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「日本の気候変動2020」をみんなで読もう!

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
九州北部豪雨による被害(写真:ロイター/アフロ)

人間活動を原因とする気候変動は、人類の寿命ぐらいの時間スケールで起こっている変化です。この変化を感覚だけで認識することは、なかなか難しいです。さらに、人類が化石燃料を使い始めてから現在までに地球平均気温が約1度上昇した、と説明されても、たった1度?と思ってしまい、その危機感を認識しようにもできないでしょう。

しかし、気候変動によって豪雨や熱波などに伴う災害が増加して、人命や経済的な損失は明らかに悪化している状況です。この状況をなんとかしなければなりません。そのために、損失を最小限に留めるための「適応策」や、気候変動そのものを抑えていく「緩和策」を強力に推進していくことが不可欠です。その際に、現在の気候変動がどうなっているのかという量的な事実と、将来どうなるのかという科学的な予測に関する基礎情報が当然必要となってきます。日本での気候変動について、その標準的な情報を提供するのが、この度公表された「日本の気候変動2020 -大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-」です。私も委員を務める「気候変動に関する懇談会」の助言の下で、文部科学省と気象庁が合同で公表しました。

この資料を読むべきなのは、国や地方公共団体の環境対策の担当者だけではなく、国民全員です。日本でも、やっとですが、2050年に温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする目標が立てられ、民間企業にも気候変動対策はより一層求められることになります。また、気候変動の状況が当面は一層悪化することは、すでに避けて通れません。その時代を生き抜かなければならない子どもたちにこそ、教育を通した基礎情報の提供が欠かせません。

「日本の気候変動2020」は、以下の3つで構成されています。

概要版

本編

詳細版

まずは、是非「概要版」を読んでください。少し難しい言葉づかいも含まれていますが、おおよその内容は中学生以上で理解できるはずです。概要版であっても量的に書かれているので、危機的な状況であることを科学的資料から感じることができると思います。そして、概要版を読んで興味が湧いてきて、もう少し詳しく知りたいと思った方は、「本編」に進むとよいでしょう。本編の目次は、単なる目次ではなく、目次を読めば日本の気候変動の現状と予測がわかるようになっています。興味のある項目から読むことができます。また、所属先で気候変動対策に携わる担当者の方々は、本編は必須です。さらに専門的なことが知りたい場合に、「詳細版」を活用するとよいでしょう。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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