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『ゴルゴ13』で語られた「ゴルゴに仕事を依頼する方法」が感動するほどオモシロイ!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

『ゴルゴ13』や『無用の介』や『超人バロム・1』などを描かれたさいとう・たかを先生が亡くなられた……! 貸本マンガ時代から活躍され、「劇画」というスタイルを守り抜かれた功績は計り知れない。筆者も本当に長く楽しませていただいた。心からご冥福をお祈りいたします。

それにしても、さいとう先生の代表作『ゴルゴ13』は息が長い。雑誌の連載開始が1968年。主人公のデューク東郷は、半世紀以上にわたって「狙撃手」という危険な仕事を続け、世界の政治経済に大きな影響を与え続けてきたわけだ。恐るべきヒトですなあ。

彼が驚異的な実績を残せるのは、日頃からモノスゴク慎重に行動しているからだ。それゆえに決まりごとが多く、たとえば、ゴルゴ13の背後に立ってはならないし(立つと反射的に殴られる!)、右手をポケットに入れてはならないし(銃を取り出すと思われて、撃たれる!)、依頼の内容に嘘や隠し事があってはならない(あったら殺される!)。

他にも、ゴルゴ13は握手に応じないし、相手より先に車に乗らないし、出された飲食物に手をつけないし、椅子に座らない。まことにめんどくさそうな人である。

また、この人はびっくりするほど無口だ。

たとえば「天使の一滴」という全41ページのエピソードにおいて、ゴルゴ13が口にしたセリフは次のとおり(すべて、一般人を装ってバーテンに言ったもの)。

「いや……、人が殺されたようだな……?」「店の客か?」「スコッチをダブルで…… もう一杯もらおう……」「釣りはいい」

以上が、この作品におけるゴルゴのセリフの全部なのだ! まるで、監督の温情でセリフをもらった端役の俳優さんのようである。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆46人に1人がゴルゴに依頼!

かなり個性的なゴルゴ13だが、引き受けた仕事は99%以上の確率で成功させるので、依頼はめちゃくちゃ多いらしい。

「デリート・G Gの消滅」というエピソードによれば、依頼が来るペースは「1秒に1件」だという!

そのエピソードのなかで、ゴルゴへの依頼について情報交換しているのは、テッドとマシューという2人のCIA職員。よって、かなり信用できる情報だろう。

テッドは「ここ五年に絞っても、平均年間一〇〇件以上の暗殺や、世間では事故と思われている死亡事件の裏に、Gが関わっている可能性が濃厚だ!」と言い、「いや、俺の勘では百%間違いない!」と断言する。

なんとゴルゴの暗殺件数は、年間100件以上!

これに対してマシューは「平均毎秒約一件の依頼文らしき文字列が、世界の都市のどこかで現れている」と、自分が調べた極秘の情報を明かす。

テッドは驚いて「ざっと一日八万六千件の依頼が舞い込むってことか?」。

これはすごい。1日は8万6400秒だから、1秒に1件だと確かに「1日8万6千件」になる。

ということは、1年365日では3153万6千人。テッドの言う「ここ5年」に限っても、1億5768万人が、ゴルゴ13に仕事を依頼した計算になる。

地球の人口は73億人(2017年)だから、46人に1人! それほど多くの人が、誰かに殺意を抱いたり、抱かれたりしてきたということか。うむむ。人間の信頼はどこへ……。

こんなにたくさんの依頼が来て、ゴルゴ13はどうするのかと思っていたら、マシューがこう続けた。「そのうち三分の二が、やり方がまずく、奴に届いていない」。

なるほど、1日8万6400件の依頼のうち、ゴルゴ13に届くのは3分の1。だいぶ減ったが、それでも1日に2万8800件である。

さらにマシューは「残りの九割以上は、奴自身の厳しい依頼人調査ではねられている」。えっ、この2万8800件については、ゴルゴ13が依頼人について調べている!?  3秒に1件ずつという計算になるが……!?

そのうえゴルゴ13は、引き受ける仕事を選択しなければならない。2万2800件のうち、1割が依頼人調査をパスするということは、1日2880件、1年間で105万1200件。このなかから1年に100件だから、1万512件に1件という狭き門である。

これをどうやって選ぶのか。マシューは「その基準が、よくわからない……」と頭を抱えていたが、ゴルゴ13はメチャクチャ苦労をしていると思う。筆者だったら、選ぶだけで全時間が費やされてしまい、暗殺などしている時間はありません。

◆ゴルゴ13への依頼方法

ところで、依頼人はゴルゴ13にどうやって依頼するのだろうか。

さまざまなアプローチ手段が物語のなかで紹介されているが、有名なものの一つに、アメリカ連邦刑務所に服役しているマーカス・モンゴメリーに仲介してもらう方法がある。それは、こんな手順だ。

1)依頼人は、マーカスに手紙を出す

2)マーカスは、ラジオ番組「夕べの祈り」に『讃美歌13番』をリクエストする

3)それを聞いたゴルゴ13は、新聞「ニューヨーク・タイムズ」に「13年式G型トラクター売りたし」という広告と連絡先を載せる

4)広告を見た依頼人はそこへ連絡し、自分の連絡先を伝える

5)そこに、ゴルゴ13から連絡が入る

ヒジョーに手間がかかる! 1日2万2800件なんて絶対ムリ! だいいち「夕べの祈り」だって『讃美歌13番』ばかり流すわけにいかないだろう。「次のリクエストは『讃美歌13番』です。(讃美歌を流して)次のリクエストも『讃美歌13番』です。(讃美歌を流して)次のリクエストも『讃美歌13番』です……」などということになって、もうメチャメチャ怪しまれる。

謎に満ちたゴルゴ13への依頼と選択の方法だが、ゴルゴ13がそこに莫大な手間をかけているのは間違いないだろう。

最終選考に残った2880人に毎日会って仕事の内容など聞いているヒマはないから、徹底的な調査をして、引き受けることをほぼ決めてから依頼者に会うに違いない。だからこそ実際に会ったときは、数語のやり取りで「わかった、引き受けよう」となるのだ。

――半世紀以上にわたって劇画ジャンルの先頭を走り続けただけあって、ゴルゴ13は本当に魅力的なキャラだ。さいとう先生が亡くなっても連載は続くというから、これからも彼の活躍を楽しませてもらいたい。

さいとう先生、長いあいだ、本当にありがとうございました。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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