金正恩氏が「ギター弾き語り」で伝えたいこと
金正恩第1書記は、やっぱり型破りな指導者だ。もちろん良くない意味でだ。
金正恩氏が、2013年に張成沢(チャン・ソンテク)氏を処刑したのを皮切りに、気に入らない幹部、そしてスキャンダルの疑いを持たれた芸術関係者まで、片っ端から粛清・処刑したことは既に知られている。
(参考記事:北朝鮮、スパイ容疑の芸術関係者を「機関銃で粉々に」)
こうした残忍な性格だけでなく、正恩氏の勝手気ままな振る舞いに指導層も困り果てている。
北朝鮮では金日成氏、正日氏と最高指導者の服装やヘア・スタイルを真似るのはある種の慣例だった。「覇気ヘア」と呼ばれる正恩氏のあの特徴的なヘア・スタイルも、青少年に半ば強制されている。もちろん、あそこまでの極端な刈り上げではないが、理髪店に行くと、何も言わなくても勝手に覇気ヘアにされるという。そうかと思えば、「俺の真似するな」という指示を下し、「極太ズボンを履くな!」とブチ切れる。
(参考記事:北朝鮮「男は黙って覇気ヘア」逆らえば「無慈悲にバリカン虎刈り」)
(参考記事:金正恩氏「俺のマネ禁止令」を下す…「同じズボンを履くな!」)
このように、やりたい放題の金正恩氏は、火気厳禁の工場での「歩きタバコの現地指導」で、北朝鮮の年配の男性から顰蹙を買っている。自己顕示欲の強い彼からすれば「最高指導者たる者は誰の前でもどこの場所でもタバコを吸える」といったところか。もちろん、正恩氏の「歩きタバコの現地指導」は、単に印象が悪いだけでなく北朝鮮の法律に違反している可能性がある。
(参考記事:金正恩氏が北朝鮮で「消防法違反」の疑い)
現地指導では、突拍子もない行動で護衛部隊を困らせている金正恩氏が、夜中にこっそり専用ベンツに乗って平壌市内をドライブしているという噂まで広がっている。正恩氏の真夜中のドライブを、護衛部隊が制止できるはずもなく、本人に知られないようにこっそりと、後を付けて護衛しているかもしれない。
(参考記事:金正恩氏、もう一つの顔は深夜の走り屋)
そんな金正恩氏が、今度は人民の前でギターの弾き語りを披露した。さらに、その様子を北朝鮮の国営メディア「労働新聞」がわざわざ紙面を割いて、「金正恩氏のギター弾き語り」を紹介した。そこで歌ったのは故金正日総書記のお気に入りの歌だったという。
(参考記事:金正恩氏、「同志愛の歌」をギターで弾き語り)
国家元首が「ギター弾き語り」を披露する例など、あまり聞いたことがない。確かに、金正恩氏は、モランボン楽団やチョンボン楽団などの、お抱え楽団を作り音楽に対して相当なコダワリを持っているが、ギターの弾き語りをするとは意外だ。
さらに、その歌唱力と腕前を人民の前で披露するからには、相当な自信を持っているようだ。いずれ「最高尊厳(=金正恩氏)のリサイタル」でも開くつもりなのだろうか。
あらゆる面で型破りな金正恩氏だが、結局は自分のテリトリーだけで好き勝手振る舞えるに過ぎない。国際社会だけでなく、北朝鮮国内でも金正恩氏はどんどん「裸の王様」になりつつある。