プロだからこその道しるべ。村上穂乃佳を迷いから引き上げた吹越満の言葉
映画「誰かの花」など多くの作品で独特の存在感を見せる女優・村上穂乃佳さん(27)。多くのCMにも出演するなど多方面で注目を集めていますが、迷いの中にあった村上さんを引き上げてくれたのは名優の言葉だったといいます。
「やるべき」と「やりたい」
小学6年の時、原宿でスカウトされたのがきっかけでこの世界に入りました。
当時はハロプロが好きだったので「モーニング娘。」に入りたいという思いの方が強かったんですけど(笑)、ご縁があって女優の道を歩むことになりました。
ただ、もともと映画を見るのは好きで、学生時代から女優業をやっていく中で映画の成り立ちを垣間見ることができる。それを積み重ねることで「こんなに楽しいものなのか…」と思うようになっていったんです。
とはいえ、高校を卒業するタイミングになり、本当に人生の進路を考えないといけない状況になりました。
昔から看護師さんになるという思いもあったので、その方面に進学することも考えたんですけど、結局選んだのはこの仕事でした。「自分に嘘をつきたくない」。その思いが一番大きかったと思います。
看護師はあこがれの職業であったんですけど、それは「やりたい」というよりも安定や人生設計を考えた時に「やるべき」仕事だったのかなと。でも、本当に「やりたい」となると今の仕事が頭に浮かんできたんです。
転機を呼んだ言葉
一方で「やりたい」ことを仕事にしたがゆえの葛藤も感じました。好きなことなのに思うようにいかない。そうなると、一転して好きだったはずのものが嫌いになっていく。
「やりたい」ことだからこそのモチベーションの保ち方というか、単純に「好き」だけでは収拾がつかなくなる思いとも向き合うことになりました。
その中でどう自分を維持するのか。ただ、結局そこを維持できたのも「好き」という感情でした。
役を通じていろいろな人生と向き合う。その体験をもっともっとやっていきたい。シンプルなその思いがモチベーションになっていく。それもリアルに感じてきました。
そんな中でも、特に大きな経験をさせてもらったのが、2017年に上演された「相談者たち」という舞台でした。
私の父親役をされていた主演の吹越満さんから言葉をいただいたんです。けいこ期間だったんですけど、芝居を一緒にしていくうちに私の悪いクセを見抜いてくださったというか。
「あなたの感情は全てが“泣き”の方に寄っている」
その言葉をもらった時に、ハッとしました。なんとなく悩んではいたけどハッキリ捉えきれない。そこを吹越さんが指摘してくださったというか。自分の中でどうにかした方がいいと漠然と思うけれど、何が悪くて、何をどうしたらいいのか。それは分からない。そんな領域をズバッと突いてくださったといいますか。
感覚的な話になってしまうんですけど、私は自分の得意な感情、楽な感情に近づけて芝居をしようとしていたんだと思います。喜怒哀楽でいうと哀に近づけて芝居をする。それが得意で、そこばかりに偏っている。逆にいうと、得意な芝居の幅が狭い。
うっすらと自分でも「なにか違うんじゃないか」と思っていたところのど真ん中を指摘していただいた。これは本当に大きな経験でした。
日々の生活の感情も抑えた形で生きているし、それがお芝居にも影響しているのでは。自分でもそんな感覚はあったんですけど、やっぱりそうなんだと。それ以来、いろいろなことが変わっていったと思います。
そこからは生活でも喜怒哀楽をしっかり出す。そこを自然と意識するようになったと思います。
本当に細かいことですけど(笑)、例えば、レストランでコースのお料理を食べていたとして、本当だったら4品目に来るはずの料理がまだ来ていないのに5品目が運ばれてきた。今までの自分だったら「…ま、いいか」と思って何も言わなかったと思うんですけど、今は「まだこのお料理が来てないんですけど」と言うようになりました。
このお話自体は本当に小さなことかもしれませんけど、そうやって全ての局面で意思表示をする。気持ちを外に出す。その積み重ねがきっとお芝居にも生きてくる。吹越さんから言葉をいただいてから、その感覚が身についたと思っています。
そうやって一つ一つ積み重ねていって、30歳を迎えるころには「村上穂乃佳と言えば、こんな女優」というイメージを皆さんに持っていただけるような存在になっていたいです。
そう思ってもらうためには、いろいろなお仕事をしないといけないし、その中でしっかり自分を表現しないといけない。なんだか漠然とした話で申し訳ないですけど(笑)、そんな30歳に近づけるよう、頑張っていきたいと思います。
(撮影・中西正男)
■村上穂乃佳(むらかみ・ほのか)
1995年7月5日生まれ。愛媛県出身。UNBLINK所属。映画「誰かの花」などに出演。「大和ハウス」「損保ジャパン」などのCMにも出演している。