「揺さぶり」による虐待はあったのか 無罪主張の祖母に医師の重大証言

揺さぶり虐待は本当か? 逮捕・起訴後、刑事裁判で無罪を訴える保護者たちがいます(写真:アフロ)

 6月17日、大阪高裁で、ある児童虐待の刑事裁判を傍聴しました。

 被告人は69歳の女性です。生後2か月の孫(次女の子ども)に対する傷害致死罪に問われ、一審で懲役5年半の実刑判決を受けました。

 しかし、彼女は逮捕当時から、一貫して「孫に虐待など一切していません」と訴え、現在の控訴審でも無罪を主張しています

 この日、証言台に立ったのは、脳神経外科医2名、神経内科医1名です。

 法廷内には、救急搬送されてから数か月後に死亡した乳児の脳のCT画像などが映し出され、それを指し示しながらの専門的な尋問が行われました。

 3名の医師たちの主張はいずれも、「脳の画像やカルテを見、臨床経験から判断する限り、揺さぶりによる虐待と言い切ることはできず、むしろ病気の可能性が高いと思われる」――つまり、「孫の死亡は虐待によるものではなく、病気の可能性がある」と指摘したのです。

 傍聴席には被告人の家族も駆けつけ、医師らの証言に耳を傾けていました。この事件の「被害者」とされている乳児の両親も、母親を気遣うように寄り沿っていました。

 既に成人している孫の一人は、公判終了後、私にこう話してくれました。

「私は小さい頃から、おばあちゃん子で育ちました。優しい祖母が虐待なんて……、私はそんなこと絶対にありえないと信じています」

大阪高裁(筆者撮影)
大阪高裁(筆者撮影)

■「乳幼児揺さぶられ症候群」を疑われ、逮捕される保護者たち

 私は2年前から、揺さぶりによる児童虐待を疑われ、刑事裁判になったり、親子分離の措置を取られたりする事件を複数取材しています。

 Yahoo!個人ニュースでも、【事故か、虐待か? 乳幼児揺さぶられ症候群めぐり、分かれる医師の見解】https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20180309-00082482/

といった記事を書いてきました。

 今の日本では、赤ちゃんの脳に硬膜下血腫や眼底出血などが見られると、多くの場合、「乳幼児揺さぶられ症候群」と診断されます。そして、「一緒にいた大人が激しく揺さぶる虐待をおこなった可能性あり」として、「親子分離」の措置を取られることがあります。まだ母乳を飲んでいるような赤ちゃんであっても、親子分離され、離れ離れの暮らしを強いられることがあるのです。

 中には、

「子供は、つかまり立ちから、突然、後ろに転倒したのです」

「ただお昼寝していただけなのに、急に顔色が青ざめて……」

 そう説明しているにもかかわらず、前出の祖母のように、逮捕、起訴され、刑事裁判にかけられたりする人も珍しくありません。

 大阪高裁ではこの裁判とは別に、生後1か月半のわが子への揺さぶり虐待を疑われている30代の母親の控訴審も進行中です。

 彼女は当初、殺人未遂で逮捕され、その後、傷害罪で起訴。一審で有罪判決を受けました。しかし、逮捕直後から一貫して「揺さぶり虐待などしていない」と、無罪を主張しており、今年7月には脳神経外科医らの証人尋問が2回に分けて行われる予定です。

 これらは、いずれも大阪府警の管内で起こった出来事でした。

■大阪府警に設置されている「児童虐待対策室」

 大阪府警本部は2017年、全国に先駆けて、生活安全部少年課の中に「児童虐待対策室」を設置し、児童相談所などと情報共有をして児童虐待に厳しく目を光らせています。

 こうした対策室や児相との連携は、全国どこの警察にもあるというわけではありません。

 ではなぜ、大阪府警がいち早くこの取り組みをはじめたのか? それは、2016年の秋、大阪市や堺市で起こった児童虐待事件がきっかけでした。行方不明になっていた幼児が相次いで遺体で見つかり、いずれも両親の虐待によって命を奪われたことが発覚したからです。

 これはあくまでも私の取材実感ですが、大阪府警にはこうした対策室があるからでしょうか、現在も、隣の京都府や奈良県、兵庫県に比べて、児童虐待に対する対応が厳格で、特に、子どもの脳に出血などが見られた場合は、「傷害事件」も視野に入れた捜査を素早く開始するケースが多いようです。

 

■大阪地裁で無罪判決続出

 一方、虐待を疑われ、逮捕されたものの、徹底的に否認する保護者も多く、大阪地裁では昨年から今年にかけて、「揺さぶられっ子症候群による虐待」とされた保護者らに対し、無罪判決が4件出ています

 有罪率99%と言われている刑事裁判で無罪が相次ぐというのは珍しいことですが、逆に言えば、「児童虐待事件」としての捜査や立件が、かなり強硬に行われているとも言えるのではないでしょうか。

「虐待を見逃さない」という熱心な取り組みはとても重要で、多くの子どもの命を救っているはずです。しかし、それが逆に、冤罪を生む結果につながっているとすれば皮肉なことです。

 6月24日には、冒頭で紹介した刑事事件の第3回公判が開かれます。

 証言台に立つのは、「被告(祖母)が激しく揺さぶる虐待を行った」という内容の主張をしている小児科医他です。8月末には、祖母本人の尋問も予定されています。

 

 虐待を受けている子どもを見逃さず、確実に救うことは何より大切なことです。しかし、冤罪や長期間引き裂かれる親子も絶対に生んではなりません。

 大阪で進行中の2件の揺さぶり虐待裁判。「私は虐待していない」と、無罪を訴え続ける祖母や母親に間もなく下される大阪高裁の判決に注目したいと思います。

大阪高裁(筆者撮影)
大阪高裁(筆者撮影)