ワクチン接種で気になるアナフィラキシー。あの薬剤を服用中の人は要注意!
新型コロナウイルスのワクチンの接種が本格的に始まってきました。全身性のアレルギー反応であるアナフィラキシーを心配する声も多く、接種に対して慎重になる人もいるようです。今回はアナフィラキシーの対応と、適切に対処するためのポイントを書いておきたいと思います。
アナフィラキシー
アナフィラキシーそのものについては、以前に取り扱ったので、そちらをご参照ください。
アレルギー反応は、なんらかのアレルゲンに対応するIgE抗体を持つ人が、その物質に暴露されたときに肥満細胞からヒスタミンなどの科学物質が起こり、血管内水分の血管外漏出などの変化が起こる現象です。端的にいうと、それが過度に全身性におこる反応がアナフィラキシー。血液循環が保たれず重要臓器の機能が保てなくなってしまうものをアナフィラキシーショックと呼んでいます。
新型コロナウイルスのワクチンは、臨床試験の時からアナフィラキシーが10万人に1人程度発生すると言われておりました。実際に投与が始まると、頻度はさらに少なく、100万回あたり4.5例という報告になっています。不活化インフルエンザワクチンは1.4例/100万回、肺炎球菌ワクチンは2.5例/100万回、生ワクチンは9.6例/100万回なので、他のワクチンと比べて特別危険というわけではなさそうです。ただ、アナフィラキシーの既往がある人ではリスクが高まるかもしれないので、我々としては事前の問診をしっかりしていく所存です。
mRNAワクチンという新しい技術を用いたワクチンであり、不安視されるのは当然のことと思います。ただ、不安ばかり大きくなっても、話が進みませんので、前向きなことも書いておきます。アナフィラキシーには治療法があります。
アナフィラキシーの治療
アナフィラキシーガイドラインにおけるアナフィラキシーの診断基準を提示します。
注意点ですが、蕁麻疹が出ないアナフィラキシーもあるということです。蕁麻疹は目に見えてわかるアレルギー反応の一つですが、蕁麻疹が出ていないからと言ってアナフィラキシーは否定できません。ワクチン接種後、息苦しくなり腹痛を訴えている場合、蕁麻疹がなくてもアナフィラキシーかもしれません。
アナフィラキシーと考えられる場合には、即座に大腿前外側にアドレナリンを筋注します。アドレナリンの投与により、肥満細胞から化学物質が放出されるのを抑制できるのです。筋注なら即効性が期待できます。皮下注射よりも血中濃度上昇が速いので、筋肉に注射する必要があります。皮下に投与すると、末梢血管が収縮してしまい薬剤が流れません。ワクチンは上腕外側に筋注、アナフィラキシーに対するアドレナリンは大腿前外側に打ちます。あちこち大変ですが、血中濃度を安全かつ早く高めたいので大腿部に打つのです。筋注なら最大血中濃度まで10分程度です。
β遮断薬には要注意
一部医療従事者へのワクチン接種が始まり、さらにワクチンを広く打ってもらえるように、各自治体や医師会が協力して接種体制を構築しているところです。また、安全に接種していただけるよう、アナフィラキシーへの対応もしっかりできるよう体制を整えているところだと思います。もう一歩、みなさまの協力により安全性を高めるために、情報共有します。
もし、β遮断薬という種類の薬を服用している方がいらしたら、要注意です。アドレナリン は、交感神経β受容体に作用しますが、β遮断薬は名前の通り、この受容体を遮断します。アドレナリンが効きにくくなってしまうのです。血圧が低下しているような場合、β遮断薬内服者では通常使用するアドレナリンの2〜5倍程度の量が必要であると言われています。何度か投与するか、極少量を持続投与するか、グルカゴンという別な薬剤を使用するか、救急医としては様々な手段を持ち合わせていますが、薬剤情報があると診療がよりスムーズに行くと思います。
β遮断薬は心不全や心筋梗塞後の心機能維持、生命予後改善を目的に服用することとなります。これを服用しているとワクチンを使用できないということは一切ありません。内服している人は、その情報をわかるようにしておいていただければ、極力安全に配慮して接種していただけるようにしたいと考えています。ワクチンに限らず、アレルギーの原因は薬剤から食べ物まで多岐に渡ります。良い機会ですので、定期的に薬剤の処方をされている方は、どのような薬剤を服用しているか見直していただければ幸いです。