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緊急事態宣言解除後も居酒屋・カラオケ店の営業停止可能に 告示で知事の権限拡大 国会答弁と矛盾

楊井人文弁護士
事前周知なく告示で営業制限の範囲を拡大した田村憲久厚労相(真ん中)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 緊急事態宣言中だけでなく、まん延防止等重点措置(以下「重点措置」)でも、知事が酒類提供やカラオケ機器使用を禁止する命令を出せるよう、厚生労働省が4月23日、告示を改正していたことが判明した。

 これにより、居酒屋とカラオケ店は、緊急事態宣言解除後も、重点措置に移行した場合、営業停止に追い込まれるおそれがある。政府は特措法改正の国会審議で、重点措置では営業停止を行わないと答弁していたが、それとの整合性も問われる問題だ。

 告示は官報で発表されたが、事前に国民の意見を聴くパブリックコメントや報道発表はなかった。田村憲久厚労相が権利制限の範囲を拡大する告示を事前の周知なく行ったのは、4月1日に続いて2度目。

 特措法には、2月の改正で、知事の命令権限を政令で拡大することを可能とする条文が盛り込まれた。政府はこれを活用して、国会の議論や国民への説明をしないまま、「新型コロナ対策」の名のもとに次々と措置を追加している。

 今回の追加措置で、改正特措法の危険性がいよいよ現実化した形だ。

知事の要請・命令権限を拡大する告示が掲載された官報(4月23日特別号外)
知事の要請・命令権限を拡大する告示が掲載された官報(4月23日特別号外)

まん延防止措置でも酒類提供・カラオケ営業の中止命令可能に

 今回、新たに追加された措置は、以下の2つだ(官報)。

入場者等の歌唱その他の飛沫まつの飛散を伴う行為の用に供する設備、機器又は装置の使用の停止

入場者等に対する酒類の提供の停止

 「営業停止」という表現はないが、カラオケ店、酒類提供が欠かせない居酒屋などに対する営業停止の要請・命令を事実上認める内容となっている。

 告示では、これと同じ措置が、緊急事態措置だけでなく、まん延防止等重点措置でも実施できるよう改正された。

 実際、神奈川県は、さっそく4月28日から、重点措置の適用地域を3市から8市に拡大するとともに、「酒類提供の終日停止」「カラオケ設備使用の終日停止」を特措法31条の6に基づいて要請すると発表している

 要請段階では従う法的義務はない。だが、知事は、要請に応じない事業者に対しては感染防止のため「特に必要と認められるとき」に限り、一定の手続きを踏んで命令を出すことができる(命令違反は過料)。

事前公表も省略して即日改正

 東京都などでは今日から緊急事態宣言が実施される。解除後に重点措置に移行する可能性が取り沙汰されている(一時期「下りマンボウ」と呼ばれていた措置。政府資料参照)。

 行政法実務に詳しい水野泰孝弁護士は「緊急事態宣言解除後に重点措置に移行した場合には、居酒屋とカラオケ店は引き続き営業停止に追い込まれる可能性が十分にある」と指摘している。

 だが、今回の告示は、行政手続法が義務付けている事前公表・パブリックコメント(国民の意見聴取)の手続きが省略されていたことも判明した。

 厚生労働省は、「公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、意見公募手続を実施することが困難」だったと説明

 これについて、前出の水野弁護士は「緊急性があるとの理屈であるとはいえ、パブコメの実施すらなされていないことは、措置の適法性に疑問を生じさせる事情となり得る」と指摘している。

 厚労省は、4月1日にも同じ理由で事前公表をせず「アクリル板設置」などの措置を命令できるよう、告示改正を行っていた

 いずれの告示改正も、厚労省により報道発表された形跡はなく、メディアも報道していない。

西村康稔経済再生担当相(2021年2月1日の衆議院内閣委員会、衆議院インターネット審議中継より)
西村康稔経済再生担当相(2021年2月1日の衆議院内閣委員会、衆議院インターネット審議中継より)

西村大臣「休業要請は考えていない」と答弁

 今回の新たな措置追加は、政府の国会答弁とも矛盾している。

 西村康稔経済再生担当相は特措法改正案の国会審議で、重点措置では休業要請は考えていないし、政令改正でもできないと答弁していた。

山尾志桜里議員  端的に伺います。政令を改正してまん延防止措置で休業要請をかけることは法的に可能ですか。

西村大臣  営業時間の変更よりも私権の制限を小さいものを考えておりますので、休業要請は考えておりません。

山尾議員  質問にお答えになっていないんですね。私が言ったのは、政令を改正して休業要請をかけることは今回の法制度上可能か不可能かと聞いています。考えているかどうかではないです。

西村大臣  代表的に挙げている例が営業時間の変更でありますので、それはできないというふうに考えております。

山尾議員  そうすると、政令の改正の限界を超えるということですね。休業要請をかけることは、政令を改正してもまん延防止措置ではできないということを明確にしていただいたと。もう一回確認させてください。

西村大臣  そのとおりであります。

衆議院内閣委員会 2021年2月1日

 今回の追加措置について、山尾議員は筆者の取材に対し「酒類提供の停止は、居酒屋・バーにとって実質的に営業停止。時短要請より厳しいことが明らかだ。国会答弁との整合性がとれない。政令で罰則を際限なく作れる特措法は問題だ」と話している。

 改正特措法は緊急事態宣言発令の最中、自民党と立憲民主党の異例の密室修正協議を経て、2月3日に成立、13日施行された。

 筆者は、改正特措法の危険性について繰り返し警鐘を鳴らしてきた。

 しかし、国会の関与なく、政令で次々と措置を拡大できる問題や、事前手続きなく告示で追加した経緯について、今日現在、主要メディアは全く報道していない。

【追記1】神奈川新聞は4月23日、この厚労省告示が行われることを報じていました(酒類提供自粛を追加へ 政府「まん延防止」対象施策に)。

【追記2】朝日新聞は4月28日、この問題についての国会審議の内容を報じていました(バーで「お酒提供駄目」は事実上、休業要請?国会で論戦)。

【追記3】京都大学の曽我部真裕教授(憲法学)にコメントしていただきました(重点措置での酒類提供停止は「特措法の委任の範囲を超え、違法の疑い」 京大の曽我部教授が見解)。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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