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コロナワクチン接種会場でアナフィラキシーになったら? 実際の対応と治療

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:ideyuu1244/イメージマート)

新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいます。ワクチンは高齢者には行き渡りつつあり、64歳以下の人への接種も始まっています。当初の想定をはるかに上回る数が接種されており、ワクチン数が不足するような事態にも見舞われています。何とか必要なワクチンが用意され、希望者が少しでも早く接種できればと思います。

さて、ワクチン接種が広く一般向けにも浸透してきて、副反応の情報も共有されてきた一方で、実際に副反応が起こったらどうするのだろうという疑問や不安はまだ多くの人が持っているかもしれません。今回は、ワクチン接種後に最も早く、そして最も深刻な問題を起こすかもしれないアナフィラキシーについて、接種会場でどのような対応がとられているのか、実際になったらどんな治療をされるのかという事についてまとめてみたいと思います。

アナフィラキシー

アナフィラキシーは急速に発症する全身性のアレルギー反応です。重篤なアナフィラキシーは、生命を脅かす可能性もあります。アレルギーの語源はギリシア語のallos(other)+ergo(action)で、異物への反応のことです[1]。本来無害なはずの抗原(アレルゲン)に対して、免疫系が過剰に反応することによって引き起こされると考えられています。

アナフィラキシーの診断と対応

アナフィラキシーだと診断するための検査は特にありません。症状から判断します。世界アレルギー機構は、次の2つの条件のいずれかが満たされた場合にアナフィラキシーの可能性が高いと提示しています[2]。

①皮膚、粘膜、またはその両方に及ぶ症状(例:全身性じんましん、掻痒症または紅潮、唇・舌・口内炎の腫脹)の急性発症(数分~数時間)に加え、以下のうちの少なくとも1つを含む症状を呈する

a. 呼吸障害

  例:呼吸困難、喘鳴、stridor、最大呼気速度低下、低酸素血症

b. 血圧低下または末梢機能障害の関連症状

  例:筋緊張低下(虚脱)、失神、失禁

c. 特に非食物アレルゲンに曝露した後の重度の胃腸症状

  例:激しい痙攣性腹痛、反復性嘔吐

②典型的な皮膚病変がなくても、既知の、または可能性の高いアレルゲンへの曝露後(数分から数時間)に、低血圧症、気管支痙攣、または喉頭病変が急性に発症

典型的な皮膚病変、つまりじんましんなどがなくてもアナフィラキシーということはあり得る話で、もしワクチンを打った後に何らかの症状が出た場合にはアナフィラキシーではなかろうかと疑う必要があります[3]。初期症状は倦怠感だったり、腹痛だったり、かゆみだったり、様々です。

接種会場ではみなさんに15-20分程度の経過観察時間を設けてもらっています。アナフィラキシーの既往がある方は30分待機としているかもしれません。食物や薬剤が原因でおこる致命的なアナフィラキシーは、投与から30分程度の間に発症することが多いためです[4]。発症初期にはわかりにくいこともあるので、アナフィラキシーを疑いつつ、何が起こってもおかしくないという態度で経過観察を行いながら、アナフィラキシーであった場合には迅速に治療に結びつける態度が大事です。具体的な対応については各自治体に任せられますが、岡山県の集団接種会場でのマニュアル作成に関わらせてもらったので、それを元に接種後に体調不良となった場合の対応を書いていきます。

アナフィラキシー対応① 寝かせる

失神や転倒を防ぐため、必ず患者さんは寝かせて対応しています。横になるよう促されたら、「元気だから大丈夫だ」などとおっしゃらず、素直に横になっていただけるとありがたいです。そして、心電図モニターなどの機械をつけて、血圧、脈拍、SpO2(末梢血酸素飽和度)、呼吸回数、体温などバイタルサインの測定を行います。この時、私たちは呼吸をしにくそうにしていないか(気道が狭窄していないか)、呼吸の仕方を注意深く観察しています。

アナフィラキシー対応② 人を集める(救急車を呼ぶ)

救急要請、処置、観察、これらを同時にやるには人が必要なので、とにかく人を集めます。体調不良を訴えた時、たくさんの人が集まってくるかもしれませんが、皆さんを救うためですので驚かないでください。そして接種会場が診療所や集団接種会場であれば、救急要請を躊躇なく行います。このくらいの症状で?と思うこともあるかもしれませんが、遅れると症状悪化したときに間に合わなくなるので、救急要請の閾値は下げています。集団接種会場によっては、救急隊が待機しているところもあるかもしれません。

体調不良を認識してからここまででおよそ1-2分と思います。

アナフィラキシー対応③ アナフィラキシーの判別をする

アナフィラキシーの鑑別は当初なかなか難しいものです。慎重に症状の経過をみながら考えます。喘息発作かもしれませんし、緊張から自律神経のコントロールがうまくいかず低血圧になってしまっているのかもしれません。また、パニック発作なのかもしれません。どんな症状が出ているのか診察し、全身性のアレルギー反応と言えそうか考えます。

アナフィラキシー対応④ アナフィラキシーだったら治療する

アナフィラキシーであるという疑いが相当に高まれば、その時点で治療を行います。治療はアドレナリンの筋肉注射です。大腿外側に0.3-0.5mgを筋注します。ワクチンは上腕外側に筋注ですが、アドレナリンは大腿外側に筋注します。自己注射も可能なアドレナリンシリンジ製剤「エピペン」を使ってもよくて、こちらは0.3mgのアドレナリンが入っています。どちらか必ず接種会場に用意されているはずですので、ご安心ください。救急車には心肺蘇生のためのアドレナリンが搭載されていますが、救急隊はアドレナリンの筋注をすることができませんし、救急車には筋注するための道具はないので、現場で処置していただくことが重要です。

体調不良認識からアドレナリン投与は早ければ早いほど良いです。我々も即時投与を目指しております。アナフィラキシーを疑うに十分な症状があれば、体調不良認識から3分以内にはアドレナリン投与となると思われます。

アナフィラキシー対応⑤ 下肢挙上(あしを持ち上げる)

アドレナリンを打ったら、両下肢を30cm程度あげます。アレルギー反応により血管拡張と血液の血管外漏出がおこり、血管内の血液量は低下してしまいます。下肢挙上により、頭や心臓に血液を集めるのです。足の下に布団などを敷いて挙げます。

アナフィラキシー対応⑥ 酸素投与

バイタルサインの測定により、低酸素があったり、低血圧があったり、末梢血酸素飽和度が測定できないというようなことがあれば、酸素投与を始めます。酸素マスクをつけるように促されたら、嫌がらずに装着していただければ幸いです。

アナフィラキシー対応⑦ 静脈ルート確保

血管内の血液量が少なくなってしまったら補わなくてはなりません。点滴が必要なので、点滴のための静脈ルートをとらせてもらいます。一度にたくさんの量の点滴を落とさなければならない場合もあり、太い針を刺されることもあるかもしれません。また、症状がそこまで重篤でない場合にも点滴することがあります。これは血圧低下が進行した場合など、針が血管に刺さりにくくなってしまうことを想定しております。後ほど、アドレナリン以外の治療薬も注射しやすくなるので、ご容赦ください。

アナフィラキシー対応⑧ 心停止への対応と経過観察

アナフィラキシーでは、血圧低下が進み、心臓が止まってしまうこともあり得ます。この場合、躊躇なく胸骨圧迫を開始し、AED(自動体外式除細動器)を装着し、心肺蘇生を行います。迅速な対応をすることでアナフィラキシーからの心停止は防げるはずですが、偶然他の原因で心停止に陥る人もいるかもしれません。最悪の事態を想定しつつ、ここまでに記載したすべての対応を行なった後、救急車を待ちながらしっかりと観察を行います。アナフィラキシーと診断された場合、基本的には入院対応となります。これはアレルゲンへの再度の曝露がなくてもアナフィラキシー症状が再発する二相性反応が起こるためです(参考記事:二相性反応に注意を!日本のアナフィラキシーの実態とは?)。ここを乗り越えれば、アナフィラキシーを起こしたとしても問題なく日常生活を送ることができます。前述の「エピペン」を処方してもらい常に携帯するか、リスクに応じて検討しましょう。

まとめ

さまざまな情報が流れており、不安に駆られることも多いと思います。アナフィラキシーの報告は、厚生労働省によると、ファイザー社ワクチンについては1,632件(100万回接種あたり42件)が疑い例として報告され、うち289件(100万回接種あたり7件)がアナフィラキシーと評価されているということです。頻度は低いですが、起こった時には早々に対応が必要ということで、各地でしっかりした体制を組んで集団接種を行なっております。この記事が不安解消につながれば幸いです。

参考文献

[1] Breiteneder H, et al. Legends of allergy and immunology: Clemens von Pirquet. Allergy. 2020 May;75(5):1276-1277.

[2] Cardona V, et al. World allergy organization anaphylaxis guidance 2020. World Allergy Organ J. 2020 Oct 30;13(10):100472.

[3] Lieberman PL. Recognition and first-line treatment of anaphylaxis. Am J Med. 2014 Jan;127: S6-11.

[4] Pumphrey RS. Lessons for management of anaphylaxis from a study of fatal reactions. Clin Exp Allergy. 2000 Aug;30(8):1144-50.

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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