日銀は市場に見透かされぬよう柔軟な姿勢に修正し、いずれ日本国債の利回りも本来の役割に戻すべき
外国為替市場で円安・ドル高の流れが再び強まってきた。ドル円は116円を突破し、一時116円34銭と2017年1月11日以来の高値を付けた。
円安が日本経済に与える影響度は過去に比べて異なってきている。円安は輸出関連企業に恩恵を与えるものの、工場の海外移転などもあり、以前に比べて円安による恩恵は減少している。
それよりも円安による輸入物価の上昇によって悪影響を受ける。価格転嫁が進まなければそれは企業負担ともなり、あまり円安が進むと日本経済にとっては打撃となりかねない。
市場は弱いところを狙い撃ちしてくる。今回のドル円の仕掛け的な動きも、それが背景にある可能性がある。
今回の円安については、米国の社債発行に伴うものといった要因も指摘されたが、FRBによる年内利上げの可能性が再認識されたことが主たる要因と思われる。しかし、それだけではない。それとともに日銀が正常化に向けて動かない、いや動けないとの認識が背景にあろう。
日銀の掲げる物価目標は消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)の2%であるが、11月のコアCPIは前年比でプラス0.5%と目標に距離がある。少なくとも物価目標を達成できない限り、日銀は動かないとの見方が強い。
これにより日米の金利差が今後、ますます拡大してくるとの予想が出てくる。
前回の米国のテーパリング時や利上げの際の米長期金利の上昇は限定的であったが、今回もそうなるとは限らない。米国物価の上昇が想定を超えていることなどがその理由といえる。
日銀が動けず、FRBが利上げを進めるとなれば、日米の金利差拡大を意識して円安ドル高への動きを強めることも想定される。ヘッジファンドなどが仕掛け的な動きをみせる可能性もありうる。
それに対処するには、日銀も金融政策をフレキシブルに調整できることを示す必要がある。日銀は2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続するとしている。
いわゆるオーバーシュート型コミットメントと呼ばれるものだが、まずはこれを取り除く必要がある。
そのようなことは時期尚早との声もあるかもしれない。しかし、同じ物価指数である企業物価指数は前年比でプラス9%となっている事実も無視はできないはずである。
その上で非常時の対応であったはずのマイナス金利政策と長期金利コントロールを解除する用意があることを示すべきであろう。すでにオーストラリア準備銀行はイールドカーブコントロールを昨年11月2日に停止している。
今年の4月以降、日本のコアCPIが2%に接近してくる可能性もあり、そのタイミングでオーバーシュート型コミットメントの削除などに対応してくる可能性を市場に認識させる。これにより、急激な円安となった場合にブレーキを掛けることも可能となるのではなかろうか。
長期金利コントロールを外し、その背景として物価も上昇しているとなれば、日本の長期金利が跳ね上がることが予想されるが、それは一時的であり、次第に物価水準などを意識した水準に戻ろう。
日本の長期金利が1%とか2%に跳ね上がった程度で財政への影響を危惧する必要はない。そもそも日銀は戦時中のように財政を意識して長期金利を抑えていたわけではない。
物価や経済実態を背景とした長期金利の形成は本来の姿であり、仮に長期金利の暴騰が抑えられなくなったとしたら、それは日銀のせいではない。財政拡大にブレーキをかけられなかった政府への警告としての本来の働きを長期金利が見せたということになろう。