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トーマス・パーティは「アーセナル復活のキーマン」。英記者が語る補強効果とは?【現地発】

田嶋コウスケ英国在住ライター・翻訳家
マンチェスターU戦で奮闘するアーセナルのMFトーマス・パーティ(写真:ロイター/アフロ)

イングランド・プレミアリーグのアーセナルが、1日に行われたマンチェスター・ユナイテッド戦で1−0で勝利した。

マンチェスターUの本拠地オールド・トラフォードで行われたこの一戦で、抜群の存在感を示したのが、今夏の移籍市場でアーセナルに加わったMFトーマス・パーティだ。スペインのアトレティコ・マドリードから1ヶ月前に加入したばかりだが、マンチェスターU戦で特大のインパクトを放った。

活躍はスタッツに表れている。ボールタッチ数(79回)、ボール奪取数(11回)、タックル&インターセプト数(6回)、ドリブル成功数(3回)は、いずれもアーセナル内でトップ。英BBC放送は、この試合のマン・オブ・ザ・マッチにパーティを選出した。

では、補強効果はどれほどなのか──。プレミアリーグの取材を精力的に行なっている、英紙『タイムズ』のガリー・ジェイコブ記者に話を聞いた。

 

─アーセナルはいつからパーティを追っていたのか。

「実は、6年前の2014年から動向を追っていた。特に、この2年は獲得を熱望していた。19年4月には欧州リーグのアーセナル対ナポリ戦に、彼の代理人を招待している。パーティもアーセナル移籍に意欲を見せていたが、当時監督を務めていたウナイ・エメリ(現ビジャレアル監督)がウインガーの補強を希望したため、移籍は実現しなかった」

─エメリ監督は昨年12月、成績不振で解任された。そして、後任にクラブOBのミケル・アルテタが就任した。チームを進化させる意味でも、アルテタ監督にとって今夏の移籍市場は極めて大きな意味を持っていた。

「たしかに。市場開幕に先立ち、指揮官は、アーセナルのスカウト部長フランシス・カジガオから補強の推薦リストを受け取っている。その中に、パーティの名前があった。アーセナルは20試合近く彼の試合を偵察し、今回もスカウト部門は獲得を強く推していた」

─カジガオは、セスク・ファブレガスやエクトル・ベジェリン、ガブリエウ・マルティネッリを発掘した名スカウトですね?

「そのとおり。アーセナルは8月にコロナ禍による財政難の影響で55名のクラブスタッフを解雇したが、驚くことに、この55名にカジガオも含まれていた。アーセナル首脳陣は迷走を続けているが、この決断も理解しがたい…」

─パーティのストロングポイントはどこか。

「186センチの長身で、体も厚みがあり、たくましい。エネルギーとパワーがあり、アーセナルの中盤に足りなかったフィジカル・プレゼンスを注入するだろう。同時に、優れたボールテクニックとインテリジェンスも兼ね備える。守備面だけでなく、攻撃面でも大きく貢献するはずだ。攻守両面で優れているのは、過去3シーズンのスタッツに表れている。スペインリーグのMFのなかで、パーティはタックルとインターセプトの数でトップ10入りしている。また、ドリブルと、ペナルティ・エリア外からのゴールの数でも10位以内に入っている。攻撃のギアを入れる縦パスも大きな武器だ」

─パーティの加入で、アーセナルはどう変わるか。

「まず、戦術面で多様性が生まれる。彼は4−3−3のアンカーとしてプレーでき、インサイドMFとしても能力を発揮できる。さらに、3−4−3のセントラルMFとしても機能する。パーティの加入で、アルテタ監督は戦術面で柔軟に対応できるようになる。無論、中盤のクオリティは格段に上がる。

私の目には、2005年にアーセナルを退団したパトリック・ビエラと重なる。頭脳的なプレーで中盤をコントロールしながら、フィジカル・プレゼンスを駆使してボール奪取に走る。両者は共通点が多いだけに、パーティはビエラの再来と言えよう。ビエラの退団以降、アーセナルはフィジカルの強いMFを欠いていたが、ようやく手に入れた」

─パーティの補強で、アーセナルは進化するか。

「間違いなく進化する。アルテタ監督は3−4−3システムで戦うことが多い。だが、マンチェスターCでペップ・グアルディオラ監督から学んだ4−3−3にシステムを切り替えたいと考えている。この4−3−3システムへの移行で、パーティはキープレーヤーになると見ている。

現行の3−4−3は、相手が格上のときに威力を発揮する。事実、昨シーズンのFA杯ではこの3−4−3を採用し、準決勝でマンチェスターC、決勝でチェルシーを下して頂点に立った。だが、格下には苦戦する傾向がある。対戦チームが自陣深くで守備を固めると、この3−4−3はどうもうまく機能しない。それゆえ、4−3−3の本格導入に踏み切りたい。

4−3−3で中盤の守備強度を引き上げながら、いかにボールを保持して攻めるか。その鍵を握るのがパーティというわけだ。アーセナル復活のキーマンになるだろう」

英国在住ライター・翻訳家

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学卒。2001年より英国ロンドン在住。香川真司のマンチェスター・ユナイテッド移籍にあわせ、2012〜14年までは英国マンチェスター在住。ワールドサッカーダイジェスト(本誌)やスポーツナビ、Number、Goal.com、AERAdot. などでサッカーを中心に執筆と翻訳に精を出す。

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