自社には「優秀すぎる」分不相応な人が採用に応募して来ると、採用担当者はなぜ警戒するのか
■「優秀な悪い人」の恐怖
企業の採用において「絶対に採用してはいけないタイプ」があります。それは「優秀な悪い人」です。「優秀な悪い人」というのは悪知恵を働かせることによって、場合によっては嘘でもなんでもついて、組織や事業のためではなく、自分のために利己的に行動します。
実際、たった1人の不誠実な人を採用したがために、組織がめちゃくちゃになってしまった会社もよく見てきました。そういう「優秀な悪い人」は、例えば、自分の地位を守るために自分よりも優秀な人材が応募してきたら面接で落としたりしますし、逆に自分を支持してくれるような自分に従順な人材を多少能力が低くても強引に採用したりします。まさに「A級人材はA級人材と働きたいと思うが、B級人材はC級人材と働きたがる」です。
また、事業面では、高い目標を立てると達成しにくくなるためにいろいろな理屈をつけて低い目標の正当性を訴えたりします。低い目標なら達成しやすく評価されるからです。さらに悪質な人になれば、上司のポジションが空くのを狙って、上司に汚点がつくような失敗をわざとしてみることもあります。これらはすべて組織にとっては大きな背任行為ですが、なかなか気づくことはできません。
冗談だろうと思われるかもしれませんが、すべて実際に見聞きした事例です。私自身も恥ずかしながら、以前、経営する会社で同様の経験をしました。
■結果、「スゴい経歴の人」を疑うようになる
ただ、難しいのは、彼らは優秀であるがゆえに、採用面接でもそれをなかなか見抜けないことです。聡明で弁は立つし、採用する側が喜ぶようなことを、ちゃんと意図を汲んで言ってくる。
本当はたいしたことがない過去の経歴も、キレイに粉飾して話すので人事担当者も騙されがちです。そもそも「頭がいい」ということ自体だけを見ると、頭脳労働が主な現代においては、プラス評価になります。一方で、面接ではなかなか誠実さや真面目さまで見抜けません。
採用に長く携わっている方であれば、同様の経験をした人も少なくないはずです。その苦い経験が重なると、本能的に「スゴい経歴」の人の応募を警戒するようになります。
「この人、経歴はスゴいけど、なぜうちの会社に?」とか「経歴自体はうまく表現されてはいるけど、実はそんなにたいしたことがなく、盛られているのでは」などと訝しがるというわけです。その結果、スゴい経歴の人ほど採用しづらい状況に陥るわけです。
さすがに、「この人は経歴を盛っているのでは?」「信頼のできない人なのでは?」とフィードバックできないため、そんな時に人事や経営者が不合格理由としてよく使う言葉が「オーバースペック」。つまり、「スゴい経歴だけれどもうちにはもったいない」ということです。
■「優秀さ」とともに「誠実さ」をアピールすべき
もし入社志望者が、不誠実で優秀な悪い人であれば、こんな目にあっても仕方ありません。しかし、「悪貨は良貨を駆逐する」と言うように、本当に「スゴい経歴」にもかかわらず、盛った経歴の詐欺師と一緒にされた人はたまったものではありません。
ですから、本当にスゴい経歴の人には、「誠実さ」のアピールが求められます。具体的には、「嘘をつかない」「正義や公正を重んじる、悪徳や不正を憎む」「ミッションに忠実である」「組織や事業のための貢献意欲がある」「会社の理念への共感や使命感を持っている」など。
要は「善人ぶることか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。ここでいう「誠実」とは、ビジネス上における信頼のことです。
ビジネス上の信頼とは「行動の予測可能性」、つまり「この人にこんな仕事を任せれば、こういう行動をして、こういう成果を挙げてくれるだろう」と見通しがつくことです。例えば、「目的のためには手段を選ばない」というと、不誠実に聞こえるかもしれませんが、目的が自社のビジネスと一致していれば、頼もしいことこの上なく「信頼できる人」です。「約束したことは守り抜く」わけですから。
その際、さらに注意すべき点は、上述のようなことを「思っています」と「意思」を志望する会社に告げるだけでは足りないということです。
根っこの生えている性格には大抵の場合、「なぜそういう性格になったのか」について過去のライフヒストリーの中にきっかけや根拠があるものです。「自分はなぜ誠実な性格になったのか」という理由を過去の自分の歴史や経験から説明することで、それが入社してからも再現性のある「根っこの生えた思い」であることを伝えて初めて、採用する側の信頼を得ることができることでしょう。