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国債発行額が予定より上振れしている理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 11月22日に開催された国債市場特別参加者会合の議事要旨が財務省のサイトにアップされた。内容その1は「平成30年度国債発行計画について」となっていた。

 ここではまず、10月18日に開催された「国の債務管理の在り方に関する懇談会」での議論の紹介があった。ここでは、「中長期的な需給動向を分析し、供給側では近年、低金利環境の下で、将来の金利上昇リスクを抑制するため、短中期債の発行額を減額し、超長期債の発行額の増額を行ってきた」とあった。

 そして「近年、銀行が国債保有残高を減少させてきた一方、生命保険会社は超長期債の保有残高を増加させてきたことが、結果として、供給側の超長期債の残高の顕著な増加等と整合していたが、今後この構図が変化する可能性がある」との財務省からの指摘があった。

 国債市場特別参加者会合の議事要旨では「年限別の需要動向については、意見が分かれた。人口動態の変化に伴う投資家の需要変化の可能性等を踏まえ、超長期債を増額し中・短期債を減額してきた従来方針を見直す必要を指摘する見解が出された一方、超長期債への継続的な需要の存在や債務の長期化を継続する意義を指摘する意見もあった」とされているが、要するに今後は「短中期債の発行額を減額し、超長期債の発行額の増額」としていた方針にブレーキを掛ける必要があるとの認識であると思われる。

 これについて国債市場特別参加者会合のメンバーからいろいろと意見が出されていた。財務省としては30年と40年の発行額の減額を意識しているとみられ、参加メンバーからも同意する意見が多くみられていた。

 さらに平成30年度国債発行計画の策定に当たって留意すべき点として以下の指摘が財務省から指摘されていた。

 「通常の入札による国債発行分を示す「カレンダーベース市中発行額」が2.7兆円上振れており、これが、結果として、「年度間調整分」の下振れ、すなわち前倒債の発行増の要因となっている。これは、カレンダーベース市中発行額を額面での発行を前提として積算してきたことによるもの。30年度計画においては、見積もりの適正化の観点から、オーバーパー発行となる分を見込んでカレンダーベース市中発行額を積算し、収入実績の上振れを抑制することが必要」

 これは何を指摘しているのかといえば、カレンダーベースの国債発行額が、当初見込んでいた金額より上振れしていたということを示している。カレンダーベースの発行額とは何ぞやとなるとさらに説明が必要だが、とにかくも入札によって発行される今年度の国債の額が当初見込みを2.7兆円上回ってしまっているということである。

 国債発行計画の見積もりは実質的には額面ベースで行っているが、実際の発行金額は落札価格によって異なってくる。もし発行価格が額面を上回ればその分、当初計画の発行金額を上回ることになる。日銀の異次元緩和による日銀の大量の国債買入やイールドカーブコントロールによって、オーバーパー、つまり額面を上回る発行が多くなっている。10年国債でみると2015年10月以降は額面を超える価格で応札されている。その分が、2.7兆円の上振れとなっているのである。

 この分は当初予定外の分であるために、前倒債の発行増として処理されるが、予想外の前倒し債の発行増となってしまうことになる。これを避けるために、「オーバーパー発行となる分を見込んでカレンダーベース市中発行額を積算」する必要性があるとしているのである。

 利付国債の最低利率が0.1%であることで、日銀のイールドカーブコントロールによって10年債利回りが0.1%以下に抑制されており、それにより必然的に10年債の価格が100円を超えてしまうことなどを想定して、市中発行額を積算する必要があるとの指摘であろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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