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物価高への懸念と冬への不安と…2023年10月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
人の流れの増加はあるも物価高が足を引っ張る(写真:Michael Steinebach/アフロ)

現状は下落、先行きも下落

内閣府は2023年11月9日付で2023年10月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。

2023年10月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス0.4ポイントの49.5。

 →原数値では「よくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「ややよくなっている」が減少。原数値DIは49.9。

 →詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」以外の項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.1ポイントの48.4。

 →原数値では「よくなる」「変わらない」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」「やや悪くなる」が減少。原数値DIは49.6。

 →詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外の項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年10月では人流増加によるプラスの影響はあるものの、物価高で消費意欲が抑えられるなど多方面でのマイナスの影響が生じており、前月比で下落することとなった。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2023年10月では年末年始に向けて人の流れの改善による期待がある一方で、物価高への懸念が非常に大きく、不安が高まりを見せており、さらに暖冬予想のために季節物の動きが鈍くなるとの予想もあり、前月比で下落することとなった。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2023年10月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2023年10月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の増加が景況感の足を引っ張ってはいるが、人流増加のプラス影響は力強く、前月比でプラスを示していた。しかし今回月では物価高の影響が非常に強く、全体ではマイナス。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2023年10月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2023年10月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」。人流増加によるプラス影響もあるが、物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念、さらには暖冬予想が景況感の足を大きく引っ張っている。

多方面で物価高の影響が

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

・インバウンドや観光需要が拡大している。また、秋の行楽シーズンで、地元客の外出が活発化している(一般レストラン)。

・8月は前年比80%、9月は前年比83%と改善している。夏の暑さや残暑が無くなり涼しくなってきたため、人の出入りも増えてきた(テーマパーク職員)。

・光熱費の負担が大きい北海道においては、気温が低くなるにつれて、客の生活防衛意識が高まり、節約志向がみられるようになっている。菓子や雑貨など、価格優位性のない商品はコンビニエンスストアでは買わなくなってきている(コンビニ)。

・客は必要最低限の物のみを購入している様子で、ついで買いや衝動買いが減少している(家電量販店)。

■先行き

・コロナ禍が明けて最初の年末年始を迎えるに当たり、お盆時期同様、人の往来が増加し、それに伴い来客数や売上が増加すると見込んでいる(百貨店)。

・法人関連を中心に徐々に忘年会の問合せも増えつつあり、コロナ禍明けの反動景気の基調を感じつつある(高級レストラン)。

・物価上昇により、生活防衛意識や節約志向が強まり、消費は緩やかに減少へ向かうとみている(スーパー)。

・暖冬予想のため、季節商材の伸びは期待できない(家電量販店)。

新型コロナウイルスへの取り扱いを5類感染症に移行したからといって、コロナ禍が終わったわけでは決してなく、その誤認識による油断や対応の誤りが感染症の沈静化を妨げている。しかしながら現実としては、少なからぬ人がコロナ禍は終わった・明けたと考えてしまっていることが今件コメントからもうかがえる。

それを別にすると、インバウンドや人流の増加による経済活性化の実感とさらなる好影響への期待がある一方、物価高による悪影響が多方面で生じている様子がうかがえる。

企業動向でも物価高への影響が見受けられる。

■現状

・半導体の安定供給により製造業の需要が高止まりする見込みである(輸送業)。

・原料価格の高騰や資材価格及び物流費の値上がりにより、売上は伸びているものの、利益は圧迫されており、厳しい状況にある(食料品製造業)。

■先行き

・計画した生産量に比べ、若干であるが上振れ傾向が続く(輸送用機械器具製造業)。

・先行きが見えない資材の値上がりは今後も続いていくと考えるが、価格交渉がスムーズに進むとは考えにくい(出版・印刷・同関連産業)。

企業動向関連では物価高による悪影響が多々見られる。半導体の安定供給という話は数少ない好材料ではある。

雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。

■現状

・新規求人数は、全体では減少しているものの、情報サービス、貨物運送、技術サービス業など大幅な求人数の増加がみられる業種もあり、求人全体として低迷している感はない(職業安定所)。

■先行き

・年末から新年に向け、新たな人材案件が発生すると考えられ、それに応じて求職者の就労が増加し、多少上向きになるとみている(人材派遣会社)。

求人の好調さが一部の業種に生じているとの話には注目したい。その業種は人手を増やす必要に迫られており、活性化が期待できるからである。他方、「年末から新年に向け、新たな人材案件が発生すると考えられ」という、単純に年末年始の切り替わりによるものでなければ、何の話なのだろうかと首を傾げるコメントもある。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。今回精査分ではまだあまり声は上がっていないものの、昨今では再び感染者数の増加の動きがあり、これが景況感にいかなる影響を与えるのかが気になるところ。

さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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