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若手中堅社員が、新人や後輩を育成したいと自然に思えるようになるためにはどうすればよいのか

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
自然に「育てたい」と思ってもらうには、どうすればよいのか(写真:アフロ)

■「ゆとり世代」は絶対数が少ない。若手育成の必要性は高まっている

2002年実施の学習指導要領による教育(いわゆる「ゆとり教育」)を受けた、生年月日が1987年4月2日から2004年4月1日(つまり現在33歳〜16歳まで)の方は、いわゆる「ゆとり世代」と呼ばれています。彼らは、ちょうど少子化問題が表面化してきた世代でもあり、我々中高年世代よりも1学年あたりの人数はおおよそ半分ちょっとで、人数も少ない世代です。

「ゆとり教育」の是非はともかくとしても(むしろ私は「ゆとり教育」が一概に失敗とは考えていませんが)、ここに少子化が加われば、優秀な人材の絶対数は少なくなってしまうわけですから、企業が若手社員を育成する必要性は上がってきています。ふるいにかけられるように比較的厳しい選抜をされてきた我々中高年世代からすれば、「丁寧に育ててもらえるなんてうらやましい」とすら思えるかもしれません。

■単なる若手のわがままとは違う? 「後輩を育てよう」と思う気持ちを阻むもの

ところが、当の若手自身は、自分はいろいろな育成を受けてきていたとしても、新人教育などをさせられることについてはあまり乗り気にならないことも多いようです。しかし、それを単純に若手のわがままとするのは一方的過ぎるかもしれません。というのも、20代の若手が新人教育をしようと思えないことにはいくつも理由があるからです。その中でも第一の理由は、「そもそも20代はまだ後進を育てようと素直に思える時期ではない」ということです。

自分自身が社会に入ったばかりで、学習や成長の途中であるわけですし、さらにグローバル化等の影響から大競争の最中におり、人の面倒をみていられるような状況ではない。そんなときに、「後輩の教育も頼む」と言われても、素直に「はい、わかりました」と承諾するでしょうか。育てることにパワーをかけたことによって自分の業績が下がるかもしれませんし、育てた新人が自分を追い越して自分のポジションが危なくなるかもしれません。なんのインセンティブもなければ、やる気がなくなるのも当然です。

■若手の発達課題は「アイデンティティの獲得」。そもそも育成には向いていない

しかも、精神的な発達課題という面においても、20代は育成に向いているとは言えません。エリクソンのライフサイクル理論によれば、20代の初めは青年期(12歳〜22歳)の後半で「アイデンティティ(≒自分らしさ)」の獲得であり、その後結婚するまでの時期は成人期と呼ばれ、「親密性」といって、他者(特に異性)と情緒的で長期的な親密な関係を築くことが課題とされています。言うならば、他人を育成することよりも前にまず他人と仲良くなることや愛することが第一課題です。

エリクソンによれば、そういう時期を踏まえた後にやってくる、子を産み育てる人が多くなる壮年期の発達課題こそが、親しくなった人や次の世代を育てることに関心を持つことです。これを世代性とか生殖性(原語:Generativity)と言います。この時期ならちょうど後進の育成にも自然に興味を持つでしょうが、それ以前の20代とは育成という仕事と発達課題がマッチしないのです。

■新人教育を若手に任せたいなら、なるべく負荷を減らしてあげる

しかし、このような逆風の中であっても、何人も部下を抱える管理職が新人教育まで面倒をみきれないので、なんとか若手に協力してもらわなくてはなりません。そのためには、まず、これまで述べたように、若手は新人育成などしたくないということを理解して、「協力」してもらうのだということを肝に銘じるべきです。「協力」なのですから、責任はもちろん我々中高年世代が取ると宣言すべきですし、育成の中において、できるだけ負荷を減らし、なるべく楽しい仕事を任せ、嫌な仕事は率先して引き受けるべきです。

例えば、ネガティブなことをフィードバックするような仕事はこちらがやり、成功した時に褒めることは若手に任せる、など。ほかにも、最初に仕事の基本や共通言語を教えたりするのは経験豊富で全体感のある中高年世代が引き受け(あるいは研修会社でも良いかもしれません)、その後少しは新人が自走できるようになってから若手に引き渡すことで、少しでも負荷を減らしてあげることも大切です。

■若手が「かわいい後輩」と感じるために、最も大事な要素は「相性」

そして、その負荷の中でも最も大きなものは、育成する人とされる人の相性が悪いことです。転職理由の本音を調査すると「人間関係」がたいてい一番になるように、相性の悪い人と働くことは大変なストレスになります。逆に言えば、育成するにしても自分と相性の良い新人を育てるのであれば、自己の確立や親密性を伸ばすことが発達課題である若手にはちょうどいい、心地良いタスクになるかもしれません。

「相性が良い」とは、似た者同士という「同質」と、助け合える者同士という「補完」のふたつの意味がありますが、後者は相性の良さを双方が自覚するために、しばらくコミュニケーションコストがかかるため、特に負荷を減らすという観点であれば、前者が良いでしょう。負荷を減らした上で、さらにこうしたパーソナリティの類似性なども考慮した上で、新人の育成担当の若手を決めてあげるのであれば、最初は多少文句を言うかもしれませんが、そのうち「かわいい後輩ができた」となってくれるのではないでしょうか。

OCEANSにて、中高年の皆様向けに、20代を中心とした若手を理解するための記事を連載しています。よろしければ、こちらもご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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