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時代の変化でギャグの手数が減る中、吉本新喜劇座長・吉田裕が見据える「チャンス」とは

中西正男芸能記者
65周年を迎えた吉本新喜劇の座長として、今の思いを語る吉田裕さん

 “乳首ドリル”で一躍人気者となり、2023年に吉本新喜劇の座長に就任した吉田裕さん(45)。見た目をイジるギャグや強いツッコミなど新喜劇で定番だったムーブが時代の変化とともに使いづらくなる。ピンチにも思える状況ですが「むしろ、今がチャンスだと思っています」と言葉に力を込めます。世の中が変わろうともブレることのない新喜劇の根っことは。

「満足してもらう」しかない重圧

 今、新喜劇の65周年ツアーで全国をまわっています。55周年、60周年の時は一人の座員としてでしたけど、今回は座長として参加させてもらっています。

 座員の時ももちろん力いっぱいやらせてもらっていたんですけど、なんというのか、座長になると、積み重ねの重みをより一層感じるようになりましたね。

 この前は山梨公演だったんですけど、普段新喜劇をナマで見ることが少ない地域にも行かせてもらいます。常にお客さんに喜んでいただかないといけないんですけど、新喜劇を初めてご覧になる方が多ければ多いほど、絶対に楽しんでもらわないといけない。その一回が新喜劇の印象、評価になりますから。

 しかも、今回は65周年の全国ツアーです。「それだけ続いている吉本新喜劇とは、どういうものなんだ」とハードルも上がった上での公演です。

 その責任を負う立場に居させてもらっている。これは本当にありがたいことです。それと同時にね、正直な話、ものすごい重圧でもあります(笑)。ただウケるだけではなく「次は大阪まで行ってなんばグランド花月の新喜劇を見てみたい!」というところまでお客さんの気持ちを盛り上げる。

 簡単な役目ではないです。ただ、これまでの座長さんがやってこられたから65周年があるわけで。次にバトンを渡すためにも、日々満足していただくしかないんです。光栄なことだとも思います。それでも、大変ではありますけど(笑)。

時代の変化と新喜劇

 そして、急速に世の中が変わっていく中、新喜劇でのいろいろな描き方も実は変わっています。新喜劇って“借金取り”がよく出てくるんです。誰かがトラブルを起こして、実はお金を借りていた。それをガラの悪い兄ちゃんが取りに来る。この流れが多いんですけど、このあたりのニュアンスもね、難しくなっています。

 僕も“借金取り”役で出してもらうことが以前から多くて、そこにすっちーさんが乳首ドリルで対抗するという流れで多くの方に知っていただきました。なので、そこのど真ん中でやってきた者でもあるんですけど、少し前まではしっかりと荒くれものという感じでやっていました。

 強引に力づくで取り立てる。完全にアウトローな存在。そんなトーンも普通に出していましたけど、今はそうはいかない。法律的なところで「え、こんなことをしてもいいの?」とお客さんが違和感を覚えるし、そうなったら、もう笑いが成立しない。

 今は「お金を返してもらいに来たちょっと派手な格好のお兄ちゃん」くらいのトーンでやらないと成立しなくなっています。時代が変われば、人の感覚も変わる。そうなると、笑いの形も細かく変えないといけない。それは痛感しています。

 あと、見た目をギャグにする流れもずっと新喜劇にありました。池乃めだかさんしかり、島田一の介さんしかり。ただ、そこで使うワードも細かく考えるようになっています。ストレートに「チビ」「ハゲ」ではなく、そこから面白さを感じてもらうにしても、言葉遣いは繊細にやっているつもりです。

 舞台の上のみならず、今やらせてもらっている立場もありますし、普段から言葉の使い方を気にするようになってますね。自分もSNSをやっていますけど、ツッコミのつもりで書いた言葉でも文字だけなので思いもよらぬ受け取り方をされるかもしれない。日ごろの生活から、敏感にはなっていると思います。

チャンス

 今まで新喜劇で当たり前に使っていたものが使えなくなる。それってマイナスにとらえられがちなのかもしれませんけど、僕は決してそうは思っていないんです。

 もちろん、新喜劇ってギャグもあるし、見た目の個性を生かしたムーブもあるんです。でも、幹は芝居です。

 芝居の力で笑いを取る。芝居の力で満足していただく。それが基本です。幸い、新喜劇には達者な人がそろってますので、単発ギャグではなくそこを軸に笑いを作る流れになっても十二分に何でもできる。

 そこをおろそかにしていないからこそ65年続いているということもあるでしょうし、実は吉本新喜劇の真価というか、それを知ってもらうチャンスだとも考えているんです。

 昔は新喜劇と言えば大阪のもので、なかなか東京には届かない。テレビ放送もされない。そういう事実もありました。

 でも、今はスマートフォン一台あれば、TVerでどこでも新喜劇を見ることができますし、NETFLIXのような動画配信サービスにも入っています。今に至るまで放送していただいている毎日放送さんはもちろん感謝しかないですし、それは絶対的にある部分なんですけど、本当に面白いものならば際限なく可能性が広がる。そんな世の中でもあります。

 ただ、それだけエンタメのライバルが多い時代でもあるので、もっともっと吉本新喜劇を知っていただけるよう、面白いものを出し続けるしかない。それも強く思います。

座長として

 あと、これは内側の話なのでアレなんですけど、座長にならせてもらって今まで以上に座員さんとしゃべるようになりました。

 自分もそうでしたけど、座員さんはメチャメチャ座長のことを見てますからね。芸に関することもそうですし、普段の振る舞いというか所作もきっちり見ています。「その位置にいるのに、そんな振る舞いかい!」ということも敏感に察知しますから(笑)。

 109人座員がいますから、みんな考え方も違いますし、年代によっても新喜劇との向き合い方が違うと思います。全員が100%納得する形を作るのはさすがに難しいんでしょうけど、皆さんが何を思っているのか。それはできるだけ聞いておかないといけないんだろうなと。

 偉そうに言うわけじゃないんですけど、座長は全てにおいてしっかりと見せないといけない。これも偉そうな意味ではないんですけど、野球でも四番バッターは人一倍注目されます。客席からヤジも浴びます。でも、ホームランを打ったらみんなが喜んでくれる。

 それを粛々とやり続けるのがその立場の人間がやることでしょうし、バッターボックスに立つまでの姿も含めて見せる。身内からも納得される。それが必要なことなんだろうなと思います。これもね、ホンマにしんどいことですけど(笑)、しっかりとやるしかないですから。

 そんな中の息抜きですか?そうですねぇ、ストレス解消ねぇ…。「ソロキャンプです!」と言おうかと思ったんですけど「えらい、ご気楽な身分やのぉ」と思われてもダメなので「体を鍛えるために通っているボクシングです」にしておきます。

 いや、ま、そんなこと、誰も言ってこないんですけど(笑)、不要なストレスなく皆さんにやってもらうのも大事なことですしね。言葉は難しいもんです(笑)。

(撮影・中西正男)

■吉田裕(よしだ・ゆたか)

1979年3月29日生まれ。兵庫県出身。2000年、23期生としてNSC大阪校に入る。コンビとしての活動を経て、05年にオーディションで吉本新喜劇に入る。「マキバオー」ネタ、“乳首ドリル”などのギャグで幅広く人気を得る。18年、同期入団の新喜劇女優・前田真希と結婚。23年、座長に就任した。8月31日まで投票可能の新喜劇総選挙2024が現在開催中。9月6日には新劇総選挙2024のイベントが大阪・YESシアターで行われる。また、新喜劇65周年全国ツアーを開催中。9月7日には滋賀・大津市民会館で、9月15日には奈良・たけまるホールで行われる。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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