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繁殖の環境、想像して 俳優・浅田美代子さん

太田匡彦朝日新聞記者
病気になっても治療されないまま繁殖に使われ続ける犬たち(浅田美代子さん提供)

 北関東のある繁殖業者を訪ねた時のことが、今でも忘れられません。

 そこには、約500匹もの繁殖用の犬たちがいました。犬たちは、何段にも積み重ねられた狭い金網製のケージに入れられ、散歩に連れて行かれることはありません。

浅田さんがレスキューに入った北関東の繁殖業者(以下同、浅田美代子さん提供)
浅田さんがレスキューに入った北関東の繁殖業者(以下同、浅田美代子さん提供)

 長毛の子は、毛に糞尿(ふんにょう)がまとわりついてヨロイのように固まっていました。脚の骨が折れたまま放っておかれている子もいました。何度も子犬を産まされてきた7、8歳の雌犬の多くは骨からカルシウムが溶け出し、足腰が立たなかったり、歯がほとんど抜けてしまっていたり……。

狭いケージに入れっぱなしにされ散歩にも連れて行ってもらえない(浅田美代子さん提供)
狭いケージに入れっぱなしにされ散歩にも連れて行ってもらえない(浅田美代子さん提供)
足元に糞が堆積している(浅田美代子さん提供)
足元に糞が堆積している(浅田美代子さん提供)

 繁殖に使われなくなった子たちをレスキューしに行ったのですが、そういう状態の子たちでも繁殖業者は「まだ産めるから」と手放しません。ボロボロの子を3、4匹しか助けられませんでした。

 2014年に我が家で引き取った子犬も、劣悪な繁殖業者のもとにいた子です。感染症の疑いがあり「売り物にならない」と殺されそうになっていたのを、助け出しました。

 こうした現実が、明るいペットショップに陳列されている子犬・子猫の背後にはあるのです。たまにペットショップで子犬や子猫を見ると、私は、「かわいい」ではなく「かわいそう」と感じてしまいます。

 もちろん、すべての業者が悪質なわけではありません。でも、大量販売を続けるペットショップと、工場のように大量生産をする繁殖業者は裏表の関係です。ペットショップで買う人がいる限り、劣悪な繁殖業者は大量生産を続けます。

何段にも重ねられたケージの中に入れっぱなしで飼われる繁殖用の犬たち(浅田美代子さん提供)
何段にも重ねられたケージの中に入れっぱなしで飼われる繁殖用の犬たち(浅田美代子さん提供)

 新たにペットを飼いたいと思う人は、ペットショップにいる子犬・子猫の父母、きょうだいはどうしているのか、想像してみてください。新しい命が作り出されている一方で、闇で苦しんでいる命、殺処分を待つ命がいることを思い出してほしいのです。消費者としての行動を少し顧みることで、負のスパイラルは止められるはずです。

(2019年5月19日付朝日新聞朝刊のフォーラム面のうち浅田美代子さんの談話部分を再掲しました。すべての記事とアンケート結果はこちらからお読みいただけます)

朝日新聞記者

1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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