Yahoo!ニュース

「戦争に行きたくないのは身勝手」SEALDs批判の武藤議員、「自分は戦争に行くのか?」との問いを黙殺

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
武藤議員のツイッターでの投稿
武藤議員のツイッターでの投稿

どこかのネット右翼がバカなことを書いているな…と思っていたら、なんと現役の国会議員だった。自民党の武藤貴也衆議院議員(滋賀4区)が、安保法制に反対する学生団体SEALDsに対し、「戦争に行きたくないなんて身勝手」との発言をツイッターに投稿したことは、報道ステーション等でも報じられたので、本稿読者の方々にもご存じの方もいらっしゃるかもしれない。

SEALDsという学生集団が自由と民主主義のために行動すると言って、国会前でマイクを持ち演説をしてるが、彼ら彼女らの主張は「だって戦争に行きたくないじゃん」という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ。

出典:https://twitter.com/takaya_mutou/status/626788645379280896

これが、ネット右翼やテレビタレントの発言ならば、「バカなこと言っている」ですむのだろうが、安保法制を国会に提出した政府与党の国会議員の発言である。やはり批判されてしかるべきだろう。実際、武藤議員の投稿には、批判的なコメントが殺到している。

○安倍政権の本音を代弁?

これらの批判に対し、武藤議員は、自身のブログで「国民に課せられる正義の要請」と題し、説明したつもりのようであるが、これまた批判を浴びそうなものである。いわゆる砂川事件時の田中耕太郎最高裁判所長官の補足意見を引用しつつ、

自国の防衛を考慮しない態度も、他国の防衛に熱意と関心を持たない態度も、憲法が否定する「国家的利己主義」だと言っています。そしてその上で、真の自衛の為の努力は、正義の要請であるとともに、国際平和に対する義務として「各国民に課せられている」と言っています。

出典:http://ameblo.jp/mutou-takaya/entry-12057766363.html

と、要は戦争に行くのは国民の課せられた義務であると言わんばかりなのだ。安倍首相ですら、先月30日の参院安保法制特別委員会で、「憲法18条が禁止する『意に反する苦役』に該当する。明らかな憲法違反で、たとえ首相や政権が代わっても徴兵制の導入はあり得ない」と答弁している。武藤議員は安倍首相にも「国民に義務を果たさせろ」とお説教するつもりなのだろうか。もっとも、武藤議員は安倍政権の本音を代弁しているだけなのかもしれない。安倍政権は来夏の参院選後、改憲を目指しているが、自民党の憲法草案に関するQ&Aには、「基本的人権は制限されるべきもの」と書かれている関連情報)。また、現在の憲法では徴兵制はできないのであるが、自民党の憲法草案での第18条を見ると、「何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない」とあり、政治的、安全保障的にはアリなのか、とも取れる抜け穴を用意しているのだ。そもそも、憲法というものは、立憲主義に基づき、個人の人権を守るため国家の暴走を抑えるという役割があるのだが、自民党の憲法草案は、個人に課せられる義務、国家への奉仕が強調されるという、もはや憲法とは全く言えないシロモノ。そのような意味では、武藤議員は自民党内の空気を読んでいる(世論の空気ではない)だけで、自民党を批判せず、彼だけを批判するのは間違いなのかも知れない。何しろ、あれだけの問題発言をしておきながら、自民党は公式には、武藤議員を処罰していないのだから。

○米国に魂を売った田中最高裁所長官を持ち上げる政治的センスの無さ

また、田中最高裁判所長官(当時)の補足意見だけをもって、集団的自衛権の行使を認める、さらに徴兵制まで肯定する、というのは無理がある。そもそも、砂川最高裁判決では「統治行為論」、つまり高度な政治的な問題に対し、裁判所は合憲か違憲かの判断することを避けるとして、日米安保条約の憲法判断について責任放棄したのである。その上、田中最高裁判所長官(当時)は、砂川事件の最高裁判決の前にマッカーサー米国大使(当時)と何度も密談し、米国側の要請を聞いていたことが、米国側の内部文書で明らかになっている関連情報)。司法の独立を捨て、米国の代弁者となった田中最高裁判所長官(当時)の言葉をありがたがること自体、武藤議員の政治的センスを疑わざる得ないだろう。

武藤氏はそのブログで、元外交官の岡本行夫氏の参院安保法制特別委員会での「二〇〇四年四月、日本の三十万トンタンカーのTAKASUZUがイラクのバスラ港沖で原油を積んでいた際に、自爆テロボートに襲われました。そのときに身を挺して守ってくれたのは、アメリカの三名の海軍軍人と沿岸警備隊員でした」と引用しつつ、「世界中が助け合って平和を構築しようと努力している中に参加することは、もはや日本に課せられた義務であり、正義の要請だと私は考えます」とも書いている。だが、そもそもイラク周辺で欧米や日本の国民への攻撃が頻発するようになったのは、イラク戦争の結果であるし、それを自民党政権が支持・支援したことを忘れてはならないだろう。イラク戦争が「世界中が助け合って平和を構築」するものではなく、戦争犯罪のオンパレードであったことも明白だ関連情報)。米国の独善的で国連憲章違反、国際人道法違反の戦争を否定せず、ご都合主義で戦争や平和を語る偽善性にほとほと呆れかえる。

○「戦争に行きたくない」は正しい

国会前で安保法制反対を訴えるSEALDsのメンバーら
国会前で安保法制反対を訴えるSEALDsのメンバーら

SEALDs については、筆者も取材しているので補足するが、彼らは単に「戦争に行きたくない」とだけ言っているわけではない。むしろ「憲法をまもれ」「民主主義をまもれ」と繰り返し訴えているのである。

関連記事:

安倍政権を揺るがす!?学生団体SEALDsが今週3日間連続で安保法制強行採決反対の国会前抗議

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20150714-00047497/

無論、「戦争に行きたくない」ということ自体、間違いではない。日本国憲法前文には、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と書かれている。「戦争に行きたくない」ということは、憲法で保障された個人の権利である。その権利を国会議員が「利己的個人主義」として否定すること自体が、許されないことであり、最高法規たる憲法を理解・尊重しない人間が、国会議員をやっていること自体、現在の自民党の劣化ぶりを如実に表している。

○武藤議員自身は戦争に行く覚悟はあるのか?戦場で死ぬ覚悟はあるのか?

最後に武藤議員に改めてうかがいたい。いざ、戦争になったら武藤議員自身は、一兵卒として戦地の最前線に行くご覚悟はあるのか。戦場で死ぬご覚悟はあるのか?ツイッターでの質問にはお答えいただけなかったようであるが、是非お答えいただきたい。筆者自身、この10年以上、紛争地に赴き現地取材を行ってきた。そこで見てきたのは、現代の戦争で真っ先に傷つき殺されるのは、もっとも罪がなく弱い人々ということだ。その一方で戦争を煽り、戦争を引き起こした人間たちは、自分たちだけは安全なところにいて、多くの民間人や兵士が死亡しても、その責任を取ることはない。戦争とは、外交の失敗であり、政治の失敗である。政治家として、その自らの命を持って責任を取る覚悟はあるのか。学生相手に偉そうなことを言う前にご自身の覚悟を見せてはいかがだろうか。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポ

税込440円/月初月無料投稿頻度:月2、3回程度(不定期)

Yahoo!ニュース個人アクセスランキング上位常連、時に週刊誌も上回る発信力を誇るジャーナリスト志葉玲のわかりやすいニュース解説と、写真や動画を多用した現場ルポ。既存のマスメディアが取り上げない重要テーマも紹介。エスタブリッシュメント(支配者層)ではなく人々のための、公正な社会や平和、地球環境のための報道、権力や大企業に屈しない、たたかうジャーナリズムを発信していく。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

志葉玲の最近の記事