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2020年の金融市場を振り返る(4~6月)

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

4月

 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国による価格を支える取り決めが3月末で期限を迎えた。原油価格の維持のために減産強化を働きかけたのに対し、これをロシアが拒否したことで、4月1日よりサウジアラビアなどは原油の供給量を大幅に引き上げた。

 米労働省が2日に発表した3月の雇用統計(速報値、季節調整済み)は非農業雇用者数が前月比で70.1万人減少した。市場予想を遙かに上回る雇用の悪化が示された。非農業雇用者数の減少そのものも2010年9月以来、9年半ぶりとなる。新規失業保険申請件数をみても3月15日~21日に330万7000件、3月22~28日は664万8000件となり、2週間だけでも1000万人近くが失業保険を申請していた。

 政府は7日夕の臨時閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策を決定した。事業規模は過去最大の108兆円となる。対策を盛り込んだ補正予算案は4月中の成立を目指す。2020年度本予算で対応する分を含めた財政支出の総額は39.5兆円でこちらも過去最大となる。このうち今回の補正予算に対応する16.8兆円を国債発行でまかなう。

 国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は9日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により、2020年の世界経済成長率は「大幅なマイナス」となり、1930年代の世界恐慌以来の大不況になるとの見方を示した。

 3月の米小売売上高は前月比8.7%減と過去最大の落ち込みとなり、3月の米鉱工業生産はマイナス5.4%と、1946年以来の大幅な低下となった。4月のニューヨーク連銀製造業景気指数はマイナス78.2と過去最悪に。

 新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」について、政府は16日夜に開いた対策本部で、東京など7つの都府県以外でも感染が広がっていることから、5月6日までの期間、対象地域を全国に拡大することを正式に決めた。16日夜、官報の号外に記載され、効力が生じた。

 4月20日の原油先物市場で史上初の事態が発生した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物5月限は55.90ドル安のマイナス37.63ドルで引けた。一時マイナス40.32ドルに下落した。原油先物の指標のひとつといえるWTIの先物価格が初めてマイナスとなってしまったのである。新型コロナウイルスの世界的なまん延による経済活動の低下を受けて原油の需要が大きく後退、さらに買い方が原油在庫を抱えるリスクを嫌がり、取引最終日が迫り、保管費用などを考慮するとマイナスの価格でも売却を急がざるを得なくなったようである。

 政府は20日の午後、全国民への現金10万円の一律給付を盛り込むために組み替えた2020年度補正予算案を閣議決定した。補正の一般会計総額は7日に決めた同案から8兆8857億円増え、25兆6914億円となる。この組み替えにより増えた歳出の財源は全て赤字国債の追加発行で賄うことになる。2020年度補正の赤字国債発行額は23兆3624億円となり、補正予算としては過去最大の発行額となる。

 日銀は4月27日の金融政策決定会合で追加緩和を決定した。当初の予定では27日、28日の二日間にわたり開催される予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に万全を期す観点から、会合の時間を短縮することになり、27日のみの開催となり開催時間も短縮された。

 27日の金融政策決定会合では、金融機関や企業等の資金調達の円滑確保に万全を期すとともに、金融市場の安定を維持する観点から、追加緩和策を決定した。公表文のタイトルは「金融緩和の強化について」となっていた。ひとつはCP・社債等の追加買入枠を大幅に拡大し、合計約20兆円の残高を上限に買入れを実施する。追加買入枠をそれぞれ1兆円から7.5 兆円に増額し、既存枠の2兆円と3兆円と併せ合計で約20兆円となる。3月に導入・開始した新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペについて(新型コロナ対応金融支援特別オペ)、拡充をはかる。

5月

 米財務省は四半期定例入札(クォータリーリファンディング)で発行する国債の規模を過去最大となる960億ドルに引き上げると発表した。そして20年債の発行を再開することも明らかにした。20年債の定期発行はレーガン政権下の1986年以来34年ぶりとなる。

 米国の代表的な株価指数であるダウ平均は2月12日に29568.57ドルをつけて、ここが当時の最高値となった。ここから下落し、3月23日に18213.65ドルという安値を付けた。ここからの半値戻しは23891.11ドルとなっていたが、これは5月5日に上回ったことで、いわゆる半値戻しを達成した。

 8日に発表された4月の米雇用統計では、景気動向を映す非農業雇用者数が前月比2050万人減少となった。1930年代の大恐慌以降で最大の落ち込みとなった。そして、失業率は第2次世界対戦後に記録した1982年11月の10.8%を上回り、戦後最も高い数字となる14.7%となった。

 米労働省が12日に発表した4月の米消費者物価指数は前月比0.8%の下落となり、2008年12月以来の大幅な落ち込みとなった。食品・エネルギーを除くコア指数も同0.4%低下し、1957年の集計開始以来、最大の下落幅を記録した。

 IMFは新型コロナウイルス感染防止のための大規模ロックダウン(都市封鎖)を受けて約100年で最も深刻なリセッションに陥ると予想した。

 総務省が22日に発表した4月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で同マイナス0.2%に。日銀の物価目標でもある生鮮食品を除く総合がマイナスとなったのは、2016年12月以来、3年4か月ぶり。

 政府は25日、新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言で、残る東京など5都道県を解除することを決定した。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、4月7日から実施されていた非常事態宣言が、5月25日に全面解除された。26日の東京株式市場では、前日に正式に緊急事態宣言が全面解除されたことを好感し、日経平均は3月6日以来となる21000円台を回復した。

6月

 5月27日に欧州委員会のウルスラ・フォンデアライエン委員長は欧州議会の演説で、7年間で1兆1000億ユーロに上る長期予算案とともに、7500億ユーロの復興基金案「ネクスト・ジェネレーションEU(次世代EU)」を発表した。総額7500億ユーロを投じて、欧州連合(EU)加盟各国の経済回復を支援する。このうち5000億ユーロは補助金に、2500億ユーロは融資に充てる。

 総務省が5日に発表した4月の家計調査によると、全世帯(単身世帯除く2人以上の世帯)の実質消費支出は前年比11.1%減(変動調整値)で、比較可能な2001年1月以来、過去最大の減少幅となった。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて緊急事態宣言が出ていた影響で減少の幅が大きくなった。

 米国商務省が4日に発表した貿易統計によると、輸出額、輸入額ともこの統計を始めた1992年以来、最大の下落率を記録した。

 5日に発表された5月の米雇用統計は、事前予測と現実の数字が過去最大規模の乖離を示した。たとえば、失業率は13.3%となり戦後最悪となった4月の14.7%から一転して改善していたのである。事前の市場予測は20%程度の失業率を見込んでいた。さらに5月の非農業雇用者数は前月比250万人増加となった。「増加」となったこと自体がサプライズであった。

 4月の非農業雇用者数は2070万人減(速報値2050万人減)に下方修正されたが、いずれにしても1939年の統計開始後で最大の減少となっていた。これに対して5月は戦後最大の増加となったのである。

 これについては米政権の対策が影響していたとの見方がある。米政権は企業の雇用維持を条件に6600億ドルの枠を設けて、従業員の給与支払いを肩代わりする異例の資金供給を続けている。再雇用でも企業は資金を受け取れるため、職場復帰が加速した可能性がある。

 格付け会社のS&Pグローバル・レーティングは9日、日本国債の格付け見通しを下方修正したと発表した。

 10日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0~0.25%のまま据え置き、ゼロ金利政策を維持することを全員一致で決定した。3月に再開した量的緩和政策については、米国債の月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)の同400億ドルの買入を当面維持することも決定した。そして、少なくとも2022年まで金利をゼロ近辺に維持するとの見通しも示した。

 11日の米国株式市場、ダウ平均は1861ドル安となり下げ幅は過去4番目の大きさとなった。11日に初めて1万台をつけていたナスダックも527ポイントの下落となった。この株価の下落について、経済再開に踏み切った州を中心に6月に入って新型コロナの感染が再拡大し、米国の新型コロナウイルスの感染の第2波が意識された。

 新型コロナウイルスの感染者が22日、世界で900万人を超えた。米国では21日にカリフォルニア州やフロリダ州で1日当たりの感染者数が過去最高に。そのなかにあって在宅勤務や巣ごもり消費の拡大などを受けてハイテク株が買われ、ナスダックは最高値を更新した。

 ドイツでは西部にある工場で大規模な集団感染が発生したことなどで流行の広がりを示す数値が大きく上昇した。韓国疾病予防管理局(KCDC)は22日、5月初めの連休明けから首都ソウルを起点にした新型コロナウイルスの感染第2波の渦中にあるとの認識を初めて示した。ブラジル、ペルー、チリなど南米を中心に加速的に感染が拡大した。

 シェール開発大手のチェサピーク・エナジーは28日、連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し経営破綻した。新型コロナウイルス感染による世界最大級の企業破綻となった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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