消費増税に対する浜田氏の意見
安倍首相は消費増税についての最終判断は10月1日に発表される日銀短観を確認してから行うとか。何のために60人もの有識者を集めて会合を行ったのか、との疑問はさておき、この会合は消費増税に関して、有識者と呼ばれる人達がどのような認識を持っているのかを確認する上でも、貴重な機会であったのかもしれない。
各参加者の用意した資料とともに、どのような議論が交わされていたのかも議事要旨から確認できる。今回はそのなかで、消費増税反対の急先鋒といえる浜田宏一内閣官房参与のコメントから見て見たい。
増税の反対理由として、「税率を上げても、それが国民所得を減らすような形で働く状況では何の役にも立たず、国民に負担がかかるだけである。 」と指摘していた。これは長らく議論されていたものであり、これまで消費税引き上げが先送りされた大きな理由であると思われる。
そして「次に先日発表された第1四半期の4-6月期のGDPの伸びは十分な力が不足している。」としている。
9月9日に発表されるGDP改定値では、8月発表の速報値から大きく上方修正され、民間調査機関10社がまとめた予測の平均は前期比年率換算で実質3.8%増と速報値(2.6%増)を上回るとされている(日経新聞)。これは2日に発表された4~6月期の法人企業統計でGDP改定値を算出する基礎となる季節調整済みのソフトウエアを除く全産業の設備投資額が予想以上に増加したためである。ところがこのあとのコメントをみると、浜田氏は設備投資の伸び悩みを指摘している(たぶん製造業の伸び悩みの指摘だとは思うが)。
「今、潜在成長率は、日本経済の成長できる天井のようなところで、そこに向けて一生懸命アベノミクスの一の矢で日本経済を天井まで持っていこうと努力している。それで、雇用も改善している。 しかし、まだGDPギャップが2%ぐらいは存在するので、設備が余っている。設備が余っているところに投資が大きく生まれるはずがない。」
日銀が国債を大量に買い込むことで、どのようにして潜在成長率を引き上げることができるのか。そこには期待という魔法の効果が存在するのであれば、人々の消費意欲だけでなく企業の投資意欲も引き上げて設備投資も自然に伸びていくというのが、リフレ派の発想ではなかったろうか。もちろんその効果はあるが、それでも時間が掛かるために、増税は時期尚早との指摘のようである。しかし、本当に魔法の効果は現れてくるのであろうか。
この増税反対意見に対しては、中空麻奈氏が「最近、消費税率の増税の方ばかりに目が行き過ぎているかと思う。消費増税はあくまでも社会保障との一体改革と理解しているので、やはり両輪で考えないとそれは違うのではないかというのがベーシックなところである。 」と指摘している。これが正論のように思う。
消費増税に反対しているのは浜田・本田両官房参与を筆頭とするいわゆるリフレ派である。黒田日銀総裁は増税賛成派であり、日銀としてはそのようにまとまっているように見えるが、過去の岩田副総裁の発言等からは岩田副総裁は本音では増税に反対しているのではないかとも推測される。読売新聞の社説でも増税反対との意見が出され、政治に影響力を持つある人物の影も見え隠れする。
アベノミクスはリフレ派の主張をほぼ100%取り入れた政策であった。それが円安株高を招いたとして安倍政権の支持率を押し上げた。このため消費増税の行方についてもリフレ派の主張をある程度尊重さぜるを得ないために、結論をぎりぎりまで先送りしているように思える。
ここで最も問題となるのは、そのリフレ派の政策は本当に正しいものであったのかという点である。さらに過去のリフレ派の主張には、財政規律については蔑ろにしている面が多分にあった。消費増税の扱いも同様といえる。もし消費増税が先送りされるとなれば、4月4日の異次元緩和とともに財政規律に対する懸念がリスクとして浮かび上がってくる可能性がある。これが最も重要な問題点となる。