「クルマの免許で125ccバイクまで」の是非を問う
最近、「原付2種」と呼ばれる125ccバイクに乗るための免許取得に関して簡便化する方向での動きがあり、二輪業界はもとよりネット空間でも話題になっている。
海外ではクルマの付帯免許が主流
現在、「原付2種」に乗るためには「小型自動二輪免許」が必要である。これに対し、「原付1種」と呼ばれる50cc未満のバイクは普通免許を持っていれば誰でも乗ることができる。
つまり、クルマの免許にもれなく付いてくるオマケのような免許が「原付1種」であり、それゆえに日本では広く普及した乗り物となった。
一方で「小型自動二輪免許」を取るためには時間もお金もそれなりにかかるため、これをもっと簡便化して免許取得者を増やし、バイク業界を活性化させようというのが今回の主旨である。
ちなみに欧州やアジアなどの多くの国が、125ccまではクルマの免許で乗れる付帯免許としている例が多く、グローバル化の中でその流れに乗っていく狙いもあるようだ。
話題の発端は神戸で開催された「BIKE LOVE FORUM」
そもそも何故、今そのような話になっているのか。
去る2016年9月17日に神戸で開催された「BIKE LOVE FORUM」において、経済産業省の担当者が「原付2種」の免許取得を従来よりも簡単にする取り組みについて、意欲を示す発言をしたことに端を発している。
ただし、現行の「原付1種」のようなクルマの付帯免許にするかどうかは言及せず、運転講習の実施も含めた安全の担保を重視した上で検討していくとしている。
そこに至る経緯としては、全国オートバイ協同組合連合会や日本自動車工業会などの業界団体が中心となって数年来、二輪免許、特に「原付2種」の簡便化について警察庁などに要望、話し合いを重ねてきた下地がある。
根底には、日本におけるバイク販売の不振がある。「若者のバイク離れ」と言われて久しいが、バイクの新車販売台数は1980年代の最盛期から8分の1程度まで大幅に落ち込んでいるという事実。
一部の大型スポーツモデルなどは大人の趣味として人気を集めるが、市場規模としてはごく僅かであり、一方でバイクの新車購入者層の平均年齢はついに53歳に達するなど、このままさらに高齢化が進むことを考え合わせると、先行きがまったく見えない状況だ。
バイク市場の活性化をになう「ボリュームゾーン」
二輪の業界団体としては、母体となるメーカーの利益に供する活動をするのは当然であり、その起死回生をボリュームゾーンである小排気量モデルに託したい気持にも納得がいく。何しろ年間新車販売台数の75%は「原付」(1種が50%、2種が25%)なのである。
ただし、50ccは“ガラパゴス”と揶揄される日本独自の法規制の中で生まれた区分であり、使われ方も地方における「学生の通学」や「主婦やお年寄りの生活の足」、あるいは「宅配などの業務用」としてすでに定着、飽和状態にある。
その点、125ccは世界規模でみるとスタイリッシュなスクーターや、ミッション付きのスポーツタイプも含めてバリエーションも豊富で、混雑した都市部での「便利で効率的な移動手段」として、また趣味性の高い「ファンバイク」としての側面も併せ持っている。つまり、伸びシロがあるのだ。
メーカーとしては「原付2種」をジャンプボードにして、バイクから離れていた若者層や感性豊かなヤングアダルト層や女性層を取り込み、バイクの魅力を知ってもらいつつ、さらに上級モデルへとステップアップしていく「生涯バイクと親しむライフスタイル」を提案していくのが狙いだ。
そのためにはまず、「原付2種」に乗ってもらうための免許がないことには始まらない、というわけだ。
利便性が高い125ccだが、普及には安全性への配慮を
ライダー側のニーズとしてはこうだ。
原付1種(50cc)は速度制限が時速30キロ以下であったり、交差点での二段階右折義務があったりと規制も多く、現実的な交通の中では不便なことも多い。
これに対し原付2種(125cc)は、速度制限や交差点の曲がり方についても基本的にはクルマと同じで2人乗りも可能、と法的にも利便性は高い。
実際のところ、125ccはクルマの流れに乗れるだけの加速性能も備えているため、混合交通の中での親和性も高い。よく耳にする「道路の端をノロノロ走る50ccよりかえって安全」という意見にも一理あるだろう。これはドライバーからの視点でも同じかと思う。
そこでどうするか。
ここからは私見だが、「原付2種」は普通免許に付帯する免許であってもいいと思う。クルマの免許で乗れるバイクの上限を125ccとするわけだ。
もちろん、闇雲に規制緩和して免許だけを発行すれば、たちまち交通事故が増えることは予想に難くない。多くの現役ライダーも指摘しているように、50ccと125ccでは性能が大きく異なりバイクを安全に操るための専門的なスキルも求められるようになる。
規制緩和により悲惨な事故の犠牲者が増えることはユーザー、メーカー、団体、警察、国を含めて誰もが望まないはずだ。
「選択的付帯免許」という方法は?
具体的な施策のアイデアとして、「選択的付帯免許」としたらどうだろうか。クルマの免許は必要だが125ccに乗るつもりはない、という人には従来どおり「原付1種」のみ付帯する普通免許でいいだろう。個人的には原付講習ももっと手厚くすべきとは思うが。
そして、仮に125ccにも乗りたいがスクーターで十分という人には「AT原付2種限定」を付帯とし、125ccのミッション付きバイクにも乗りたい人には「MT原付2種限定」を付帯させる。
もちろん、安全の担保は絶対条件であるため「AT原付2種限定」でも最低1日はみっちり二輪の安全運転知識と技能実習を行う。
さらに「MT原付2種限定」を希望する人には加えてもう1日、クラッチ操作やギヤチェンジを含めた技能講習を受けてもらう。当然、教習所の負担が増えるため、その分の講習料は別途設定するが、現在の「小型自動2輪免許」にかかる費用よりはだいぶ安く設定する。
「選択的」とするには理由がある。現在でも普通自動二輪免許には「AT小型限定」の区分があり、受験者の比率も約5割と普通免許のAT限定と比べても高いのが特徴だ。つまり、同じ125ccでもより手軽に乗れるスクータータイプへのニーズが高いということである。
また、余談になるが、ヤマハ発動機が実施した実験的な試みで「バイクの免許を持っていない人向けのライディングスクール」を担当したことがあった。
そこでも教習用として125ccミッション付きバイクを使ったが、参加者が一番苦労したのがクラッチを使った発進とギヤチェンジ操作で、そこに慣れるまでに大半の時間を費やした。
同じ125ccでもスクーターとミッション付きでは運転の難易度が異なるのだ。このことからも、ATとMTは分けて考えるべきだ。
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実際の運用や本当に安全が担保されるのかなど細かい部分は、もちろん時間をかけて精査する必要はあるが、どこかの教習施設を使って実験的に運用してみて効果測定する方法も有りだと思う。ただ議論していても前には進めない。
バイクを愛する者の一人として、誰もが幸せになれる有り方を、皆で考え模索していくことが大事と思う。
参考:【二輪車の法的な区分について】
原付の1種と2種、小型自動二輪や軽二輪など……、バイクには法的にいろいろな呼称があって、とても分かりづらいのが日本の法律の特徴。そこであらためて、簡単に整理しておく。呼称が異なるのは管轄する法令によって区分が異なるからだ。
たとえば、125ccのバイクは道路交通法では「小型自動二輪」(正確には普通自動二輪車「小型」※以下同)であり、道路運送車両法では「原付2種」(第二種原動機付自転車)に分類される。
具体的には「排気量50ccを超え125cc以下または定格出力0.6kwを超え1kw以下のものを指す」となっている。今回、議論となっているのはこの区分のこと。
ちなみに125cc超250cc以下のバイクは、道路運送車両法では「軽二輪」(正確には二輪の軽自動車」として扱われ、250ccを超えると「小型二輪」(二輪の小型自動車)として扱われる。免許区分では400ccを超える「大型自動二輪」も同法では「小型二輪」の範疇になるわけだ。
このあたりの法的な呼称の煩雑さは一考の余地があると思うが、今回の論旨とはずれるので言及はしない。