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内間康平インタビュー「初シーズンの初レースを走り出した瞬間に、今までとの違いを感じた」

宮本あさか自転車ロードレースジャーナリスト
内間康平 (photo: jeep.vidon)

2018年のNIPPO・ヴィーニファンティーニ・ヨーロッパオヴィーニに所属する日本人選手7人全員にインタビューを行った。第三弾は内間康平。海外レースの経験を豊富に有し、日本エリート代表として世界選手権やリオ五輪も走ってきた。だから自分とトッププロに「実力差」があることなど、十分に理解していた。しかし昨季、本格的なヨーロッパ挑戦に走り出した瞬間に、あっと驚いた。恐れていたほどには、その差が、大きくはなかったからだ。

自分から「入れて下さい」と声を出して入団を実現させたチームですが、昨シーズンは自分の思い描いていた走りができましたか?

まずはチームに上手く溶け込めたと感じています。去年の初戦はGPエトルスキー(2月5日)で、続く2戦目のツアー・オブ・オマーン(2月14日〜19日)では「逃げ」の指令を出されました。それこそ毎日のように、繰り返し「逃げろ」って言われましたね。でもオマーンでは、1度も逃げに乗ることができませんでした。だから「逃げに乗れない奴だ」みたいに認定されてしまった。何度もトライしたんですけど、どうしても上手くいかなくて。毎朝チームのみんなから「ウチマ、今日はなにをするんだ!?」って聞かれて、「僕は今日は逃げます!」って答えるパターンがずっとずっと続きました。まあ、いわゆる、「イジられ」てたんですよね。ティレーノ〜アドリアティコ(3月8日〜14日)の第3ステージで、ようやく逃げることができた。そしたら途端に、チームのみんなから、変にイジられることがなくなったんですよ。他の選手たちから「こいつちゃんとできるじゃん」という目で見てもらえるようになったんです。心の底から「あぁ〜」って思いましたね。たった1度逃げただけでも、こうしてチーム側からの見方というのは変わるんだ、と。

そうして逃げたことによって、自分の中でなにか見つけたことはありますか?

最初は6人くらいで逃げたんですけど、だんだん人数が減っていって……。僕も最後までは残れませんでした。最終盤に向けて逃げ集団が大きくペースを上げた時に、遅れてしまった。やはり逃げ集団の中でも力の差は存在しましたし、まだまだ自分には実力が足りないことを、改めて実感しました。ただ、もちろん「差があること」は想定内だったんですが、「差の大きさ」は想定内ではなかったかもしれません。実は、自分が想像していたよりは長く先頭に残れたな、という思いもあったんですよ。

つまり「自分はこの程度だろう」との想像よりも、実際にはもっといい走りができたということ?

はい。強く感じました。逃げに乗っている最中に、パワーメータのワット数を確認したんです。そしたら「えぇ、この数値で走れている!?」みたいなびっくりするようなすごいデータが出ていたんです。以前だったら絶対に出し続けられなかったであろう、そんな数値でした。チーム合流前から続けてきたトレーニングの成果だと思っています。チーム専門のトレーナーにちゃんとしたトレーニングメニューを作ってもらい、それを着実にこなしていくことで、自分が想像していたよりもはるかに伸びたんですね。自分にはこんなに「伸びしろ」があったのか、と気付かされました。しかも自分の中で「おそらくここが限界だろう」と勝手に決めていたラインがあったんですが、去年の序盤の段階で、そんなものはあっさり突き抜けたんですよね。まだまだ今も伸びている最中です。特に上りの能力は伸ばせる余地があると感じています。

具体的にどんなトレーニングが効果的だったんですか?

合流前の12月からメニューに重点的に組み込まれていたのは、パワーゾーンの有酸素域を伸ばすためのトレーニングです。ただ自分としては、練習用に指示されたワット数で走っているだけでは、実は物足りない気がしていたんです。この準備だけで本当に大丈夫なのかな……と、すごく不安でもありました。以前はむしろ自分を限界まで追い込むような練習をやっていましたから。でも加入初シーズンの初レースを走り出した瞬間に、あれ、ってなったんです。「前とは全然違う」、「ただあの強度で走っていただけなのに、こんなにも違うんだ!」と。トレーニングのやり方ひとつでこれほど変わるのだということを、身をもって知りました。

登坂力をもっと伸ばせば、チームのためにできる仕事がもっと増えるはずだと、内間康平は考える。(photo: jeep.vidon)
登坂力をもっと伸ばせば、チームのためにできる仕事がもっと増えるはずだと、内間康平は考える。(photo: jeep.vidon)

トレーニングでは順調に伸びている最中ですが、次に自分の課題としていることは?

体重管理です。去年の序盤にちょっとプロテインを変えてみたんです。いつもはソイだったんですけど、ホエイに変えてみました。そうしたら筋肉がつきすぎてしまって、体重も増えた。今の時点で体重は61kgなんですが、昨シーズンはミラノ〜サンレモが終わった直後だというのに65kgまで増えちゃったんですよ。あれは大失敗でした。だから今年は体重をきっちり落としてシーズンに臨まなければと考えています。マッサージ師からも「もっと体重を落としてみたらいいと思う」とアドバイスをもらっていますし。やっぱり彼らいつもたくさんの選手の体を触っているから、そのへんは分かっているみたいですね(笑)。ただ「落とす」と一言で言っても、相当気をつけなければ、逆にコンディションも落としてしまう。上手にバランスを取りながら、食べるものを気をつけながら、体重管理を試していかなければなりません。今回のシーズンオフは、一昨年までとは違って、そもそも体重を増やしすぎないように気をつけました。おかげで、例年ならば63kgくらいでシーズンインを迎えるんですけど、今1月の段階ですでに61kgに抑えられているんですよ。オフ中に筋肉が少し落ちているので、ベストの体調とは言えないですけれど、ベストの体重には近づいています。この先は体脂肪と筋肉とのバランスを調整しながら、シーズン通して体重を管理して行きます。

課題をクリアした先の、目指すモノはなんでしょうか?

今までの僕にはやはり、上りの力が足りませんでした。もちろん重点的に取り組んではきたんですけれど、結果には結びつかなかった。去年はトレーニングのおかげで、着実に能力が向上してきた。結果が伴うようになってきた。次は体重をさらに絞り込むことによって、もっと確実に上りをこなせるようにしたいですね。やはり上りで遅れてしまっては、チームのための仕事が十分にできません。上りでしっかりついていけるようになれば、できる仕事の範囲もおのずと広がっていきます。だってレースの後半になればなるほど、重要な仕事というのは増えていきますから。

チームのための仕事以外に、なにか個人的な目標はありますか?

僕個人でなにかをやりたいと思ったところで、まずはチーム全体のために動かなければなりません。しかもNIPPOというチームには、アジアでのUCIポイント獲得、という大きな責任が課されています。つまりチームオーダーをしっかりこなしつつ、日本という国のためのポイント収集も考えなければならないんですよ。色々なことを同時に計算しながら走らなければならないので、そういう面では、やっぱりちょっと難しさは感じています。でも個人の目標をあえて言うなら、アジアのレースで、アジアンリーダーのジャージを着たいですね。表彰台にだって上りたいです。

NIPPOというチームの中で、内間選手の存在価値とはなんでしょうか?

レースにおいてはどちらかというとアシストという役割をもらっています。レース以外の部分では、日本人とイタリア人とがもっと自然に溶けあえるような、そういう役目も務めていけたらと思っています。だって両方が溶け込むことによって、きっとチームはもっと上手く回っていくじゃないですか。特に今年は日本人選手の数が増えたこともあって、去年に比べると、どうしても日本人同士で固まりやすくなってしまった。年末からの合宿で、少しそんな印象を受けました。しかも今年はイタリア語を話せない日本人選手の数も増えましたからね。まあ、どの国の人間だって、人数が増えれば固まりやすい傾向はあります。どうしようもないことでもありますけど。ただレースだけではなくて、普段の生活から上手くチーム全体がかみ合うような、そんな役割を務められたら。なにかを変えていけるんじゃないかと思います。

今年で30歳になります。この先のキャリアについてはどう考えていますか?

あと数年はこの場で過ごしたい。このチームで走っていけるよう努力を続けたい。ヨーロッパのレースを走りたい、という思いを長年抱いてきたので、去年は本当に楽しかったんですよ。昨春にはミラノ〜サンレモに出場しましたが、やっぱり特別なレースだと感じました。チームの雰囲気自体が違う。メカニックやスタッフの準備をしている時の目つきがそもそも違うというか。だから今年もチームの中でヨーロッパ組として走っていきたいです。ヨーロッパのレースの雰囲気というのは、やはりヨーロッパでしか味わえないものです。走っている最中に味わうあの感覚は、すごく好きですね。

すでにリオでオリンピックを経験していますが、2020年についても考えたりしますか?

東京オリンピックに関しては、正直に言いますと、僕にはかなり難しいコースだと考えています。現時点で発表されている情報を見る限り、おそらくリオ五輪よりはるかに厳しいコースになるでしょうね。ツアー・オブ・ジャパンの練習を兼ねて、あの辺を走ったことがありますから、難しさは嫌と言うほど承知してますよ(笑)。ただオリンピックにもう一度出たい、という気持ちは大きいです。これを「野望」と呼んでいいのか分かりませんけど、意欲は大きい。コースを考えると「僕ではない」とは感じます。でも出たい。そのためには今シーズンさらに力を伸ばして、2019年にいい走りを実現させなければなりません。選考基準はまだ分かりません。ただ、それでも、とにかく自力でポイントを少しでも多く稼ぐことで、目標に大きく近づけると思っています。

(2018年1月15日、スペイン・カルペにてインタビュー)

NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ヨーロッパオヴィーニ 2018年日本人インタビュー

初山翔中根英登内間康平

自転車ロードレースジャーナリスト

フランス・パリを拠点に、サイクルロードレース(自転車競技)を中心とした取材活動を行っている。「CICLISSIMO」「サイクルスポーツ」誌(八重洲出版)、サイクルスポーツ.jp、J SPORTSサイクルロードレースWeb等々にレースレポートやインタビュー記事を寄稿。

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