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何故、貸金庫に現金が

久保田博幸金融アナリスト
(提供:イメージマート)

 三菱UFJ銀行は16日午後、元行員が貸金庫から顧客の現金などを窃盗していた問題で記者会見を開いた。半沢淳一頭取は会見の冒頭で「ご迷惑、ご心配をおかけしたことを心よりおわび申し上げる」と陳謝(16日付日本経済新聞)。

 これまでに練馬支店と玉川支店でおよそ60人の顧客が被害にあった可能性が高いとしている。銀行が16日明らかにしたところによると、これらの顧客を除く練馬支店と玉川支店のおよそ1700人の顧客に貸金庫の中身の確認を依頼した結果、およそ7割の人が支店で直接確認を行い、このうち数十人から被害の可能性があるという申し出があった(16日付NHK)。

 むろん信用が根幹にある銀行業務であってはならないことであるが、この事件で興味深い点は貸金庫の中身であった。

 貸金庫に入れることができるのは株券などの有価証券のほか、預金通帳や権利書、それに宝石などの貴重品となっている。

 年間の使用料はボックスのサイズに応じて1万5000円から3万円程度となっている。ただし借りるのには審査が必要のようで、誰もが自由に使えるものではないらしい。

 今回問題となりそうなのはその中身である。

 東洋経済の記事に「関係者によると、元行員が盗み取った多くは現金だった」とあった。

 現金は通常、貸金庫に入れることができないはずである。しかし、銀行側としても何を入れているのかまでは完全にチェックしていないようで、現金が大量に保管されていた可能性がある。

 この事件を聞いて、思い浮かべたのが昭和61年の金丸脱税事件である。この際に使われていたのが「ワリコー」や「ワリシン」などと呼ばれた割引金融債であった。

 割引金融債とは当時の日本興業銀行などが発行していた額面金額から一定額を差し引いた価格で購入できる金融債のことである。発行する金融機関に行って購入するが、無記名のまま現物の証券を保有することができた(当時)。

 これを使って所得隠しを行っていたのが金丸脱税事件である。ただし、いまは券面の発行は行っておらず、税制等が変わったこともあり、この手段は使えない。

 その代替手段のひとつとして貸金庫が使われていた可能性もあるか。

 日本では数十兆円規模のタンス預金が存在すると言われている。利子も付かないので面倒な預金よりも現金で持つという人もいたかもしれないが、それにはそれで保管リスクが伴う。

 現金には割引金融債の券面と同様に匿名性があり盗まれると発見は困難になる。それはまた、現金の保有に至る経路の確認が難しくなるという側面もある。

 安全に、しかも匿名性を生かす手段として、安全性が高いはずの銀行の貸金庫が使われていた可能性がある。

 また、銀行預金では1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1000万円までと破綻日までの利息等は保護されるが、それ以上の金額は保護されない。このため1000万円を超す金額は貸金庫を使っていたという可能性もある。

 今回そういった貸金庫内の現金が主に狙われたということではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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