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コロナ禍の今、「交通事故」が起こったら大変なことになる理由

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
新型コロナの影響で救急病院がひっ迫。交通事故のリスクを避ける行動を意識しましょう(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療崩壊が起こりつつあるというニュースが相次いで報じられています。

'''『10施設が受け入れ制限・停止 3次救急にコロナ影響 9道県「厳しい」・医療調査』'''(時事通信/2020.4.26)

「いよいよここまできたのか!」と衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。

 記事によれば、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、救急受け入れの停止や制限を余儀なくされた3次救急医療機関が、20日時点で少なくとも5都府県10カ所に上ることが、全国の自治体へのアンケート調査で明らかになったというのです。

 東京、大阪、兵庫など、大都市圏では、すでにひっ迫した状況に陥っていることがわかっています。

救急車を呼んでも受け入れ病院がなかなか見つからないケースが増えそうだ(筆者撮影)
救急車を呼んでも受け入れ病院がなかなか見つからないケースが増えそうだ(筆者撮影)

■3次救急によって救われてきた交通事故被害者の命

「3次救急」とは、いわゆる「救命救急センター」とも呼ばれている、重傷者の救命に特化した特別な医療機関のことです

【3次救急医療機関】

24時間体制で救急患者を受け入れ、重症、重篤な症状に対し高度で専門的な治療ができる医療機関。専用病床や集中治療室を備える。都道府県が医療計画を策定した上で指定し、体制の整備にも関与する』

(「時事ワード解説」より抜粋)

 3次救急に運ばれるのは、新型コロナウイルスの患者だけではありません。心筋梗塞や脳卒中、また、交通事故や労災事故など突発的な外傷患者も、日々大勢運ばれているのです。

 私はこれまで、多くの交通事故を取材してきました。その中で、意識不明の重傷を負いながらも、高度な救命医療を受けられたおかげで命を救われ、人生を取り戻したという多くの方にお話を伺ってきました。

 ここ数年、交通事故の死者数が減り続けているのも、救命医療の進歩と現場の医療者の方々の尽力も大きく影響していると思われます。

 しかし、交通事故で重傷を負った人たちが、3次救急の医療機関での受け入れを制限されてしまったらどうなるでしょうか。

 呼吸や心臓が停止、もしくは脳に大きな損傷を負っているような場合は、まさに一刻一秒が分かれ道です。

 

 外傷で大量出血しているような場合も、同様です。

 そこで本稿では、3次救急の受け入れ制限が、「交通事故」の被害者、加害者それぞれに、どのような影響を及ぼすのか、また、緊急事態宣言が発出されている今、何に気をつけるべきかを考えたいと思います。

■3次救急の破綻で、助かる命も助からない……

 まず、3次救急が患者の受け入れの制限を行っている今、交通事故の被害者になってしまうと、「運が悪かった」では済まされない深刻な現実が待ち構えているということを認識する必要があります。

「ああ、あの時期、新型コロナさえなければ、確実に助かっていたのに……」

 誰もそんな後悔はしたくないはずです。

 また、たとえ命が助かったとしても、搬送先が見つからず治療が遅れることで、将来にわたって重い後遺障害を残すことにもなりかねません。

 

 下記は、交通事故の被害者を状態別に表したグラフです。

警察庁のサイトより
警察庁のサイトより

 死者数の多い順から見てみると、 

 1、歩行中

 2、自動車乗車中

 3、二輪車乗車中

 4、自転車乗車中

 という結果が出ています。この傾向は毎年同じです。

 つまり、歩行者は重大事故の被害に遭う確率がもっとも高いことがわかります。

 また、今は「3密」を避けて、公共交通機関ではなく、あえて車やバイク、自転車で出かけるという方もおられると思います。

 しかし、3次救急がひっ迫している今、万一、出先で事故を起こしてケガをしてしまったら、すみやかに救急治療を受けられるとは限らないことを覚悟しなければなりません

 私自身もバイク乗りなので、この時期になると風を切ってどこかへ出かけたくなります。

 でも、数年前、単独転倒で骨折をしたあの体験が、もし今起こったら……と思うと、背筋が寒くなります。

 このリスクから身を守るには、3次救急が従来通りの体制に復活するまで不要不急のドライブやツーリングは控えること

 つまり、「ステイホーム」が一番の対策だといえるでしょう。

 それは同時に、新型コロナウイルスとの闘いを続け、崩壊寸前になっている医療現場を守ることにもつながります。

■コロナ対策で交通量は減少。「スピード超過」には気をつけて

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴って人々が外出を控えているため、現在は街を走行する車の数もかなり減っています。

 また、それに伴って、交通事故の件数も大幅に減っているようです。

『4月の都内の交通事故半減 新型コロナ影響か 』(NHK/ 2020年4月16)

 この記事によれば、4月1日から15日までに起こった東京都内の人身事故件数は787件。去年の同じ時期と比べて746件少なくなり、見事に半減したとのことです。これはすごいことですね。

 しかし、ここで見逃してはならないのは、死者数だけを見ると、去年の同じ時期より5人も増えているという事実です。

 事故件数が半減しているのに死者数が増えているというのは、死亡事故率が異様に高くなっているということです。

 あくまでも推測ですが、「車の通行量が少ないため走行速度が高くなっている」といったことも原因しているかもしれません。

(3次救急の制限等が影響していないことを祈りますが……)

 下記のグラフは、昨年の「危険認知速度死亡事故率」を表したものです。

警察庁のサイトより
警察庁のサイトより

 これを見ると、事故時の走行速度が時速50キロ以上になると、死亡率が急に上昇することがわかります。

 どうしても車で外出をしなければならない人は、とにかく速度を抑えるよう十分気をつけてください。

■「傷害事故」が「死亡事故」になるかもしれない。その恐ろしさ

 緊急事態宣言が発出されている今、いろいろな不安や心配事を抱えていて、運転に集中できない方も多いでしょう。

 心に焦りを感じている方もおられるでしょう。

 しかし、冒頭にも書いた通り、今、この時期に交通事故を起こしてしまうと、「助かる命も助からない」という最悪の事態に遭遇する可能性があることを認識しなければなりません。

 つまり、通常なら「傷害事故」で済むものが、救急の受け入れが遅れたり、拒否されたりすることで重篤化し、「死亡事故」に至ってしまう……、そんなことが起こるかもしれないのです。

 死亡事故になれば、その罪は傷害事故より重くなります。

 罰金や禁固、懲役などの刑罰を受けることもあります。

 行政罰も厳しくなり、損害賠償も多額になることがあります。

 なにより、自分の行いが原因で、結果的に他人の命を奪ってしまうというのは、一生かけても取り返しのつかない過ちです。

 繰り返しになりますが、今、「3次救急の制限・停止」が各地で現実に起こっています。

 この状況が「交通事故」に与える影響の大きさを今一度認識し、被害者にも加害者にもならないよう、十分に気をつけてください。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「開成をつくった男、佐野鼎」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。剣道二段。趣味は料理、バイク、ガーデニング、古道具集め。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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