学歴による賃金格差の国際比較をさぐる(2021年時点最新版)
学歴はその人の学習経歴や知識経験の実情度合いを指し示す物差しとなる、肩書の一つ。無論それがすべてではないが、そしてむしろその学歴を持てるだけの能力があるからこそだが、学歴が高いほど多くの賃金を得られる傾向がある。今回はOECD(経済協力開発機構)の公開値(※)を基に、諸外国での学歴別の賃金格差の実情を確認する。
まずは大卒内の大学院修士・博士を除いたグラフを作成する。
一部の国で基準が「高卒と高専卒の平均値」でないためにきっかり100ではない状態となっているが、おおよそ「高卒と高専卒の平均値」が基準値の100となっている上で、中卒の賃金はすべての国で100より低い値に留まっている。OECD平均値は79。
一番差異が少ないのはフィンランドで94、高卒・高専卒より6%ほど低い。他方もっとも差異が大きいのはブラジルの62。中卒は「高卒と高専卒の平均値」の6割程度しか賃金が得られていない計算となる。日本は78で8割近く。
他方大卒全般はすべての国で「高卒と高専卒の平均値」より高い値を示している。OECD平均値は157なので、1.6倍近くの賃金を得ている計算になる。もっとも高いのはブラジルで249、つまり2.5倍ぐらい。一番低いスウェーデンでも122で2割以上の増し。日本は152だから1.5倍ほど。
グラフが雑多となるので除いていた大学院修士・博士卒の値は次の通り。値が公開されている国に限り、さらに高い順に並び変えている。
最大値はチリの470。チリでは「高卒と高専卒の平均値」の5倍近い賃金を大学院修士・博士卒は得ていることになる。次いでブラジルが449、コスタリカが353。日本は値が公開されていない。
学歴による賃金格差の是非はそれぞれの国の事情によって異なる。高学歴者の賃金が高くとも、単に高学歴者以外の人が就く職業の賃金水準が低いだけの可能性はある。賃金格差が少ない国は学歴≒能力による賃金格差が少ないことになるが、産業構造の上で平等化のために弊害が生じていないかとの懸念がある(押しなべて高度化しているのなら話は別だが)。
他方、どの国でも多かれ少なかれ、学歴による賃金格差が存在することもまた事実には違いない。
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※OECDの公開値
OECDの公開データベースOECD.Stat内の「Education and earnings : Trends in relative earnings, by educational attainment」にある(学歴による相対的収入動向)。学歴は国際標準教育分類で区分しているが、今回は日本の教育機関の序列に合わせる形で、中卒(Below upper secondary education)、高卒・高専卒(Upper secondary and post-secondary non-tertiary education)、大卒全般(Tertiary education)、そして大卒内の大学院修士・博士卒(Master's, Doctoral or equivalent education)の値を確認する。値は「高卒と高専卒の平均値」(高専卒が無い場合は「高卒」)を100とした時の値。
現時点で公開されている最新値は2018年分だが、国によってはそれ以前の値が最新値の場合もある。その時は国名の後に用いた値の年数を記載している。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。