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ロックダウン中の上海のあちこちで、夜に「音楽会」が開かれている感動的な理由

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

3月末からロックダウン(都市封鎖)に入っている上海市。4月10日時点で感染者数は約2万5000人と過去最多となり、封鎖解除の見通しは立っていない。人々は家の中に閉じ込められ、食料不足も続くなど苦しい状態に置かれているが、ここ数日、上海市内のあちこちで、ある「音楽会」が開催され、話題になっている。

コロナ禍だからこそ思いついた音楽会

「4月〇日、午後8時から、〇〇マンションで、“雲上音楽会”を開催します。曲目は・・・・・です。午後7時55分になったら、スマホなどをつなぎ、窓辺などでスタンバイしてください」

たとえば、このような案内で、同じマンションの住民同士で構成されているSNSのグループチャットにお知らせが流れてくるという。

「雲上」(または「雲」)とは「オンライン」のこと。つまり「オンラインのライブ音楽会」が開催されるという意味だ。

ただパソコンやスマホ上で同じ音楽を聴くというわけではない。同じマンションの住民自身が演奏したり、参加者全員で同じ歌を同時に歌ったり、参加者の歌を聴いたりする双方向の自発的なライブ音楽会だ。

さまざまな形態があるようだが、たとえば、事前にマンションの有志がどのようなコンテンツ(プログラム)構成にするか相談し、日時や曲目を決めて住民に上記のように通知する。参加したい住民は、送られてきた案内にあるQRコードを読み込み、その時刻になったらブルートゥースをつないで参加。

スマホに向かって一緒に歌ったり、スマホのライトを窓の外に向けて、向かい側にある別のマンションに大きく振ったり、マイクや拡声器を使って「上海、加油!」(上海、がんばろう)などと大声で叫んだりする、というものが多いようだ。

マンション単位で行う

中国の大都市の住民は、マンション(集合住宅)に住んでいる人が非常に多い。数棟から数十棟が1つのマンション群になってゲートで囲まれており、それぞれが村のようになっている。

そこに、少ない場合は数百人、多い場合は数千人もの人が住んでいる。PCR検査なども、そうしたマンション群を1つの単位として行う場合が多い。

そこで、今、このような各マンション群限定の音楽会が開かれているのだ。

一体感を覚えて感動した

だいたい30分~1時間程度で終了するプログラムが多いようだが、ストレスを抱えている市民の間で非常に好評で、SNSにも「窓を全開にして、思い切り歌った。周りのマンションの人たちの歌声もすぐそばで歌っているように聞こえて、一体感を覚えた。とても感動した」

「ずっと家にいて鬱屈していたが、歌を歌ってストレスを発散でき、コロナなんかに負けないぞという、とても前向きな気持ちになれた」

「向こう側のマンションの人たちもがんばっている。皆、一緒にがんばろう!」という声が多数掲載されている。

歌われている曲はさまざまだが、若者から老人まで、中国では多くの人が知っている『我和我的祖国』や『明天会更好』、ほかにアメリカを中心に世界中でかつて大ヒットした『We Are The World』(中国名は『四海一家』や『天下一家』)などが選ばれていることが多いようだ。

ある知人が住むマンションでは、今月誕生日を迎える人のため(ロックダウン中でお祝いもできないので)『Happy Birthday To You』も選曲されて、「とても温かい気持ちになった」と話していた。

音楽は癒し、心のくすり

このような同じマンション群だけの限定音楽会は、3月28日以降、上海市がロックダウンに入ったあと、どこからともなく自発的に始まったもののようで、今、大規模なマンションの多くで、夕食後の夜の時間帯を中心に、ときどき開催されている。

ときにはマンションのゲート付近でずっと仕事をしている防疫担当者や管理人なども一緒に歌ったり、踊ったりしているという。

中国の「新浪視頻」(動画)には、いくつものライブ音楽会の模様や、それに関する報道が流れているが、3月末にある雲上音楽会を主宰した西部地区に住む男性は、動画の中で開催の経緯を次のように語っていた。

「この前、マンションの地下駐車場に行ったところ、高齢の男性が1人で黙々とサックスの練習をしていたんです。そのメロディーを聞いてとても感動し、このマンションの皆で演奏会を開いたらいいんじゃないか、というアイデアを思いついたんです」

そこでの音楽会は住民の子どもたちが中心だ。マンション群に住む子どもたちの有志20人がピアノ、バイオリン、ドラム、古琴などを演奏し、約400人の住民がオンラインで視聴したという。最後に、地下駐車場で練習していた高齢の男性もサックスを吹いて、住民から拍手喝采を受けた。

企画した男性は「コロナは無情だが、人間には情がある。私たち人間はお互いに励まし合うことが大事だということを改めて学んだ。音楽は癒しであり、心のくすり。リラックスの効果もある。子どもたちにとっても、皆に演奏を聴いてもらうことは大きな喜びになったと思う」と話していた。加油!上海。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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