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攻める気持ちを忘れるな 男子バレー 鍵はサーブ

柄谷雅紀スポーツ記者
リオへの道を切り拓くためには、サーブで攻め続けなければならない。(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

ここからが正念場

リオデジャネイロ五輪世界最終予選兼アジア予選で、日本は中国に敗れて1勝1敗となってしまった。アジア枠を争う相手に負けたのは痛いが、リオへの可能性がなくなったわけではない。4年前を振り返ってもらいたい。日本はオーストラリアに3-0で勝ったが、最終的にアジア枠でロンドン五輪出場権を獲得したのは、そのオーストラリアだった。今回の女子大会でも状況が違うとは言え、韓国に敗れた日本が結果的にアジア1位で出場権を手にしている。力が拮抗しているチームが集まっている以上、最後まで何が起こるか分からない。世界ランキング14位の日本は31日に同2位で2014年の世界選手権優勝のポーランドと戦う。その後も6月1日に同8位のイラン、2日は同13位のオーストラリアと難敵が続く。ここからの3連戦がリオへ行けるかどうかの分かれ道になる。

サーブミスで負けたのではない

ポーランド戦の前に、確認しておきたい。日本が中国に敗れたのはサーブミスが16本あったからではない。日本のビッグサーバーが機能しなかったから負けたのである。中国のサーブミスが6本だったことを考えると、確かに多く見える。だが、それは戦略の違いだ。中国の謝国臣監督は「正確にサーブを入れることを意識した」と試合後に言っていた。言葉どおり、強くサーブを打つのではなく、徹底的に日本のエース石川祐希を狙って打ってきた。そうやって日本の攻撃の選択肢を絞り、平均身長201.3センチの高さを生かしてブロックで仕留めてきた。日本のレセプション(サーブレシーブ)68本中、石川がチームで最も多い30本を受けている。2番目の永野健は17本である。そして中国のブロック得点は14点。狙い通りにされてしまった。

一方で、日本の戦略もハッキリしている。ビッグサーバーである石川、柳田将洋、清水邦広の強力なサーブで攻め、相手を崩して攻撃の選択肢を少なくし、ブロックとディグ(スパイクレシーブ)のディフェンスから切り返しの攻撃で得点を奪うことだ。もちろん、3人のサーブでサービスエースが奪えれば、言うことはない。平均身長190センチと明らかに小さいに日本が世界の強豪に立ち向かうには、この戦略しかないと言える。

それが機能しなかったのだ。第1セットで石川と柳田が1本もサーブが入らず、第2セットの途中からは強く打つのではなく、入れに行くサーブになってしまった。サーブが弱くなると、簡単にレセプションされ、自在に攻撃を組み立てられてしまう。そうなるとディフェンスもマークを絞りきれなくなって後手になる。結果としてブレイクポイント(自分たちにサーブ権があるときに奪う得点)が奪えなくなるという悪循環にはまってしまった。日本の攻撃面では、中国が執拗に石川の前方をサーブで狙ってくることで、効果的だった石川のパイプ(中央からのバックアタック)などが封じられて攻撃の選択肢が少なくなり、サイドアウトがなかなかとれなくなった。

ビッグサーバーが不発で効果的なサーブを打てなくなり、ブレイクポイントがとれなかった。そして日本のレセプションが乱れて攻撃の選択肢が狭まってミスが出たり、ブロックされたりしてサイドアウトが取れなくなった。だから、負けたのである。決してサーブミスが16本あったから負けたわけではない。「サーブミスが多かったから負けた」というのと、「サーブが機能しなかったから負けた」というのは似ているようで、全く違う。サーブミスは相手に1点を与えることになるが、それを恐れて弱いサーブを入れても、自在に攻撃をされて相手に得点を許すだけ。結果は変わらない。

サーブが道を切り拓く

ここから巻き返すには、やはり日本のサーブが重要だ。石川、柳田、清水がサーブで攻めることをしなくては、日本の突破口は開けない。残り5試合は全て日本よりも世界ランキングが上の相手。なおさら、攻めていかなければならない。ただ、そのサーブが「イチかバチか」であってはならない。世界のトップレベルは、強烈なサーブを少ないミスで連続して打ってくる。日本も、できるだけミスを減らして強いサーブを打ち込まねばならない。例えば、中国戦の第1セットでは、石川、柳田、清水にそれぞれ3回サーブがまわってきている。そのうち、ブレイクポイントを取れたのは0回。「たられば」の話になるが、このセットを20-25で落としているわけだから、もし1人につき1回、つまり3人合わせて9回のうち3回、サーブが走る場面があってブレイクポイントが取れていたら23ー22になっている。そうなると、結果は違っていたはずだ。

初戦のベネズエラ戦の後、柳田は「照明でボールが見えにくくなるところがあった。打ちやすいところを探しながら打っていた」と打ち明けていた。慣れない体育館でやると、最初のうちは感覚がつかみにくいものだ。2試合をこなし、徐々に感覚もつかめてきているだろう。中国戦の後は休養日で1日空いた。映像を見たり、実際に打ったりして、確認する時間もあったはずだ。「ミスを少なく、強いサーブを打つ」。言葉で言うのは簡単だが、実際にやるのは難しい。しかし、サーブはバレーボールで唯一、誰にも介在されずに自分だけで完結するプレーである。調整力に期待したい。

昨年のワールドカップ(W杯)でなぜ日本が20年ぶりに5勝できたのか。なぜロンドン五輪覇者のロシアとフルセットの試合をできたのか。それはビッグサーバーが恐れることなく強いサーブを打ち込んでいたからだろう。今大会に臨むに当たっても、南部監督は「去年のW杯で成功したサーブ押していく部分で大会の突破口を作りたい」と言っていた。30日の練習後には、南部監督が「ビッグサーバーによる攻めのサーブで主導権を握り、サーブレシーブを安定させて、最終的には点につなげる流れにしたい」とコメントしている。石川も「サーブの感覚は悪くないので、ミスを気にせず攻めていきたい」と言っている。2人の言うとおり、ビッグサーバーの3人が強烈なサーブを相手コートに打ち続ける。それ以外のフローターサーブを打つ選手は、中国のようにしっかりと狙いを定めて効果的なサーブを打つ。リオへの道を切り拓くには、それを徹底してやり続けるしかない。

スポーツ記者

1985年生まれ、大阪府箕面市出身。中学から始めたバレーボールにのめり込み、大学までバレー一筋。筑波大バレー部でプレーした。2008年に大手新聞社に入社し、新潟、横浜、東京社会部で事件、事故、裁判を担当。新潟時代の2009年、高校野球担当として夏の甲子園で準優勝した日本文理を密着取材した。2013年に大手通信社へ。プロ野球やJリーグの取材を経て、2018年平昌五輪、2019年ジャカルタ・アジア大会、2021年東京五輪、2022年北京五輪を現地で取材。バレーボールの取材は2015年W杯から本格的に開始。冬はスキーを取材する。スポーツのおもしろさをわかりやすく伝えたいと奮闘中。

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