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防ごう!成人式での感染拡大とアルコール中毒!!

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
友人に介抱される人(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

ついに、政府から緊急事態宣言が発出されました。新型コロナウイルス感染者が増える中、1月11日には各地で成人式が予定されています。ただ、この状況を受けて、延期としている自治体も増えてきています。私が居住する街も、当初は2部制にして同時参加人数を減らして開催する予定でしたが、5月2日を目処に延期とすることが決定されました。

新成人にとっては、社会の中での責任を自覚し、新たな一歩を踏み出す心構えを作る機会でもあり、旧友と育った街に集う貴重な機会です。晴れ着に身を包んで、華やかな門出をお祝いする機会を奪われた若者の心中は、推し量れないほどの寂しさがあると思います。また、美容室や飲食店など、ギリギリで延期や中止となったことで多大な影響を受けている方々も多数いらっしゃると思います。このような状況で、さらに何かを訴えるというのは心苦しいのですが、新成人の皆様や周囲の方の健康のために、情報共有をさせてください。

成人式とアルコール

毎年この時期は、各地でお祝いムードが漂う一方、急性アルコール中毒患者さんが多発します。毎年何名もの急性アルコール中毒となった人の救急搬送を経験してきました。お酒に慣れていない新成人が仲間内で盛り上がり、自制が効かなくなるまで飲んで意識障害を起こしたり、嘔吐誤嚥したり、ひどい時には呼吸が止まって前途有望な命が失われることにつながります。

急性アルコール中毒で搬送される方は、圧倒的に20代が多いです(以下グラフ参照)。これは東京消防庁管内のみのデータですが、経験上も若者がとても多いです。

年代別の急性アルコール中毒による救急搬送人員(令和元年中):東京消防庁調べ
年代別の急性アルコール中毒による救急搬送人員(令和元年中):東京消防庁調べ

先んじて1月5日に成人式を開催した和歌山市では、4名の新成人が急性アルコール中毒で搬送されたということです。せっかくお酒が飲めるようになったので、楽しみたい気持ちはとてもよくわかります。なぜならば、私も成人式後に記憶をなくすほど飲んだからです。大変後悔しております。そんなしくじり先生から、新成人の皆様に2つお願いをしたいと思います。

①成人としてお酒の楽しみ方を学びましょう

お酒はとても美味しく、合法的に五感を刺激してくれる、再来週公開のエヴァンゲリオンの言葉を借りるなら、リリンの生み出した文化の極みです。ただ、忘れてはならないのは、お酒は人体の神経系にも作用する化学物質であるということです。

過ぎたるは及ばざるが如しという言葉の通り、過量摂取は中毒を起こします。アルコールの薬理反応により、様々な精神的な変化や、肉体的な変化を起こし、それは時に命に関わります(下図参照)。

血中アルコール濃度と症状
血中アルコール濃度と症状

大体ビール大瓶1本やワイン半分ほどでほろ酔いになります。ビール中ジョッキ4杯飲むと、単純計算で150mg/dL程度の血中アルコール濃度となり、ふらつきを呈するようになります。人によってアルコールの分解能力に差はありますが、一般的に肝臓での代謝速度は1時間あたり20mg/dL程度と一定です[文献1]。この辺が人間の限界なのだということを知っていただければと思います。身の安全を守るため、「お酒は3杯まで」などとルールを作っておくと良いかもしれません。私個人のお酒との付き合い方ですが、いつ誰と何をどれだけ飲んだかを思い出せないほどであれば、飲むのを止めることにしています。

普通はそんなに飲まない人も、二次会・三次会と参加したり、種類の違うお酒を多量に飲んだりすると、知らず知らずのうちに血中アルコール濃度は高まります。ビール中ジョッキで8杯程度を超えると、意識が低下してきます。ビールだけ8杯はしんどいかもしれせんが、ワインや日本酒、焼酎などあれこれ飲んでいると結構なアルコール量になります。ちゃんぽん(様々な種類のお酒を飲むこと)は翌日に残ると言われますが、単純に摂取アルコールの量が増えているだけの話です。

お酒を作っている人たちは、それこそ命をかけてお酒を作っています。過剰に酔っぱらわせたいとか、健康被害を与えたいと思って作っている人はいないはずです。

色、香り、味、舌触り、喉越し、飲んだ後も咽頭から鼻腔に残る甘み…。共有する人がいれば感動も一入です。大量に飲むというのも一つの楽しみ方なのかもしれませんが、ゆっくりと少しずつ楽しむのも良いものです。味もわからない、前後不覚となるようなことを避けていただければ幸いです。

②もしもの時の助け方を知っておこう

気をつけていても、個体差はありますし、少量でも具体が悪くなってしまうことはあるかもしれません。もし、一緒に飲んでいる人や、周囲の人の体調が悪くなったら、ぜひ「回復体位」というものを実践してください。これは心肺蘇生の講習会で必ず習得する由緒ある技です。下記の図のように、側臥位(横向きの姿勢)で寝かせ、傷病者の下になる腕を前に伸ばし、上になる腕を曲げて顔の下にしいて、手の甲に傷病者の顔が乗るようにします。また、姿勢を安定させるために、上になる膝を90度曲げ前方に出します(イラスト参照)。

回復体位:いらすとやより
回復体位:いらすとやより

回復体位は、意識は低下しているけど正常に呼吸をしている傷病者に対して行います。回復体位にすることで、舌で気道を閉塞させたり、嘔吐物で気道を閉塞させたりするのを避けられます。気道が閉塞すると、人は数分で心停止に至ります。ここだけは守り抜いていただければと思います。

そして、回復体位をとったら数分ごとに呼びかけ続けてあげてください。反応がなくなり、呼吸が弱くなるようであれば、迷わず救急要請してください。呼吸をしていない場合や、呼吸をしているかどうか怪しければ、胸骨圧迫です。ほったらかしにしなければ大事な隣人の命を助けることができます。よろしくお願いいたします。

アルコールは徐々に小腸から吸収されて、寝た後も血中アルコール濃度は上がるかもしれません。潰れてしまった人は、アルコールの影響がなくなったと判断できるまで側についてあげる必要があります。これは一緒に飲んでいる人の責務だと思います。

成人のお祝い

各地で公式の成人式が中止・延期となる中、すでに帰省を予定していたり、集まるつもりにしていたりする人たちが、連休中に私的に成人式を行うかもしれません。緊急事態宣言が出ていない地域では特にです。

感染予防上は、お互い喋ることなく、ホールなどに集まるだけならウイルス伝播の可能性は極めて低いのではないかと思われます。最近のホールは空調もしっかりしており、換気も行うことができます。クラシックコンサートでのクラスタ発生はなかったですし、政府も観客が大声を出さないクラシックコンサートなどに限り、満席での開催を認めてきておりました。

むしろ、成人式後の2次会が感染のハイリスクになると考えます。お酒が入って気持ちが大きくなったり、前後不覚になったりするようなことがあれば、さらにお互いの距離感は詰まり、感染リスクの向上にもつながります。

現状、COVID-19への対応で救急医療は逼迫しており、すでに救急搬送先がなかなか決まらない状況となっております。この状況下で急性アルコール中毒の患者さんが多数発生すると、救急医療に多大な負荷をかけることになります。自分のためにも、周囲の人々のためにも、落ち着いた週末を過ごしていただければ幸いです。

新成人のお祝いは、いつも一緒に過ごしている方と、しっとりお楽しみください。

厳しい時期ですが、なんとか乗り切って華やかなお祝いができることを願っています。

参考文献

[1] D F Brennan, et al. Ethanol elimination rates in an ED population. Am J Emerg Med. 1995 May;13(3):276-80.

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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