米ツアーが中国に新ツアー創設。なぜ日本ではなく中国?
【日本はパスされた?】
ゴルフの世界選手権シリーズ、HSBCチャンピオンズの最終ラウンドが中国・上海の余山国際CCで始まったちょうどそのころ、米ツアー(米PGAツアー)は世界中のゴルフ関係者やメディアに一斉にニュースリリースを配信した。
リリースの内容は、米ツアーとチャイナ・ゴルフ・アソシエーション、そしてイベントプロモーターのチャイナ・オリンピック・スポーツ・インダストリーは、三者の協力の下、「PGAツアー・チャイナ」という名の新しいプロゴルフツアーを創設し、2014年から稼働するというものだった。
そのニュースを見た瞬間、すぐさま頭に浮かんだのは、こんな3つのフレーズだ。
ジャパン・バッシング(bashing)
ジャパン・パッシング(passing)
ジャパン・ナッシング(nothing)
これらは米国の経済界から見た日本の位置づけを言い表したもの。ワシントンDC界隈では、嘲笑的意味合いを込めて、当然のごとく口ずさまれてきたフレーズだ。
米国内で日本車や日の丸の焼き討ちが頻発した80年代から90年代初期。ジャパンマネー、エコノミックアニマルなどと日本が叩かれたあの時代はジャパン・バッシング。
だが、中国が著しい経済成長を遂げて台頭してきた2000年代に入ると、米国は日本をパスして(通り越して)中国へ目を向けるようになった。それが、ジャパン・パッシング。
そして2010年以後、日本の存在感はさらに薄れ、今や日本は米国の眼中にない無の存在。文字通り、ジャパン・ナッシングと化している。
今回発表されたPGAツアー・チャイナ創設は、まさに日本のプロゴルフが「パッシング」されたようなもの。このままだと「ナッシング」になってしまうという危機感を覚えずにはいられない。
かつて、80年代後半から90年代にかけての日本ツアーは、欧米のスター選手たちがこぞって秋の出稼ぎにやってくるほど魅力的なツアーだった。
「ジャパンマネーにモノを言わせて、日本選手はメジャー出場やランク付けでエコ贔屓されている」などと世界からバッシングさえ受けるほどの羨望の的だった。
だが、その後、世界の舞台で日本人選手が残した実績といえば、丸山茂樹の米ツアー3勝と今田竜二の1勝のみ。いや、勝利数を取り沙汰する以前に、米ツアーや世界の舞台に飛び出した日本人選手が、なんと少ないことか。
世界の舞台における日本人選手の人数や実績の少なさのみならず、日本ツアーそのものの存続性や、日本ツアーと世界のゴルフ界との関係性の強化もされぬまま、ふと気付けば、日本のゴルフは中国や他のアジア諸国のゴルフに追い付かれ、追い抜かれてしまっている。
石川遼と松山英樹が米ツアー参戦を始め、日本ツアーをなんとかしようと奮闘してきた池田勇太が涙の優勝を飾って、もっと盛り上げようとしている今、まだ日本のゴルフは「ナッシング=ゼロ」ではない。そこに救いはある。だが、いずれにしても中国のプロゴルフが重視され、日本のプロゴルフが軽視されていることだけは、残念ながら間違いない。
【なぜ、日本ではなく中国?】
2014年から稼働すると発表されたPGAツアー・チャイナは、中国各地で年間12試合を開催する予定だという。
1試合に出場できる選手数は120名~156名というから、各試合の規模は「親ツアー」に当たる米ツアーとほぼ同等だ。とはいえ、1試合の賞金総額は平均で20万ドル前後の見込みで、この規模は米ツアーの下部ツアー(ウエブドットコム・ツアー)の半分、いや3分の1程度にとどまる。
だが、それで妥当。なぜなら、米ツアーが頂点に君臨し、その下に下部ツアー(ウエブドットコム)が続き、そのまた下に、すでに発足しているPGAツアー・ラテンアメリカやPGAツアー・カナダ、そしてこのPGAツアー・チャイナが続くというピラミッド構造ゆえ、賞金規模もPGAツアー・チャイナは下部ツアー(ウエブドットコム)の2分の1、3分の1前後が適切なラインなのだ。
ピラミッドには下層から上層へ昇る道も、きっちり用意されている。PGAツアー・チャイナの年間上位選手はPGAツアー・ラテンアメリカ、PGAツアー・カナダと同様、下部ツアー(ウエブドットコム)の出場権を手に入れることができる。そして、下部ツアーで上位25名に入るか、あるいは石川遼が挑んだあのファイナル4戦で上位25名に入ることができれば、次は米ツアーへ昇格できる。
このPGAツアー・チャイナを創設するために、米ツアーは今夏、在中国17年というマーケティングのプロフェッショナルを雇い入れ、米ツアーと中国ゴルフをともに盛り上げていくための拠点を北京に新設していた。
米ツアーはそれほどアクティブに中国ゴルフと手を取り合い、新たなツアーを創設して共に歩もうとしている。
なぜ、米ツアーが手を取り合っているのは、日本ではなく中国なのか。
その理由、その原因を、日本のゴルフ界と関係者は、しっかり考えていかなければいけない。日本のプロゴルフ界が「ナッシング=ゼロ」にならないよう、今こそ強い危機感を抱いてアクションを起こすべきだ。