繁殖の環境、想像して 俳優・浅田美代子さん
北関東のある繁殖業者を訪ねた時のことが、今でも忘れられません。
そこには、約500匹もの繁殖用の犬たちがいました。犬たちは、何段にも積み重ねられた狭い金網製のケージに入れられ、散歩に連れて行かれることはありません。
長毛の子は、毛に糞尿(ふんにょう)がまとわりついてヨロイのように固まっていました。脚の骨が折れたまま放っておかれている子もいました。何度も子犬を産まされてきた7、8歳の雌犬の多くは骨からカルシウムが溶け出し、足腰が立たなかったり、歯がほとんど抜けてしまっていたり……。
繁殖に使われなくなった子たちをレスキューしに行ったのですが、そういう状態の子たちでも繁殖業者は「まだ産めるから」と手放しません。ボロボロの子を3、4匹しか助けられませんでした。
2014年に我が家で引き取った子犬も、劣悪な繁殖業者のもとにいた子です。感染症の疑いがあり「売り物にならない」と殺されそうになっていたのを、助け出しました。
こうした現実が、明るいペットショップに陳列されている子犬・子猫の背後にはあるのです。たまにペットショップで子犬や子猫を見ると、私は、「かわいい」ではなく「かわいそう」と感じてしまいます。
もちろん、すべての業者が悪質なわけではありません。でも、大量販売を続けるペットショップと、工場のように大量生産をする繁殖業者は裏表の関係です。ペットショップで買う人がいる限り、劣悪な繁殖業者は大量生産を続けます。
新たにペットを飼いたいと思う人は、ペットショップにいる子犬・子猫の父母、きょうだいはどうしているのか、想像してみてください。新しい命が作り出されている一方で、闇で苦しんでいる命、殺処分を待つ命がいることを思い出してほしいのです。消費者としての行動を少し顧みることで、負のスパイラルは止められるはずです。
(2019年5月19日付朝日新聞朝刊のフォーラム面のうち浅田美代子さんの談話部分を再掲しました。すべての記事とアンケート結果はこちらからお読みいただけます)