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スコアが伸びた全米オープン初日。「長いマラソン」の中の一瞬の晴れ間

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
同組の2人。トーマスは単独首位に立ち、ウッズは71位タイと出遅れたが、、、(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 全米オープン初日は3人が18ホールを終えることができず、日没サスペンデッドとなった。昔から全米オープンは「パーとの戦い」と呼ばれ、このウイングドフットで前回開催された2006年大会の優勝スコアは5オーバー、今回は8オーバーにもなると予想されていた。

 だが、蓋を開けてみれば、選手たちのスコア(注;順位は暫定順位)はアンダーパーを示すレッドナンバーが続出。5アンダー、65をマークしたジャスティン・トーマスが単独首位に立ち、パトリック・リードら3人が4アンダーで2位タイ。ローリー・マキロイなど3人が3アンダーで5位に並び、実に21人がアンダーパーで回り切った。この日は「パーとの戦い」と言うより、むしろ「バーディー合戦」の感があった。

 とはいえ、スコアを伸ばせず苦しんだ選手たちもいた。メジャー16勝目を狙うタイガー・ウッズや世界ナンバー1のダスティン・ジョンソンらは3オーバー、71位タイと出遅れ、2006年の雪辱を誓うフィル・ミケルソンは9オーバーを喫して142位タイに沈んだ。

 日本勢は松山英樹と今平周吾が1オーバー、33位タイ。石川遼とアマチュアの金谷拓実が2オーバー、57位で発進した。

【なぜ、スコアは伸びた?】

 超難コースであるはずのウイングドフットで、なぜこんなにもスコアが伸びたのか。

「グリーンはとてもソフトだった。風も、さほど吹いておらず、スコアを伸ばせるグッド・コンディションだった」

 単独首位に立ったトーマスは、そう振り返り、「今日は胸を張れるいいゴルフができた」と自身のプレーぶりには満足げだった。

フェアウエイキープは14ホール中9回。レギュレーションでグリーンを捉えたのは18ホール中14回。1メートル半以内のショートパットは12回中12回沈めて、100%の成功率を誇ったのだから、そのパフォーマンスは素晴らしく、トーマスだけを眺めていたら、まるでイージーなコースでイージーにプレーしているかのようだった。

 しかし、ラウンド後のトーマスに笑顔はなく、厳しい表情のままだったことは、残る3日間への警戒心を強めているからだ。

「これはゴルフだ。4日間の戦いだ。まだ初日。これから何が起こるか、まったくわからない」

 7番でホールインワンを出し、2位タイで初日を終えたリードも、そのわりには険しい表情でこう語った。

「ホールインワンには、もちろん興奮した。でも、このコース、この全米オープンでは、たった1つのバッドショットで、いろんなことが起こる。それに、今日はスコアを作れるコンディションだったけど、だからと言って全員がアンダーだったわけではなく、やっぱり厳しいコースだった」

【苦しんだウッズ、DJ、ミケルソン】

 リードの言葉が示した通り、スコアリングしやすいコンディションだったとはいえ、苦しんだ選手は多かった。いや、上位陣の21人はアンダーパーで回ったが、それ以外の120人以上は、多かれ少なかれ苦しみ、やっぱり「パーとの戦い」を強いられていた。そう表現したほうが適切であろう。

 ウッズはショットもパットも決して不調ではなかったが、出だしからグリーンに翻弄され、序盤から我慢のゴルフになった。前半は2バーディー、3ボギーで1オーバー。後半は10番、11番で連続バーディーを奪い、よく踏ん張っていた。だが、13番、14番の連続ボギーが痛手になり、最後は集中力も切れ気味となり、上がり2ホールでボギー、ダブルボギーを喫して悔しい終わり方になった。

「ミドルパットをたくさん沈めた。前半はフェアウエイを次々にヒットしたが、ことごとく悪いスポットへ転がり込んだ。こらえよう、我慢しようと頑張ったけど、最後はいいフィニッシュができなかった」

 世界ナンバー1のジョンソンも3オーバーを喫し、全米プロを制したばかりのコリン・モリカワは6オーバー、120位タイ。

 そして、最大の注目を集めていたミケルソンは、2連続バーディー発進を切りながら、3番のボギーから崩れ始め、スコアは雪だるま式に膨れ上がり、9オーバー、79の大叩きで142位に沈んだ。

 スコアを出しやすいコンディションだったとはいえ、それは心技体すべてがいい具合に噛み合った人、噛み合わせることができた選手だけに与えられたボーナスのようなものだった。

 ウッズもジョンソンもモリカワもミケルソンも、言うまでもなく高度な技術を備えていながら、精神戦で躓き、苦しんでいた。

【明日からのウイングドフットはどうなる?】

 果たしてウイングドフットは明日もスコアを伸ばせるセッティングになるのだろうか。2日目以降、そして週末はどんな戦いの舞台になるのだろうか。

 5位タイのマキロイは、こう予想している。

「グリーンはもっと固くなるはずだ。USGAは間違いなくグリーンを固くするはずだ。でも、そもそもの傾斜でスピードは今日も出ていた。だから明日以降のグリーンは、必ずしも速くする必要はないが、固くするはずだし、(陽光や風で)固くなるはずだ」

 そして、単独首位のトーマスが口にした言葉が、あらためて思い出される。

「これはゴルフだ。4日間の戦いだ。まだ初日。これから何が起こるか、まったくわからない」

 初日に出遅れたとはいえ、ウッズは希望を抱いている。

「この大会は、長いマラソンだ」

 スコアを伸ばせるコンディションだった初日は、長い戦いの中の一瞬の晴れ間だった。その晴れ間に、すかさず光を浴びることができた選手もいれば、むしろ日陰に入ってしまった選手もいた。

 しかし、マザー・ネイチャーは気まぐれで、明日以降、何が起こるかわからない。日向と日陰の逆転はいくらでも起こりうる。初日にレッドナンバーがずらりと並んでいたのに、最終日が追わったとき、赤字はただ一人、あるいは皆無。そんな現象は、これまでの全米オープンで何度も繰り返されてきた。

 目に見えるようで見えないハードルを潜り抜け、長いマラソンを走り抜くのは、果たして誰か。本当の我慢比べは、これからが勝負だ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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