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乾癬治療の新時代:バイオシミラーの効果と安全性、医療費削減の可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【バイオシミラーとは?乾癬治療における役割】

バイオシミラーという言葉をご存知でしょうか?これは、特許が切れた生物学的製剤(バイオ医薬品)の後続品のことを指します。近年、乾癬治療においてバイオシミラーが注目を集めています。

乾癬は、赤く盛り上がった皮疹や厚い鱗屑(りんせつ)を特徴とする慢性の炎症性皮膚疾患です。世界中で約1億2500万人、日本国内では約43万人が罹患していると言われています。

従来の治療法では十分な効果が得られない中等症から重症の乾癬患者さんに対して、生物学的製剤が画期的な治療効果をもたらしました。しかし、その高額な治療費が問題となっていました。

そこで登場したのがバイオシミラーです。バイオシミラーは、先行バイオ医薬品(オリジナル製剤)と同等の品質、安全性、有効性を持つよう開発された医薬品です。製造コストを抑えることで、より安価に提供することができます。

【バイオシミラーの効果と安全性:臨床試験から見えてくるもの】

では、バイオシミラーは本当にオリジナル製剤と同等の効果があるのでしょうか?複数の臨床試験がその答えを示しています。

例えば、アダリムマブというTNF阻害薬のバイオシミラーでは、中等症から重症の乾癬患者さんを対象とした第III相試験において、オリジナル製剤と同等の有効性と安全性が確認されました。

また、エタネルセプトやインフリキシマブなど、他のTNF阻害薬のバイオシミラーでも同様の結果が得られています。これらの試験結果は、バイオシミラーがオリジナル製剤と遜色ない治療効果を持つことを示しています。

安全性に関しても、副作用の発現率や種類がオリジナル製剤と同程度であることが確認されています。感染症や注射部位反応などの副作用についても、特に大きな差は見られていません。

バイオシミラーの登場により、より多くの乾癬患者さんが高度な治療を受けられるようになる可能性があります。ただし、個々の患者さんの状態に応じて、適切な治療法を選択することが重要です。

【バイオシミラーがもたらす経済効果:医療費削減の実態】

バイオシミラーの最大の利点は、医療費の削減効果です。アメリカの退役軍人健康管理局(VA)の事例を見てみましょう。

2023年、VAはバイオシミラーの使用により、約6710万ドル(約100億円)のコスト削減を達成しました。このうち、乾癬治療にも使用されるインフリキシマブのバイオシミラー1製品だけで、約2858万ドル(約43億円)の削減効果がありました。

日本においても、バイオシミラーの普及により医療費の削減が期待されています。乾癬は慢性疾患であるため、長期的な治療が必要です。そのため、少しでも治療費を抑えられることは、患者さんにとっても、医療保険制度にとっても大きなメリットとなります。

バイオシミラーの使用により、より多くの患者さんが生物学的製剤による治療を受けられるようになる可能性があります。これは、中等症から重症の乾癬患者さんの生活の質を大きく向上させる可能性を秘めています。

ただし、バイオシミラーの使用には課題もあります。患者さんや医療従事者の中には、効果や安全性に不安を感じる方もいます。また、オリジナル製剤からバイオシミラーへの切り替えに関する懸念もあります。

これらの課題を解決するためには、バイオシミラーに関する正確な情報提供と教育が不可欠です。医療従事者向けの研修プログラムや、患者さん向けの分かりやすい説明資料の作成などが求められています。

バイオシミラーは、乾癬治療に新たな可能性をもたらしています。効果と安全性を維持しながら、治療へのアクセスを向上させ、医療費の削減にも貢献する可能性を秘めています。今後、さらなる研究と実績の積み重ねにより、バイオシミラーの役割がより一層重要になっていくことでしょう。

参考文献:

1. Reese R, et al. A review of biosimilars in psoriasis: impacts on efficacy, safety, access, and a first-hand look at biosimilar cost savings within the department of veterans affairs. Journal of Dermatological Treatment. 2024;35(1):2402912.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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