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聞き捨てならない、日銀総裁候補の植田氏と副総裁候補の内田氏の工夫を凝らし金融緩和を継続との発言

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日本銀行の黒田東彦総裁の後任候補に指名された経済学者の植田和男元審議委員は27日、今後の金融政策運営について、「情勢に応じて工夫を凝らしながら金融緩和を継続することが適切である」との見解を示した(27日付ブルームバーグ)。

 日本銀行の次期副総裁候補の内田真一理事も日銀が直面している課題は「いかに工夫を凝らして、効果的に金融緩和を継続していくかということだ」とし、「これからも経済物価や市場の状況変化に適応しながら、しっかりと緩和を続けていけるようにアイデアを出していきたい」と語った(24日付ブルームバーグ)。

 内田理事は現行のイールドカーブコントロール政策を中心に継続していく考えも示していた。

 植田氏と内田理事の発言にあった「工夫」とは何であろうか。

 2013年4月に量的・質的緩和政策行っても2%の物価目標は達成できず、2014年10月には量的・質的緩和の拡大を決定した。同年12月18日に「量的・質的金融緩和を補完するための諸措置も行った。これは少しでも日銀の国債買入の余地を拡げる措置でもあった。この際には日銀は市場がもしかすると追加緩和と受け取ってくれるような技術的な政策変更を行ったという見方もあった。これも工夫か。

 そして2016年は年初からの株安、円高さらに原油安により、政府や日銀に対応を求める声が出てきていた。ただし、日銀の国債買入には限界も見えてきたことで、これに対して1月に日銀はマイナス金利付き量的・質的緩和の導入を決定した。これも工夫の一環か。

 ただし、金融緩和によって実体経済への働きかけを行う際に、金融仲介を担う金融機関の収益に悪影響を及ぼす面があるため、今回のマイナス金利の導入に当たっては、金融機関収益への過度の圧迫により金融仲介機能がかえって低下するようなことがないよう、3段階の「階層構造」を採用し、ある残高まではプラス金利ないしゼロ金利とするとした。これが内田理事の言う工夫のひとつとなろう。

 ところが、このマイナス金利政策の評判が非常に悪く、金融関係者からクレームが入り、その結果、日銀は同年9月にあろうことか、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定することになる。なんと市場で形成されるはずの長期金利をコントロール下に置くことにしたのである。このあたりの工夫から、かなりおかしくなってきたのである。

 長期金利コントロールは市場が未熟なうちで非常時の戦時下などでは可能であったかもしれない。第二次大戦中の米国でもとられた政策でもあった。しかし、平時であり、しかも物価が上昇し、金利にも上昇圧力が掛かるとコントロールが当然困難になることになる。日銀と同様に長期金利コントロールを導入していたオーストラリアは風向きが変わるとさっさと撤退していた。

 しかし、日銀は意地源緩和を継続することになる。そこで日銀が行った「工夫」が10年カレントの指値オペであり、それが連続で無制限で毎営業日となり、さらに債券先物のチーペストまで加えて、債券市場の流動性を喪失させるような対策を行ってきたのである。

 さらには共通担保オペを2年、さらに5年と長期化させることで、今後の短期金融市場にも歪みを与えかねない政策まで打ち出した。

 これらも工夫であろうか。いまの日銀の異次元の緩和策はブレーキがない。このため工夫すればするほど何か犠牲にさせる結果となっている。債券市場しかり、短期金融市場しかり。ある意味、株式市場にも巨額のETF買入で適切な価格形成を阻害してきた可能性がある。

 現在の日銀による緩和政策の延長上にある工夫とは、さらなる金融市場の犠牲を伴いかねない。植田氏と内田氏の「工夫」発言は聞き捨てならないのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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