「事務所は歯がゆかったと思います」。それでも土屋礼央が守る家族への思い
アカペラグループ「RAG FAIR」の土屋礼央さん(44)。日本テレビ「行列のできる法律相談所 恐妻SP」で第14代王者に輝くなど“恐妻家”としても認知されていますが、夫婦関係への持論を綴った著書「ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった。」を3月3日に上梓しました。土屋さんが語る夫婦円満の極意とは。そして、さらに根底にある思いを語りました。
少しでも怒られないように
自分の中で、結婚はすごく大きなことでした。
今までは自分のために生きていた。それがガラッと変わりました。
ま、ガラッと変わったというか、変えていきました。
少しでも妻に怒られないようにしよう。怒られるのが本当にイヤな僕が、極力“そうならない”ための知恵を積み重ねてきました。
ウチの場合は、妻が橋下徹弁護士くらい弁の立つ人で、お付き合いした女性の中で初めて僕を叱ってくれた人でもあったんです。
妻がすごくしっかりした人である。妻が言ってることは基本的に間違いないと僕が思っている。
そして、これも事実として、妻が胃がんになって胃を全摘出した。人は死んだら何も残らないという感覚を強く感じた。その思いもあります。
そういう部分があったことがウチの場合は大きかったとも思いますし、どこのご夫婦にも必ず当てはまるものではないとも思っています。
今回、本も出させてもらいましたけど、これを読めば何もかも完全にうまくいく!なんてことはあるはずもないですし、僕においても、100怒られていたものを何とか50にできた。そんな感じです。
今も、本のプロモーションをする時には、妻から「こんな本を書いて、家のことを分かった風な顔してるけど、全く分かってないからね」と毎回釘を刺されていますし(笑)。
投票権が2票の国
「この人と生きていこう」と決めて、結婚をした。さらに、ありがたいことに、子どもも授かりました。
ただ、その頃から、妻に理不尽なことで怒られることが急に増えたんです。そこで「オレはいったい何のために結婚したんだ」という思いが出てきました。
そこで僕がやってきたのが“意識を変える”ことだったんです。
例えば、ある時「スキマスイッチ」としゃべってて、僕はバンドしかやったことがないので、ふと「二人組の良いところってナニ?」と聞いてみたんです。
そこで聞いたのが「二人組だから意見が2票しかない。なので、前に進むには意見の一致しかないし、対立したらそこでストップ。進みたいなら、両方が賛成するか、どちらかが歩み寄るしかない」という“二人組の明確さ”みたいな話だったんです。
そこから、夫婦は「投票権が2票しかない国」だと自分の中で思うようになって「自分の意見を言う」というより「どうしたら歩み寄れるのか」という発想になりました。
そして、相手が歩み寄らないのであれば、こちらが歩み寄るしかない。それを相手に要求しても多分うまくいかないし、一番手っ取り早いのは自分が変わることだと。そういうかたちで腹をくくるようになったというのはありますね。
あと、僕はテレビゲームが好きなので、ゲームをしている時は時間を忘れちゃう。だったら、人生もゲーム感覚にしたら、ずっと面白いのかなと思ったんです。
仕事を終えて家に帰る時も、最寄り駅に着いたらまず電話をする。そこで妻の機嫌の現状把握をするわけです。
それを把握したうえで、玄関まで来たら、自分の仕事のことは一切忘れる。
そして、妻が今日何をしていたのかを一回まとめた上で、その話を聞きたいモードになってから玄関のドアを開ける。
そうすれば、会話も弾むし、空気も良くなるし、妻にとっての良いパートナーになれる。
そうやって、家での時間が良いものになって、その日が楽しく終われば、そのステージをクリア!みたいなことを日々やってるんです。
もちろん、思いもよらぬ展開になって失敗することもあります。そうなったら、次はそこも加味した上で、より失敗しない要素を、アイテムを、集めてクリアを目指す。そういう考えになるんです。もしくは、そういう考えにするんです(笑)。
こんな話をすると、決まって、多くの声をいただきます。
「そんなことして、楽しいの?」
「自分への洗脳じゃないの?」
「僕は絶対そんなのやりたくない!」
でも、そうしているうちに、無理強いや感覚のごまかしではなく“自分の幸せは家族の幸せ”という感覚に僕はなっていったんです。
それ以上のものはない。
以前は、むしろ全く逆で「自分の仕事を全うするためには、恋愛もいらない」という生き方をしてきた人間が、そうなったんです。
「今年こそブレーク」で20年
実際、妻と息子の幸せのために生きられるのであれば、仮に、いわゆるおいしい仕事であっても、仕事を断ってきました。そんなことを繰り返してきました。
それこそ「行列のできる法律相談所 恐妻SP」で優勝した後も、たくさんオファーをいただいたんです。ただ、そのほとんどが「家族を番組に出してほしい」というものだったんです。
だけど、妻が「出たくない」と言うなら、僕はその決断の中で生きていくしかない。「出る」ことは妻にとって「幸せ」ではないわけですから。
なので、マネージャーさんとしても、事務所としても、歯がゆく思っていると思います。仕事の上で、もう一つ波に乗れなかったし、もう一つ、売れてくれないと困るんだよという思いもあったと思いますし(笑)。
ま、ラジオはウソをついちゃダメな場ですから、家の話もします。その時点でプライベートをさらけ出しているとなるのかもしれませんけど、本当に家族が出てくるのではなく、あくまでも、そこは話芸として楽しんでもらう。
あと、ミュージシャンの仕事をしていることも大きいとは思います。大げさな言い方にもなりますけど、ステージ上は疑似恋愛をする場でもあるので、そこでは家族の話はしない。
そんな価値観の中で、ファンの方に「この人には家族がいるんだ」という情報を目から入れる。それが家族を出すということになるんでしょうし、自分としてそれはマナー違反だなという部分もあります。
いろいろな仕事をしているので、それぞれにおける基準や対応があるんだと思いますけど、全てにおいて「家族が幸せならいい」がものさしにはなっています。
最初はひたすら言い聞かせてましたけどね(笑)。今はだいぶスムーズになってはきましたけど、まだ道半ばだとは思います。
ま、事務所の社長から「今年こそブレークね」と、もう20年言われてますから(笑)。それはそれで頑張らないといけないんですけどね。
妻への愛は“年金”
これまでいろいろやってきましたけど、一つ確実に言えることは、テクニックは結果的にバレるんです。
これはラジオにも言えることなんですけど、技術論的に良さげなことをしていても、どこかでバレる。逆に、出てくる言葉がヘタクソでも、そこに思いがあれば伝わります。
夫婦関係を良くしようと思うならば、根本に「あなたのことが大好きで、あなたと一緒に生きていきたい」という思いがないと、結局、うまくいきません。その思いがあってこその、テクニックというか、方法ですから。
妻への愛情は、年金と同じだと思っています。
子育てが終わったタイミングで還付されるんです。そして、それは前にさかのぼって払うことができない。今から、今日から、年金のように払っていかないと、その時が来てからでは手遅れになる。今が一番若いですから。払うなら、今からなんですよ。
恐らく、ヤフーコメントには「お前みたいなヤツがいるから、いろいろおかしくなるんだ!」的な書き込みが続出するかもしれませんけど(笑)、今回の本もそうですけど、ビジネス書のように「こうすべき」ということが書いてあるわけではないんです。
「こういう考え方もある」
そんなかたちで、一つでも参考にしてもらえたらなと。ハッキリ言ってね、これを全部やるのは男性にとってかなりの苦行だと思いますんで(笑)。
(撮影・中西正男)
■土屋礼央(つちや・れお)
1976年9月1日生まれ。東京都出身。2001年、アカペラグループ「RAG FAIR」のメンバーとして、サングラスと白いファーを巻いたスタイルでデビュー。アカペラ史上最高の動員数を全国各地で記録する。02年にはNHK紅白歌合戦にも出場。また、トークセンスを評価され、02年からニッポン放送「土屋礼央のオールナイトニッポン」を3年半担当する。日本テレビ「行列のできる法律相談所 恐妻SP」で第14代王者となる。TBSラジオ「赤江珠緒 たまむすび」、NACK5「カメレオンパーティー」などに出演中。著書「ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった。」を3月3日に上梓した。