半世紀以上にわたる電気料金の変遷をさぐる(2020年公開版)
家庭へ供給される電気の料金は
近代的な日常生活を営む上では欠かせないエネルギーの一つが電気。多くは電力会社が供給するものを用い、利用料金を支払うことになるのだが、その料金はいかなる変化を見せているのか。総務省統計局の小売物価統計調査(※)の結果から実情を確認する。
検証対象となるデータは東京都区部の小売価格。半世紀ほど前の1960年以降、継続して取得可能な2014年分までの年次値を随時取得していく。具体的な取得項目は東京都区部の電気代、その基本料金(電気を使わなくとも発生する固定費)と、従量制の電気量料金(基本的に1kwhあたり、最低区分)である。
一方、小売物価統計調査では2014年から2015年にかけて、少なからぬ項目の調査対象の見直し、仕様変更が行われた。電気料金も同様で、これまでの基本料金と従量制の電気量料金の個々項目の調査から、「1か月441kW使用したときの料金を使用した時の料金」に一本化されてしまった。過去の調査値との連続性は完全に無くなり、同一グラフの中で記述することはかなわない。そこで2015年分以降については別途グラフを作成する。2020年は年次の終了は果たしておらず、月次の4月分までしか取得できないことから、最新分となる4月の値を2020年分として適用する。
まずは2014年までのグラフ。左側が不規則な形で見た目が悪いのだが、これはグラフ中の説明の通り、対象kwh数の違いによるもの。原因は不明だが1960年代前半において短期間、計測対象とする料金の設定を頻繁に変えた形跡が元データから確認できる。そのため、この時期の数字が突出してしまっている。また同時期の従量制部分の電気代も、一部データが欠けている(グラフの上では無理やり連結させているが)。
その特異値以外で推移を見ると、1980年代で大きく値を上げているのが分かる。特に従量制部分が5円程度跳ねあがっている。これはいわゆるイラン革命に端を発した「第2次石油危機(オイルショック)」の影響によるもの。石油価格が上昇したため、その石油を使って発電を行う火力発電がメインを占める電気も、値上げを余儀無くされた次第。
以降、基本料金はほぼ横ばい、従量制部分はむしろ値を下げていた。しかし、2005年以降はじわじわと、昨今の資源価格高騰時期にはやや急カーブを描いて上昇しているのが確認できる。
2015年分以降については、縦軸の底がゼロではなく1万1000円であることに注意した上で見ても、下落から上昇に転じている。減少は2015年夏半ばごろから生じていた、原油価格などのエネルギー価格の相場減退に伴う料金引き下げの影響を受けてのもの。2017年後半以降は相場は上昇に転じたため、電気料金も上昇を示す形となっている。ただし2020年は4月の時点でエネルギー価格の下落を反映する形で、下落に転じている。
消費者物価の変動を加味して再検証
モノやサービスの値段の価格の高低を判断する場合、金額の移り変わりだけでなく、当時の物価を考慮して考えた方がよい場合が多い。昔の100円と今の100円では、金額は同じでも買えるものには大きな違いがあり、価値は当然違いがある。にもかかわらず「同じ金額だから同水準」と判断したのでは、少々おかしな話になる。
そこで各年の電気料金に、それぞれの年の消費者物価指数を考慮した値を算出することにした。2020年の消費者物価指数をベースとし、各年の電気料金などを再計算した結果が次のグラフ。
例えば1980年の電気代は28.28円(1kwhあたり)とあるが、これは仮に1980年の物価水準が2020年と同じだった場合、28.41円となる次第(消費者物価指数による修正前の値は20.95円)。
基本料金は1970~1980年代における2つのオイルショックの間も、実質的には横ばいの形を維持しているのが確認できる。物価連動の観点では非常に優れた価格設定である。さすがに従量制部分はオイルショックの影響を受けているが、それでも上昇幅は最小限に抑えられている。また、それ以降は少しずつ値が下がっている。そして2008年ぐらいから2014年に至るまでの上昇分は、物価そのものが安定していたこともあり、それなりに「気になる」形として表れているのも分かる。他方、2015年以降はやはり2016年を底値として上昇中だったが、2020年では下落に転じていることに変わりは無い。
昨今は過去の一時期と比べればまだ安値であるとはいえ、可処分所得が上昇する気配が感じられない以上、電気料金の値上げは、そのまま家計への負担増加につながる。状況のさらなる改善と料金の安定化を望みたいところだ。
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※小売物価統計調査
国民の消費生活上重要な財の小売価格、サービス料金および家賃を全国的規模で小売店舗、サービス事業所、関係機関および世帯から毎月調査し、消費者物価指数(CPI)やその他物価に関する基礎資料を得ることを目的として実施されている調査。
一般の財の小売価格またはサービスの料金を調査する「価格調査」、家賃を調査する「家賃調査」および宿泊施設の宿泊料金を調査する「宿泊料調査」に大別。価格調査および家賃調査については、全国の167市町村を調査市町村とし、調査市町村ごとに、財の価格およびサービス料金を調査する価格調査地区(約27000の店舗・事業所)と、民営借家の家賃を調査する家賃調査地区(約28000の民営借家世帯)を設けている。また、宿泊料調査については、全国の99市町村から320の調査旅館・ホテルを選定している。
価格調査および家賃調査の調査市町村は、都道府県庁所在市、川崎市、相模原市、浜松市、堺市および北九州市をそれぞれ調査市とするほか、それ以外の全国の市町村を人口規模、地理的位置、産業的特色などによって115層に分け、各層から一つずつ総務省統計局が抽出し167の調査市町村を設定している。宿泊料調査では、都道府県庁所在市又は全国の観光地の中から宿泊者数の多い地域を選定し、99の調査市町村を設定している。調査市町村ごとに宿泊者数の多い旅館・ホテルなどを調査宿泊施設として選定している。
価格調査については、調査員が毎月担当する調査地区内の調査店舗などに出かけ、代表者から商品の小売価格、サービス料金などを聞き取り、その結果を調査員端末に入力する。家賃調査については、原則として調査世帯を訪問し、世帯主から家賃、延べ面積などを聞き取り、同様に調査員端末に入力する。
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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。