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「待機児童ゼロ」でも保育園に入れないのはなぜか

普光院亜紀保育園を考える親の会アドバイザー/ジャーナリスト
(写真:rammy2/イメージマート)

前年度から半減

2021年4月現在での全国の認可保育園等の待機児童数は5,634人と発表された。この数字は2020年の12,439人の半分以下ということになる。これを見て「保育園不足は解消した」という見方も出てくるだろうが、真に受けてよいのだろうか。

そもそも待機児童数とはなんだろう。

世間一般では、「認可保育園等に申し込んで入れていない子どもの数」と理解されていると思うが、実はそうではない。そのため、「待機児童ゼロ」を宣言した自治体でも、認可保育園等に入園申込みをして入れていない子どもは多く存在している(ここでいう認可保育園等とは認可の保育施設、つまり認可保育園<保育所>、認定こども園、小規模保育、家庭的保育など市町村に入園手続きをする施設のことを指す)。

実は、2021年4月の全国の「認可保育園等に申し込んで入れなかった子どもの数」は、86,095人に上っている。待機児童数の15.3倍だ。この差がなぜ生じるのか。理由は次のグラフを見ていただきたい。2015年と直近の2年分を示した。

各年度「保育所等関連状況とりまとめ」(厚生労働省)から普光院が作成
各年度「保育所等関連状況とりまとめ」(厚生労働省)から普光院が作成

「待機児童ゼロ」のからくり

グラフの横棒の長さは「認可保育園等に申し込んで入れなかった子どもの数」を表している。このうち、待機児童数にカウントされているのはごく一部である。しかも、年々その比率は下がっている。2021年度は全体の数も減少しているが、2015年度と2020年度を比べると、「入れていない数」は増えているのに、待機児童数は減っているというマジックが起こっていることがわかる。

差し引かれている数字の内容を少し詳しく見てみよう。

認可保育園等の「不承諾通知」(入園できないという通知、保留通知)を受け取っても、認可外の企業主導型保育(a)や、自治体が独自に助成する認可外保育施設(b)に入れていれば、待機児童数から除外される。通えると判断された認可・認可外保育施設を自治体から案内されて断っても(d)除外される。再就職を希望しているがハローワークに通うなどの活動をしていなければ(e)除外される。

cについては、育児休業の延長に必要な「不承諾通知」を得るために申込みをした人も含まれており、これが除外されるのはやむをえないとしても、その他の項目は利用者視点からは不条理だ。自治体が助成する認可外保育施設や企業主導型保育は待機児童対策として行われているのだから、これらを利用できている子どもを待機児童数から除外してもよいと考えたい気持ちはわかるが、除外されているのは、認可保育園等を希望して自治体に申込みをした人たちであることを忘れてはいけない。認可の保育施設は、国の基準に基づき自治体の責任で整備するもので、ほとんどの家庭が認可の保育を求めて保活をしている。

石原都知事(当時)が認証保育所(東京都の認可外助成制度)をつくった2001年に、国のカウント方法が変更され、以来、差し引く数字は少しずつ増やされてきた。その背景には政治がある。「待機児童ゼロ」が選挙の公約になり、「ゼロ」という目標を達成することが国でも自治体でも至上命令となった。もちろん、そのおかげで、この10年間ほどで待機児童対策が強力に推し進められ、「入れない子ども」を減らすことができていることは確かだ。

しかし、無理やり「ゼロ」にしても、その結果、見るべきニーズを見落としてしまうこともある。利用者の立場からは、ありのままの数字を掲げてくれたほうがありがたい。ありのままの数字を出した上で、「育児休業を延長したくて不承諾通知をもらった人が何人いた」、「自治体や企業主導型の助成金を受ける認可外保育施設でお世話になれた人が何人いた」と説明すればよいのではないか。それによって、地域ごとに必要な施策が明確になる。「ゼロ」は美しいが、多くの場合、そこには入れなかった家庭の苦しみが隠されている。

入園事情は改善しているが十分ではない

このほど保育園を考える親の会は、年次調査である「100都市保育力充実度チェック」2021年度版を発表した。会では、国の待機児童数調査ではわからない入園状況を調べるため、入園決定率という数字を調べている。首都圏と指定都市の主要100自治体について、認可保育園等の新規の入園申込者数と入園者数を回答してもらって算出する単純な数字で、認可に申し込んだ人の何パーセントが認可に入園できたかという比率を表している。

入園決定率100市区平均は、2010年に66.3%という調査開始以来最低の数字を記録したが、徐々に改善し、2021年度は80.8%と初めて8割を超えた。認可保育園等の入園事情は、実際に改善しているといえる。

しかし、入園決定率も待機児童数も4月時点での数字である。4月は卒園と進級があり、保育園の園児募集数が年間で最も多くなる。そして、年度途中には入れない子どもの待機がだんだんにふえていく。子どもは年間を通して生まれるし、親子の健康状態や仕事の都合、その他の事情から家庭が入園を希望する時期はさまざまになる。年度途中で抜き差しならない事情から保育が必要になる場合もある。そう考えると、保育園はいつでも入れるようであってほしい。

10月調査は復活を

こういった年度途中の状態を把握するために国が行ってきた10月1日時点での待機児童数調査には大きな意味があった。ところが、令和3年度「地方分権改革に関する提案募集」で、指定都市市長会からの提案があり、調査は廃止されることになった。

理由は、調査のために多大な作業が必要となっており、自治体、事業者、保護者への負担になっているという。つまり、「差し引く数字」を算出するための作業が大変だということだ。認可に入れなかった子どもが利用する認可外保育施設を調べたり、保護者に希望していないが空きがある施設を案内して入園意向を聞いたり、求職活動をしているかどうか確認したりしなければならない。しかし、利用者からすれば、そんな作業のために年度途中の調査が放棄されるのは納得がいかない。

そこで、きわめてシンプルな方法を提案したい。自治体に提出される認可への入園申込の数と、実際に認可に入園した数を調べ、その差を算出する。これは、4月の待機児童数とはかけ離れた数字になる。それが困るというのであれば、10月の調査は「保留児童数簡易調査」と名称を変えてもかまわない。地域の子育て支援を本気でするつもりがあるのであれば必要な調査であるし、国がとりまとめて公表することで、国民の知る権利が保障される。

量から質へ転換も視野に

「待機児童数ゼロ」という錦の御旗は、保育の質に悪影響を与える場面もあった。たとえば、定員を超えて子どもを受け入れることを認めた規制緩和、国の面積基準を一時的に下回ることを認めた規制緩和、保育士の配置基準の改善の保留など。その結果、保育士の負担が重くなり、コロナ禍では感染防止対策に悪影響を与えている。

これから本当に、待機児童数が大幅改善していくのであれば、そこに費やしてきた力を保育の質の確保・向上に向けていかなければならない。

保育園を考える親の会アドバイザー/ジャーナリスト

保育制度、保育の質の問題に詳しい。保育園を考える親の会アドバイザーとして、働く親同士の交流・情報交換の場を支え、保育に関する相談にも応じながら、ジャーナリストとして保育や両立に関する執筆・講演活動を行っている。大学講師(児童福祉・子育て支援)、国・自治体の委員会委員も務める。最新刊は「不適切保育はなぜ起こるのか」(岩波新書)。ほかに、『共働き子育て入門』(集英社)、『変わる保育園』(岩波書店)、『保育園のちから』(PHP研究所)、『共働きを成功させる5つの鉄則』(集英社)、『保育園は誰のもの』(岩波書店)、『後悔しない保育園・こども園の選び方』(ひとなる書房)など多数。

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