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「がん」などのインターネットの検索結果で「信頼できる医療情報」を手に入れるために知っておきたいこと

朽木誠一郎記者・編集者
『医療機関によるインターネット上の 医療広告の実態と課題』(JIMA)より

先日、『医療情報に関わるメディアは「覚悟」を - 問われる検索結果の信頼性』という記事を公開し、大きな反響をいただきました。

手短に説明すると、現在、命に関わる「がん」などの病名のインターネットの検索結果においては、ペンネームの素人がまとめた、信頼性の低い情報がヒットしやすくなっている、という内容です。

メディア側のテクニックやスパムにより、記事が検索結果において上位表示されれば、アクセスが集まり、広告収入が発生します。これはつまり、人の命を左右するような情報が、特定のメディアのお金儲けに利用されている、ということです。

しかし、匿名の非専門家がまとめた、信頼性の低い情報により、誰かの健康が損なわれてしまったら、一体誰が責任を取るのでしょうか。前述の記事でも指摘したように、当該のメディアにおいては、運営企業はその責任を放棄しています。

当社は、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動に関する判断・決定は、利用者ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。

出典:ブラックシードはスーパーフード!昔から私たちの健康に役立つ!ピロリ菌除去・喘息・アレルギー治療・認知症治療など頼りに!(魚拓)

しかし、ここで一点、考えなければいけないことがあります。逆に、信頼性の高い情報というのは、何を指すのでしょうか。

インターネット上の「信頼できる医療情報」とは

特定非営利活動法人日本インターネット医療協議会(JIMA)公式ホームページには、『インターネット上の医療情報の利用の手引き』として、以下の内容がまとめられています。時間がなければ、これだけでもメモしていただければかなり有用だと筆者は思います。

1. 情報提供の主体が明確なサイトの情報を利用する

2. 営利性のない情報を利用する

3. 客観的な裏付けがある科学的な情報を利用する

4. 公共の医療機関、公的研究機関により提供される医療情報を主に利用する

5. 常に新しい情報を利用する

6. 複数の情報源を比較検討する

7. 情報の利用は自己責任が原則

8. 疑問があれば、専門家のアドバイスを求める

9. 情報利用の結果を冷静に評価する

10. トラブルに遭った時は、専門家に相談する。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

※トップ画像は、同法人発表の資料『医療機関によるインターネット上の 医療広告の実態と課題 2010.6.23』のスクリーンショット

これがまとめられたのは2000年代始めのようですが、2016年10月現在においても、十分に周知されるべき内容です。そこで、以下に各項の詳細を引用しつつ、わかりにくい箇所は解説、現状に即していない箇所は補足をしていきます。

と、その前に。このあとの議論のために、ここで一次資料と二次資料の信頼性についても説明させてください。

Wikipediaには『信頼できる情報源 (医学) 』というガイドラインがあります。もちろん、Wikipediaに掲載されている医療情報は正確とは限らず、Wikipedia自体にも以下の記載があります。

ウィキペディアには医療に関する記事が数多く含まれていますが、いかなる記事もその正確性はまったく保証されていません。

出典:医療に関する免責事項

しかし、このガイドライン自体は、ネットでどう「信頼できる医療情報」を手に入れるかを考える上で重要なものです。そこで以下、いくつか内容を引用します。追って解説するので、まずは流し読みで問題ありません(以下、太字は筆者によります)。

生物医学的な内容にとって理想的な情報源は、評判の良い医学雑誌における文献レビュー(英語版)やシステマティック・レビュー、また評判のいい出版社から公表された関連分野の専門家によって書かれた学術的で専門的な書籍、また国内あるいは国際的に認知された専門機関による診療ガイドラインや見解声明(ポジション・ステートメント)が挙げられます。一次資料は医学の内容では通常は用いないようにすべきです。多くのそうした情報源は、総説論文によって吟味されていないとか、臨床試験によって実証されていない可能性のある予備的情報といった、信頼できない情報を説明しています。

出典:信頼できる情報源 (医学)

一次資料は、医学の分野では、著者が研究に直接参加したり、その個人的な経験を文書化したものです。彼らは患者を検査したり、ラットに注射したり、試験管に対象物を詰めたり、あるいは少なくともそれを実行した人たちを監督しています。医学雑誌にて出版されている論文は、すべてとは言いませんがその多くは、研究と発見による事実についての一次資料です。

二次資料は、医学の分野では、医学的な主題についての現時点での理解の概要を提示したり、推奨される方法の勧告を行ったり、複数の研究結果を結合したメタアナリシスのような、たいてい1つ以上の一次資料や二次資料をまとめたものです。例として、医学雑誌に掲載された文献レビュー(英語版)やシステマティック・レビュー、専門的な学術書や専門書、また主要な保健機関による診療ガイドラインや見解声明(ポジション・ステートメント)が挙げられます。

三次資料は、通常は二次資料の領域でまとめています。大学課程の教科書、一般向けの科学書、百科事典は三次資料の例です。

ウィキペディアのすべての記事は、信頼性の高い、出版された二次資料に基づくべきです。一次資料は 健康関連の項目には用いるべきではありません。なぜなら、一次の生物医学の文献は他の研究者によって反論を受ける可能性があるため、予備的で信頼できないからです。

出典:信頼できる情報源 (医学)

つまり、よくネットのニュースになる「○○の効果でがん細胞が消えた」といった研究結果の発表は、あくまでも一次資料であり、信頼性が高いとは言えないものです。また、非専門家による「○○で病気が治った/良くなった」といった感想は、信頼性という観点からは、それ以下として位置づけられるでしょう。

わかりやすく言えば、一次資料が、専門家たちによりさまざまな方法で比較検討されることで、二次資料以上になって、信頼性を担保されていきます。筆者からも繰り返しますが、参考にするべきは、基本的には二次以上の資料です。

その前提の上で、下記にて『インターネット上の医療情報の利用の手引き』から、それぞれの項目を紹介、必要に応じて解説・補足します。

1. 情報提供の主体が明確なサイトの情報を利用する

情報提供者の主体が明らかでない場合、情報の提供に伴う責任があいまいになり、掲載された情報の精度が低下しがちです。また、情報の利用に際して、トラブルが起こっても、十分な対応が期待できません。情報提供者の名前、所在地、連絡先が明示されていて、その実在が確認できることが重要です。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

“情報提供者の名前、所在地、連絡先が明示されていて、その実在が確認できることが重要”、つまり、匿名や、所属を明らかにしないまま発信された情報は信頼性が低いのです。例えば、“医師が監修”といった謳い文句があっても、その医師が実在しているかは別の問題ですよね。

ちなみに、医師が実在するかどうかはその名前を厚生労働省のサイトで検索することができますが、現在は“ウェブサイトの証明書が無効”の状態のためアクセス時には注意が必要です(このように、信頼できるはずのサイトのウェブ対応が不十分なことも、事態を複雑にしています)。

医師等資格確認検索システム - 厚生労働省

ただし、医師の中には通常業務との兼ね合いで、匿名での活動を余儀なくされている場合もあるでしょう。その際は「著書がある」など、第三者により情報提供者の名前、所在地、連絡先の確認がなされた上で発信されているであろう情報を選ぶといいのではないかと思います。

ここで、著書の内容が一次資料的であるという可能性もありますが、これもまた別の問題です。専門家の主張する内容であれば医学的に正しいとは、必ずしも言い切れないからです。他の専門家から批判がなされていないか、著書の評判をしっかりリサーチすることも重要になるでしょう。

近藤理論を放置してはいけない 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授・部長 外来化学療法室長 勝俣 範之 氏

2. 営利性のない情報を利用する

最新の科学的に見える情報であっても、情報提供の裏に物品の販売や特殊なサービス等の営利的な目的が隠されている場合があります。その情報提供によって、誰かが利益を得る仕組みになっていないかどうかを見極める注意が大事です。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

アフィリエイト目的のブログなどが最たる例ですが、記事の中で現代医療を否定するなどして不安を煽り、その上で健康食品を売りつけたり、カウンセリングを勧めたりするサイトが、残念ながら存在します。このように、あるいはさらに巧妙に、商品の紹介・販売につなげる展開の記事は、営利目的である以上は信頼性が低いと言えるのではないでしょうか。

一方で、世界的な製薬会社が、がんについての情報提供をしているような場合もあります。これは、突き詰めていけば企業の認知を拡大し、イメージを向上させるのが目的であるはずですが、直接的な営利を追及しているわけではないため、個人的には信頼できると考えています。

がんを学ぶ ひとりのがんに、みんなの力を | ファイザー

結局はこれも、1.のように“誰(どこ)がその情報を発信しているか”“その個人(組織)に社会的な信頼はあるか”が重要だと言えるでしょう。例えば、この『がんを学ぶ』のサイトには“監修者からの言葉”というページがあります。

監修者からのことば 日本医科大学付属病院 がん診療センター長 教授 久保田 馨先生

このページのように、信頼性を高めるための努力を運営者側がしているかどうかは、注目するべきポイントです。逆に言えば、その責任を放棄しようとするサイトは論外ということになります。

3. 客観的な裏付けがある科学的な情報を利用する

一見、専門的な情報に見えても、その内容が独断的で、科学的な理解を超えるような疑わしい情報には注意が必要です。関連する医学論文や記事、試験データが正確に引用されていて、きちんと科学的な裏付けがなされている情報かどうかを判断する必要があります。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

代替医療の問題は今回ここでは言及しませんが、インターネットはいわゆる“ニセ医学”と結びつきやすい、という特徴があります。その場合、多くは“体験者の声”の紹介、といった方法で法の目をかいくぐろうとしますが、それは前述したように一次資料以下であり、信頼性が低いことは知っておきましょう。

4. 公共の医療機関、公的研究機関により提供される医療情報を主に利用する

組織としての責任を重視する公共の医療機関、公的研究機関では、提供情報を委員会や複数の専門家が検証、吟味することにしています。このため客観性が高く、偏りが少ない情報源として利用するのに適しています。ただし、個人的な発信もあるため、どの範囲が公的な情報かを確かめる必要はあります。また、民間の中でも、客観的によく吟味されたことがわかる情報は、信頼性が高いといえるでしょう。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

基本的に、公共の医療機関・公的研究機関のサイトの情報は、信頼性が高いと言えます。国立・公立の病院や研究センター、医学学会や大学医学部などのサイトがそれに当たるでしょう。

また、3.にも関連しますが、インターネット上にも、一般の方も利用できる信頼性の高い二次以上の資料というのは存在します。例えば調布市立図書館の『健康・医療情報をさがすには 』というページでは、以下のようなサイトが信頼性の高いサイトとして紹介されています。当テーマについて丁寧に説明されているので、あわせてサイトを参照されるとよいかもしれません。

がん情報サービス - 国立がん研究センター がん情報対策情報センター

医療情報サービス Minds(マインズ) - 公益財団法人 日本医療機能評価機構

メルクマニュアル医学情報家庭版

Yahoo ヘルスケア 家庭の医学

もちろん、上記以外についても信頼できるサイトはありますが、再度、“誰(どこ)がその情報を発信しているのか”“その個人(組織)に社会的な信頼はあるか”を、いつも検証するようにしたいものです。

また、これはニュースサイトなどの報道についても同様に言うことができます。医療情報の取材に回答しているのは誰(どこ)か、また、そのニュースサイトに安易な医療批判を繰り返すような傾向はないか、についても検証する必要があるでしょう。

週刊現代の取材について〜記事捏造を告発する〜

5. 常に新しい情報を利用する

健康や医学に関する情報は日進月歩で進歩しています。最新の情報も更新されないままでいると、いつのまにか古い情報になって、その利用価値も変化していきます。掲載された情報が、いつ時点のものか、またいつ更新されたのかを常にチェックしていく必要があります。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

かつて常識とされた内容が覆ることは十分にあり得ます。「胃がんの主な原因はピロリ菌」や「風邪に抗生物質は基本的に処方しない」などは、まだ知らない人がいるかも知れません。

ただし、よく更新されているからと言って、信頼性の高いサイトであるとは限りません。むしろ、日々たくさんの記事を提供するニュースサイトでは、一次資料を取り扱うことが多く、キュレーションメディアは頻繁かつ大量に更新することで、検索結果を上げようとしています。信頼性の低いサイトはそもそもクリックしないか、クリックしてもすぐに前のページに戻るようにするべきです。

6. 複数の情報源を比較検討する

インターネット上ではいろいろな立場の人が、いろいろな考えをもって、情報発信をしています。同じテーマでも、立場によって見方が違ってきます。特定の情報だけを利用するのではなく、複数の情報を読み比べながら、自分に必要な情報を選び取っていく姿勢が大切です。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

こちらも5.同様に、検索結果が上位だからと言って、信頼性が高いとは限りません。一次資料はその他の一次資料と比較検討するべきであること、医学的に定説とされている情報は、二次資料以上にあることは、ご承知おきください。

7. 情報の利用は自己責任が原則

不特定の多数を相手に提供されている情報を利用して、万一利用者が不利益を被っても情報提供者の責任を問うことは難しくなってきます。「情報の利用は自己責任で」を基本に、冷静、慎重に情報を利用すべきでしょう。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

そして、この原則です。情報の「利用」はどうしても自己責任になってしまうからこそ、どの情報の信頼性が高いのかを、自分で判断する力が求められてるのです。それが、この記事を公開した理由でもあります。

一方、信頼性を担保せずに情報を「発信」する側には、メディアの倫理にもとるとして批判されて然るべきであると、筆者は思います。また、それ以前の問題として、法令などに違反している場合は当然、メディアはその責任を問われるでしょう。

8. 疑問があれば、専門家のアドバイスを求める

インターネットなどで提供される医療情報の中には、現在の標準的な医療に合わないものや、科学的な根拠のあいまいなものがあったりします。最新の医学の成果をいち早く享受できるチャンスもありますが、反対に誤って自分の健康を損なう危険性もあります。提供された情報を鵜呑みにせず、常にリスクを考え、疑問があれば主治医など医療の専門家の意見を求め、適切なアドバイスを受けてください。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

前述しましたが、誰でも情報を発信できるインターネットでは、ニセ医学が広まりやすいです。TwitterやFacebookを眺めていて筆者が感じるのは、人は自分の信じたい物事しか信じない傾向があり、インターネットはそれを加速させてしまうということです。

そんなときは、やはり、主治医やかかりつけの病院など、医療の専門家に意見を聞くことが必要でしょう。医療の専門家に気軽に問い合わせができるウェブサービスも生まれ始めていますが、やはり現時点では、対面で話を聞くのが一番信頼性の高い情報の手に入れ方になると筆者は思います。

9. 情報利用の結果を冷静に評価する

情報は、その情報が実際に利用された時に、内容価値に対する評価が下されていきます。情報利用に際しては、情報の中身を自ら検証する気持ちをもって、また利用の結果に対しても、冷静かつ公平に評価が下せる余裕が必要です。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

これも繰り返しになりますが、『インターネット上の医療情報の利用の手引き』においては、情報の「利用」は自己責任であるとされています。藁にもすがる思いで命に関わる情報を検索する人もいるでしょう。しかし、どうかその内容を鵜呑みにする前に、ここまで説明したようなポイントを思い返して、踏み留まっていただければ幸いです。

10. トラブルに遭った時は、専門家に相談する。

万一、医療情報を利用して、健康被害やトラブルを被った時は、ひとりで黙っていないで、医療の専門家、公的な相談センター、あるいは中立的な第三者機関に相談してください。すみやかな情報の提供が、次なる被害やトラブルの発生も未然に防ぎます。

出典:インターネット上の医療情報の利用の手引き

筆者としては、医療の専門家に相談するというのが一番であると思いますが、インターネット時代の利用する側の反逆の一手として、万が一、インターネットの医療情報を利用して健康被害やトラブルを被ったときは、インターネットで声を上げる、という方法もあるのではないか、と考えています。

というのも、最近はこのような現状を問題視する声を、TwitterやFacebookなどのインターネット上で見かけるようになったためです。医療の専門家にその声が届けば、少なからず状況改善につながります。筆者もまた、この問題を追及し続けるので、お力を貸していただきますよう、何卒よろしくお願いいたします。

インターネット上の「信頼できる医療情報」を手に入れるために

一般に、インターネットの検索結果においては、テクニックやスパムにより、上位表示が可能になってしまう現実があります。

だからこそ、“YMYL(Your Money or Your Life)”といわれる領域においては、検索サービスを提供するGoogleが、特に信頼性と専門性を重視することを表明していました。しかし、現状、望ましい結果になっているとは、筆者には思えません。

検索サービスを提供する側にも、状況の改善を強く要望します。しかし、それがいつになるかわからない以上、検索サービスを利用する側も、自衛の手段を持つ必要があるのではないでしょうか。

「だからインターネットはダメなんだ」ではなく、特に医療情報についてはメリット・デメリットをしっかりと把握した上で、便利なサービスとしてインターネット検索を利用する、という原点に、今一度、立ち戻る必要がありそうです。

記者・編集者

朝日新聞記者、同withnews副編集長。ネットと医療、ヘルスケア、子育て関連のニュースを発信します。群馬大学医学部医学科卒。近著『医療記者の40kgダイエット』発売中。雑誌『Mac Fan』で「医療とApple」連載中。

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