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昨年、日本国内に向けての545億件のサイバー攻撃とは

森井昌克神戸大学 名誉教授
nicter(写真:Motoo Naka/アフロ)

国内外から日本のネットワークに向けられたサイバー攻撃関連の通信が、2015年に少なくとも約545億1千万件あったことが20日、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の調査で分かった。過去最多だった14年の約256億6千万件から倍増した。

出典:サイバー攻撃545億件 防犯カメラからも発信【産経新聞、2016年2月20日】

「ええっ! 545億件のサイバー攻撃を受けているなんて?!」と思われた方に解説です。サイバー攻撃というと、昨年6月に発覚した日本年金機構の情報漏洩や厚労省ホームページが閲覧できなくなる等をイメージするのですが、当然、そのようなことが545億件も起きたわけではありません。実社会で「攻撃」というと、戦争や対テロ組織への作戦行動をイメージしますが、今回の545億件に相当するのは、その戦争や作戦で使用した弾丸の数のようなものです。

545億件というのは、NICT(情報通信研究機構)という国に関連した研究機関が監視しているダークネットと呼ばれる、いわば「おとり」のネットワークに打ち込まれた弾丸の数のようなものです。普通、「おとり」のネットワークであるため、そこにアクセスすることはありえません。しかし攻撃する側は、どこを攻撃すれば良いか、攻撃が成功しそうかを試すために弾丸を打ってみる、つまりアクセスしてみて、その返答を分析するのです。545億件というのは、そういう偵察行動も含めて、「おとり」のネットワークに仕掛けられた攻撃、それも一つ一つは弾丸に相当する手順のようなものです。正確には日本国内全体への攻撃件数でもなければ、弾丸に相当する件数でもありません。

冒頭に引用しているニュースでの本質は、「おとり」のネットワークでさえ、毎日途切れなく、秒単位以下で攻撃を受けていることから、日本国内どこでも、同じように毎日途切れなく攻撃に相当する、いわば不正アクセス(成功しているか否かは別にして)を受けているであろうということと、その件数は昨年に比較して、倍以上になっているということです。

「545億件」の意味は、「毎日途切れなく、どこでも」という意味に解釈すべきであり、それが昨年に比べて倍増しているということです。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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