芸能人の性加害が報じられたときに起こること
「週刊新潮」(9月1日秋初月増大号)で、俳優・香川照之氏が銀座のクラブで女性ホステスの体を触るなどの行為を行い、女性が行為を止めなかったクラブのママを訴える騒動になっていたと報道されている。
これまでも芸能人による性暴力・性犯罪はたびたび報道され、そのたびにネット上では被害者バッシングが行われ、ワイドショーなども面白おかしい「下半身スキャンダル」かのように取り上げることがあった。
今回の場合もネット上では心ない書き込みが多く行われてしまっている。性暴力の被害者バッシングは珍しくないが、芸能人が絡む場合に特に顕著となる。
近年のケースを振り返ってみたい。
●2016年、俳優が強姦致傷容疑で逮捕。その後被害者との間で示談が成立、不起訴となった事件
一部のスポーツ紙が被害者の体型や、その年齢には見えない印象だという「関係者」の証言を載せた。被害者のプライバシー保護の点からもあり得ないものであり、報道においてこのような描写が必要だったとは思えない。
また、加害を許してはいけないという論調も当然あったものの、あるワイドショーではコメンテーターのタレントが、俳優と共演経験のある女性タレントに対して「(俳優が女性タレントに好意を持っていたとされていたことから)ヤラせてもよかったんじゃないの」「お前が一番悪いのかなと思ったよ」と言い、笑いを取ろうとした。
このほかにも、加害者と被害者の年齢差に言及した上で「示談にしたれよ。その女、なんぼのもんやねん!」とツイートした作家もいた。
●2017年、俳優が未成年との飲酒・淫行を報道された事件
フライデーが報道。
コメンテーターとしても登場機会が多かった落語家がツイッター上で「ハニートラップ」の可能性に言及し、これに同調する声、俳優に同情する声が上がった。
「まだ推測の域だがもしも被害者女性が喜んで彼についていき、まさしくハニートラップで間で金儲けした奴がいたとしたら。淫行の罪は償わないといけないが人生を棒にふるような事ではない」(当時の落語家のツイート)
著名人の場合でもそうでなくても、このように「推測」で「ハニートラップ」や「枕営業」を言い立てる人がいることは、指摘しておかなければならない。
●2019年、俳優が強制性交で逮捕、その後懲役4年の実刑が確定した事件
被害に遭った女性が派遣型マッサージ店の従業員だった点について、夜中にひとりで家を訪れる仕事だからリスクがあるのは仕方ないといった声が上がった。
女性が働いていたマッサージ店は性的サービスを行う店ではないと報じられていたにもかかわらず、混同した言及も見られた。
●2021年、女性タレントが知人女性への強制わいせつ容疑で書類送検され、その後不起訴となった事件
週刊文春が報道した事件。
週刊誌のウェブサイトで連載するキャスターはコラム内で、女性タレントのインスタグラムに女性同士で手をつなぐ写真や詩的な文章があったことをわざわざピックアップし、被害者女性との間に特別な関係があったのではないかと推測するようなコメントを載せた。
今月(2022年8月)、被害女性側の弁護士が、タレントが女性に謝罪したことや、「仕事上の関係でしかなく、友人・恋人関係ではなかった」ことなどをタレント側も認めた上で和解したことを明らかにした。
キャスターがコラムで仄めかした推測は邪推でしかなかったが、被害者側がこのように発表しなければならなかった理由は、このような詮索が多かったからだろう。
「どんな場合でも、必ず被害者の落ち度が責められます」
被害者バッシングの度合いは有名人の知名度や好感度と比例するように見える。
香川照之氏は人気ドラマやNHKの教養番組にも出演し、活躍の幅が広い。また、東大出身で歌舞伎役者でもあるという経歴からその演技力や発信力に信頼を置かれる存在でもある。
報道が行われてから、ネット上では「なぜ3年前のことを今さら言うのか」「金目当て」といった内容が書き込まれている。
匿名の被害者よりも、馴染みのある俳優の方への思い入れが優ってしまうのが人間の心理なのかもしれないが、性被害者へのバッシングは過去から長く続いてきたことを振り返れば、軽はずみな投稿をする気にはならないはずだ。
「どんな場合でも、必ず被害者の落ち度が責められます」とは、1999年に当時府知事だった元タレント・故横山ノックから性暴力被害を受けた女性が、他の被害者に宛てた手紙の中の言葉だ。性暴力被害者に対するマスコミや世論による「私刑」が過去に行われてきたのは事実である。その状況を見て沈黙を選択せざるを得なかった被害者は無数にいるだろう。
性暴力について「女性はいくらでも嘘をつく」というような言説をいまだに言い立てる人がいるが、被害者側からしてみれば、被害直後のショックからすぐに警察などに相談できないことも多い。相手が有名人や権力を持つ人であればなおさらだ。
「性」が絡むと途端に強弱関係を逆転させて考えてしまう人は多い。暴力は権力勾配のあるもとで起こりやすいという基本に思い至らなければならない。
また、今回の事件で被害に遭った女性が「銀座のホステス」と報道されていることから、接客業ならばそういうものだという書き込みも見られる(香川照之「銀座クラブで性加害」報道に「逃げられたよね」「3年も前のこと」ファンの擁護が異常すぎる/FLASH/8月24日)。
有名人であれば何をしてもいいわけではないのと同じように、酒を伴う接客業であれば意に反することをされてもいいわけではないのは当然のことだ。
加害疑惑を報道された側を非難しろと言いたいわけではない。ネット上で何も発信しない選択肢は誰にでもある。過去の被害者バッシングから学び、繰り返さない社会に変わらなければいけない。
「週刊新潮」の書き振りにも疑問
一点つけ加えれば、「週刊新潮」(誌面)の記事にも違和感がある。3ページにわたる記事の割に情報量が少なく、直前に内容を変えたのではないかと思うほど、水増しのような文章が多い印象だ。
また、次のような文章も気になる。
香川氏の出演番組や出演CM、大学での専攻にかけた軽口が続く。
女性がPTSD(心的外傷後ストレス傷害)を負っているとも記事には書かれているが、そのような深刻な事態を伝える記事で、このような軽く見えるノリが果たして必要だったのだろうか。対象が著名人ではない場合に、このようなエンタメ風の書き振りにになるのか。疑問でしかない。
(記事内の写真は筆者撮影)