【エイジテック革命】第7回 自宅で手軽に受けられるシニア向けフィットネス・サービス
健康を維持していくためには、運動習慣を持ち続けることが大切です。しかし近年のコロナ禍に見られるように、一箇所に集って運動することが、逆リスクとなるケースもあります。さらに高齢となると運動の場所に赴くこと自体が物理的にも体力的にも困難になる場合もあるでしょう。
そうした場合にリモート環境で気軽にフィットネスや運動指導を得られるのは健康維持のためにも望ましいことです。オンラインによるフィットネスやダンス・サービスの提供は近年日本でも少しずつ生まれていますが、米国でも自転車型トレーニング機器やトレッドミルを利用するオンラインフィットネス「ペロトン(Peloton)」や鏡型のデバイスを利用する「ミラー(Mirror)」、パーソナルトレーニングアプリ「フューチャー(Future)」などが注目されています。しかしこれらサービスは本格トレーニングを志向する若者層が中心で、高齢者が受けるにはいささか負荷が高すぎます。米国ではこうしたシニア特有の身体状態などに配慮した独自のオンライン・フィットネス・サービスが登場しています。
2018年にカリフォルニア州オークランドで創業された”50代からの究極のフィットネスツール”を標榜する「ワイズフィット(Wysefit)」は、主に女性層を対象とするオンラインフィットネス・アプリです。
高齢者の運動能力を配慮し、バーピー(スクワット&ジャンプ)や腹筋など身体への負荷が強く、怪我をする可能性の高いプログラムなどは採用せず、穏やかに負荷をかけ、長期間続けられるようなプログラムを主に採用しています。
プログラムは、自宅で簡単にできるワークアウトやストレッチプログラムが中心です。また、ベリーダンスやフラダンスなど楽しめるプログラムも用意されています。高齢者に起こりがちな関節炎改善のためのストレッチ、筋肉をつけて腰痛を軽減するためのエクササイズなどのプログラムも医療専門家の監修の元に用意されています。
ワイズフィットのフィットネス・サービスはスマホやタブレットのアプリで提供されています。利用者はアプリをダウンロードし、利用したいコースと期間を選ぶだけで、プログラムを利用することができます。価格は内容によって異なりますが、最低月間8.99ドルからと極めて低価格に設定されています。
ワイズフィットのオンライン動画(提供:Wysefit)
最初にユーザーはオンライン上でフィットネス上の目標を設定します。ワイズフィットは、それに合わせたフィットネスプログラムを作成してくれます。そして次第にそのプログラムに慣れていくと、徐々にトレーニングの長さや強度を上げていってくれるのです。
また、プログラムは単にオンライン動画を提供するだけでなく、リアルなコーチとの1対1のアドバイスやライブコーチによる指導なども設けられています。さらに参加者同士のオンライン・コミュニティでの励ましやサポート、アドバイスなどを受けることも可能となっています。
2018年にカリフォルニア州ラホヤで創業した「スパイロ100(spiro100)」は、ワイズフィットのようなパーソナルトレーニングではなく、老人ホームやシニアコミュニティなどの多人数を対象としたオンラインプログラムを提供している企業です。
提供プログラムは、いずれもシニア・ウェルネスの専門家がデザインしたもので、全部で120以上のセッションが用意されています。
利用者は、利用者のレベル(立位、座位、補助)や、クラスのタイプ(マインド、ボディ、スピリット、メモリーケア)、ペース(ゆっくり、中くらい、速い)などをウェブサイト上から選択していくことで、最適なプログラムが提供されるようになっています。
毎月、新しいプログラムが追加されるので、飽きっぽい入居者でも新しいクラスを楽しむことができるようになっています。
また、こうしたプログラムとは別に用意されているのが、転倒防止に特化した「転倒防止アカデミー」です。スパイロ100認定マスターインストラクターが開発したトレーニングを受けることで、最初の90日間で転倒を30%も減少できることが、100以上のケア施設での転倒防止実績から明らかとなっています。
スパイロ100の紹介動画(提供:spiro100)
日本の場合、高齢者向けにリモートで提供されるプログラムとして、最初に想起されるのはNHK「ラジオ体操」でしょう。ラジオ体操の始まりは1928年のことで約90年の長い歴史を誇っています。そうした中で、朝起きたらまずラジオ体操を実践されている方も多いのではないかと思います。運動習慣を持ち、それを毎日続けることは、健康寿命を維持するためにも大切なことであると言えます。ただラジオ体操の場合は、マスメディアを通じての提供なのでどうしても内容が画一的になってしまいがちでもあります。ワイズフィットやスパイロ100の場合は、高齢者それぞれの体力やコンディション、運動タイプの関心に合わせたプログラム提供が可能になっています。こうしたシニア向け運動プログラムの潜在ニーズは日本においても高いのではないでしょうか。