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米国内で日々高まる「朝鮮半島クライシス」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
昨年3月9日に北朝鮮から発射されたミサイル6連発(労働新聞から)

 筆者は韓国で政権が交代し、保守の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が発足した2021年、「戦争勃発に向けて時計の針が動いた」と予感していた。そして、今年の元旦には「金総書記の『南北断絶』宣言で軍事衝突に向け針がまた動いた!」との見出しの記事を掲載し、「どう転んでも今年は朝鮮半島にとって最悪の年になりそうな気がしてならない」と、予言した。

(参考資料:金総書記の「南北断絶」宣言で軍事衝突に向け針がまた動いた!)

 その理由についてはすでに何度も記しているのでここではあえて書き並べるつもりはないが、ここ10日の間に米国の専門家の間で急速に朝鮮半島での軍事衝突、戦争の可能性が論じられ、またメディアでも取り上げられ始めた。

 口火を切ったのはクリントン政権時代の1990年に米国の対北核交渉担当官だったロバート・ガルーチ米ジョージタウン大学名誉教授で、1月11日に外交・安保専門誌「ナショナルインタレスト」に寄稿した文で「2024年東アジアで核戦争が起きるかもしれないとの考えを最小限、念頭に置く必要がある」として、中国の台湾進攻と北朝鮮の対韓攻撃との連動性を指摘していた。

 同じ日に今度は、米ミドルベリー国際研究所のロバート・カーリン研究員とスタンフォード大学のジークフリード・ヘッカー博士が北朝鮮専門メディア「38ノース」に共同で「朝鮮半島の状況は1950年6月初め以来、最も危険だ」と寄稿し、火に油を注いだ。

 北朝鮮ミサイル・核問題の専門家として知られている両人は「あまりにも衝撃的に聞こえるかもしれない」と前置きし、「我々は金正恩の祖父が1950年にそうしたように金正恩が戦争をする戦略的決断を下したとみている」と述べ、「金正恩がいつ、どのように引き金を引くかは分からない」としながらも「戦争の危険性は米国と韓国などが日常的に行ってきた警告をはるかに越えるレベルだ」と事態を深刻に憂慮していた。

 極めつけは2017年まで米国務省東アジア次官補を務めたダニエル・ラッセル氏の発言である。

 米シンクタンク・アジアソサエティの副会長でもあるダニエル・ラッセル氏は昨日(25日))開かれたアジアソサエティのフォーラムで「金正恩は2010年の延坪島砲撃を超える攻撃をする意図があるようにみえる」と予測し、「我々は金正恩が衝撃的に物理的攻撃を行う可能性に備えるべきだ」と警告を発していた。

 フォーラムにはホワイトハウスのジョン・カービ戦略広報調整官も出席していたが、「金正恩は核使用及び戦争威嚇を実際に行動で示すと思うか」との出席者の質問に「我々は金正恩の修辞を深刻に受け止めている。北朝鮮は非常に否定的な歩みを続けている」と答えていた。

 この他にも国家安全保障会議(NSC)でアジア部長をしていた米国際戦略問題研究所のビクター・チャー研究員も「金正恩は軽率な行動をした場合、米国の対応を抑制できる自らの能力に確信を持っているとは思えないが、全面戦争まではいかなくても(金正恩には)軍事的緊張を高める幾つもの段階がある」と発言していた。

 米国内で高まる「朝鮮半島クライシス」について昨日(25日付)の米紙「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)は複数の当局者の話として「北朝鮮、今後数か月内に韓国に致命的な軍事行動の可能性」と報じていた。

 英国の時事週刊誌「エコノミスト」は18日、オンラインに「戦争の噂はあまりにも誇張している」との見出しの記事を載せ「いかに金正恩の戦争能力が高まったとしてもまた韓国に対する態度が強硬になったとしても、どちらも金正恩が戦争を望んでいることにはならない」と分析し、冷静を保つよう呼び掛けていた。

 同誌の記事で最も興味を引いたのは「尹錫悦大統領が『北朝鮮が挑発すれば、何倍も懲罰する』と発言したことだ。南侵に関する金正恩のキツイ言葉よりもこうした過剰反応で戦争が始まる可能性の方が大きいことだ」と指摘していたことだ。

 北朝鮮が韓国に致命的な軍事行動を起こす可能性が「今後数か月内にある」との理由について「NYT」は具体的には触れていなかったが、3月には史上最大規模の米韓合同軍事演習が予定されている。

 また、脱北団体による対北宣伝ビラの散布も始まる。検討中にある韓国軍による拡声器放送も再開されるかもしれない。5月になると、西海(黄海)の北方限界線(NLL)付近でワタリガニ漁が始まる。ワタリガニ漁を巡っては南北の警備艦による衝突が過去4度もあった。

 さらに、南北軍事合意が破棄されたことで無人機による偵察活動や軍事境界線(MDL)5km内での砲兵射撃訓練及び連隊級以上の野外機動訓練なども可能になった。従って、こうしたことを口実に米国の専門家らは北朝鮮が軍事行動を起こしかねないとみているようだ。

 ちなみに北朝鮮による「延坪島砲撃事件」は韓国の海兵隊が延坪島で6門の155mm自走榴弾砲のうち4門を動員して月に一度の陸海合同射撃訓練を行っていた最中に北朝鮮人民軍が対岸の島から延坪島に向け砲弾約170発を発射、そのうち80発が同島に着弾し、韓国の海兵隊員と民間人それぞれ2人が死亡し、海兵隊員16人が重軽傷を負った2010年11月に発生した事件のことである。

(参考資料:昨年は北朝鮮のミサイル発射で、今年は韓国の軍事演習で1年が始まった!南北の対立は「最後まで行く」?)

(参考資料:「金政権を終焉させる」「尹政権を全滅させる」と好戦的な発言を繰り返す南北首脳は「一卵性双生児]?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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