熱中症による死亡者の発生場所の動向をさぐる
毎年熱中症により多数の方が亡くなられる方が、亡くなった場所は熱中症の実情を知る一つの鍵となる。その実情を厚生労働省の統計調査「人口動態調査」の公開値をもとに確認する。
熱中症の発症リスクは、若年層から就業者層までは屋外が多く、高齢層になると屋内が多くなることは、国立環境研究所の定点観測調査でも明らかにされている。
今回は人口動態調査における「熱中症による死亡者」の定義に従った死亡者が、どのような場所でその死因が発生したのかを確認する。
まずは直近分となる2016年分だが、単年分では値が少なめで、各年の気候状況によるぶれが生じやすいため、該当年に加え過去2年分の値を合わせた平均値を用いる(例えば2016年分なら、前年の2015年、前々年の2014年分を用いて平均値を算出する)。また対象となる場所は「家(庭)」「居住施設」「学校、施設及び公共の地域」「スポーツ施設及び競技施設」「街路及びハイウェイ」「商業及びサービス施設」「工業用地域及び建築現場」「農場」「その他の明示された場所」「詳細不明の場所」で区分されている。「家(庭)」なら自宅内や庭先の草刈りの過程などが良い例。部活動ならば「学校、施設及び公共の地域」や「スポーツ施設及び競技施設」、就業中ならば「街路及びハイウェイ」「商業及びサービス施設」「工業用地域及び建築現場」、あるいは農家ならば「農場」が主な状況下となる。
同じ人口動態調査の結果によれば、熱中症による死亡者の約8割が65歳以上で占められている(2016年時点で80.3%)。その中でも多くが自宅内、あるいは詳細不明の場所であることが分かる。この「詳細不明の場所」について詳しい説明は無い(具体例の記載がない)が、熱中症で死亡したこと自体はカウントされていることから、見方を変えれば発見時に詳しい状況が確認できない状態にある、あるいは死亡診断書を記載した医師が状況を把握し切れず・判断が難しいとして、「詳細不明の場所」に割り振った可能性が高い。さらに「詳細不明の場所」の増加が、「家(庭)」とほぼ同じ傾向にあることから、多分に「詳細不明の場所」は「家(庭)」と近しい状況による発生と見ても、的外れなものではないだろう。
報道では高齢者の農作業時における熱中症発症の事例が良く伝えられる。実際、「農場」の値も年上ほど増えているのが確認できる。「詳細不明の場所」のうち多少は実質的に「農場」のものもあるだろう。しかし一方で、高齢者における「家(庭)」での熱中症の死亡リスクの体現がいかに多いか、改めて分かる次第。
これを男女別に見たのが次のグラフ。男女で縦軸の仕切りが異なることに注意。高齢層は人口そのもので女性の方が多いため、リスク体現者も女性が多くなる傾向がある。
やはり高齢層における「家(庭)」でのリスクの体現化が目立つ形となっている。男性の方が「詳細不明の場所」の全体に占める割合が大きく、その他の場所でも数がそれなりに見受けられるのは、行動性向の違いによるところだろう。
やや余談となるが、昔と比べて現在はリスク体現者数そのものが増えている印象がある件を検証する。今世紀初頭の2001年と直近の2016年の値に関して、年齢階層と発生場所別に試算をした結果が次のグラフ。
熱中症による死亡者が、人口そのものの増加率以上に高齢者で増えている(高齢者の人口が今世紀に入って何倍にも急増したわけではない)。その増加が主に「家(庭)」や「商業及びサービス施設」で生じていることが分かる。ちなみに「商業及びサービス施設」とは具体的には「小売店、デパート、商店街、ガソリンスタンド、銀行、ホテル、旅館など」を指している。もっともこれは純粋に倍率のみで、数そのものは数人であることから、さほど気にするものでもない。むしろ「農場」や「家(庭)」、そして「詳細不明の場所」の増加に注意を払うべきかもしれない。
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(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。