はないのでしょう。

例えば田端さんのパーソナリティに関していえば、私が思うには失礼ながら“偽悪者”という感じで、みんなが指摘したくてもできない、裸の王様を見て「王様は裸だ」と言えないような場面できちんと「王様は裸だよ!」と言える人というイメージです。

“偽悪者”のような人の価値は、ほんとうにハイコンテクストなビジネスコミュニケーションを理解している人にしかわからないものです。目的の遂行のために敢えて厳しいジャッジや鋭く攻撃的な言葉を用いる人の価値や想いを正確に理解できるのは、非常に優秀なマネージメント層に限られます。

“偽悪者”の田端さんですが、実はいままでリアルに一緒に仕事をしてきた500人規模の人たちから、部下であっても匿名であっても、自分が悪く言われているケースを見たことがないといいます。やはり、ハイコンテクストな“裸の王様発信”なわけです。「どちらかというと愉快犯です。言っちゃダメと思いつつ、ついつい口から出ちゃうんです」と笑っていましたが、そんな田端さんのバリューを正しく評価できるような人は相当レベルが高い人であって、そういう人に高く買ってもらうことで田端さんのバリューはアップしてきたのではないでしょうか。

(明日②に続きます)

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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