Armからスピンオフする新メモリ会社Cerfe LabsのCeRAM技術とは?
全く新しい原理の不揮発性半導体メモリである、CeRAMをArmからスピンオフした会社がIPコアとしてライセンスビジネスを始めた。強相関電子系と呼ばれる固体物理学の原理を用いたCe(Correlated Electron)RAMである。久々に全く新しい原理の不揮発性メモリ技術を持ってArmから独立し、Cerfe Labs社を設立した。
Cerfe Labs社は米テキサス州におけるハイテクの街オースチン(図1)に設置した。実はArmはこれまでも5年間、社内のArm ResearchでCeRAMの研究開発を行ってきた。米国国防総省(DoD)のDARPAのERI(Electronics Resurgence Initiative)プロジェクトにも加わった。このプロジェクトではCeRAMの材料と多値化の研究をしていた。すでに150件ほどの特許やIPを持ち、満を持してこの10月に入り起業した。
CeRAMは二つの状態を遷移することで1、0を表現する訳だが、電子同士の相互作用に関する研究は英国でArmだけではなく、英Oxford大学でも行われてきてきた(参考資料1)。電子を単体の伝導電子として扱うのではなく、電子同士がまとまり相関作用のある挙動を扱う。電子同士の相互作用は遷移金属酸化物や有機分子固体などでも知られている。
強相関電子状態は、電子がバラバラの単独で動作するのではなく、電子同士が相互作用しながら挙動する様子を表す。これまでも超電導におけるクーパー対や、強磁性体、反強磁性体など、酸化物を構成するようなレアメタルを含む多元系の化学組成などの材料で、強相関電子系が示されていた。
メモリとしてのスイッチング状態は、電子同士が局在化してクーロン相互作用が強まり、系としてバンドギャップが開く絶縁体のような状態と、電子がバラバラにスクリーニングされて金属のような状態(バンドギャップがゼロ)の間を遷移する。フィラメントを形成したり、相変化を利用したりするわけではないため、結晶構造は変わらない。このため1と0の状態を行き来しても結晶構造が劣化することはない。このため、読み出しと書き込みを繰り返しても劣化しない。つまり信頼性が高く、RAM動作が可能になる。
電子同士が局在して絶縁体のような状態を1として、ここに電子を外部から注入すると電子がバラバラな金属的状態の0になる。電子がバラバラのスクリーニングされた金属的状態0に正孔を注入すると電子同士が相互作用して局在化し絶縁体的な1の状態になる。メモリセルに電子や正孔を注入するのがアクセストランジスタとなる。測定では電気抵抗を測り、その抵抗変化で1、0を判断するメモリである。
実験では、CMOSのアクセストランジスタとメモリセルを3次元構造で作って見せている(図2)。メモリセルは多層配線のどこかに作り込めば済むため、高集積化しやすく、しかもCMOSの微細化に応じてセルもチューニングできるため、3nmプロセスまで適用できるとしている(参考資料2)。実験で読み出し・書き込み時間は共に4nsを観測しているが、ほとんどのCe材料は理論的に100 fs(0.1 ps)が得られるはずだという。
CeRAMのメリットは大きい。まず何よりも電源を切った後でも記憶内容が消えない不揮発性であり、RAM動作ができること。つまり書き換え回数を増やしても劣化しない。動作電圧が0.6Vと低く、消費電力も小さい。メモリセルを配線部分に作れるため3次元化が容易で、高集積しやすい。
実際のビジネスはArmと同様、IPランセンスとロイヤルティのビジネスとなる。すでに米コロラド大学のCarlos Paz de Araujo教授率いるSymetrix社とパートナーシップを作り、これからエコシステムを作っていく。
参考資料
1. Correlated Electron Systems, University of Oxford、Department of Physicsホームページ