日本のアナフィラキシーの実態調査

先日、日本の救急部門におけるアナフィラキシーの実態を調査した論文がでました。

アナフィラキシーは、致命的な可能性のある全身性アレルギー反応で、食べ物が原因で起こることが多く、運動に伴って症状が出現することもあり、またスズメバチに刺されてアナフィラキシーに陥るなど、様々な要因で起こります。今回は、こちらの論文を紹介するとともに、アナフィラキシーのお話をします。

アナフィラキシーの発見

アナフィラキシーって聞いたことありましたか?アナフィラキシーを知るために、まずはアナフィラキシーという名前の由来と意味から見ていきましょう。

この現象を最初に発見したのは、フランスの生理学者シャルル・ロベール・リシェとされます。しかし彼はアレルギーの研究をしていたわけではなく、クラゲの研究をしていました。20世紀初頭のモナコでの話になりますが、当時モナコでは海水浴中に電気くらげ(カツオノエボシ)に刺される事故が相次ぎ、問題となっていました。この解決をモナコ皇太子から依頼されたのが、生理学者であるリシェと動物学者であるポール・ポワチエでした。彼らは大量のカツオノエボシを集めて毒素を抽出し、動物に投与して実験をしていました。フランスに帰国して研究を続けたかったのですが、なかなかカツオノエボシが手に入らないので、代わりにイソギンチャクから抽出した毒をイヌに投与する実験を行うこととします。この時、大量の毒を投与することによりイヌは死亡したのですが、致死量に至らない用量を投与したイヌでは上気道症状や痒みが誘発されました。そしてこの生存したイヌの症状が回復した後に再度少量の毒素を投与すると、今度は出血、嘔吐下痢、ショック、呼吸障害などの激烈な反応を起こした後に死亡することを発見したのです(今となっては可哀想な話ですが)。

この激烈な反応は、毒素によるものではなく、何らかのタンパク質が体内に入った時の免疫反応が過剰に起こっていると考えられ、防御機構の暴走という意味でana(逆に)・phylaxis(防御)→ anaphylaxisと名付けられました。この後、アナフィラキシーの研究が進み、1913年にリシェはノーベル生理学・医学賞を受賞することとなります。

アレルギー反応

アレルギー反応とは、本来起こるべき防御反応である免疫反応が特定の物質に対して過剰に起こり、体に害を及ぼす反応を指します。なんらかのアレルゲンに対応するIgE抗体(アレルギーに関わる免疫グロブリン)を持つ人がそのアレルゲンに曝露すると、IgE抗体を介して肥満細胞(免疫や炎症に関わる細胞)を刺激し、ヒスタミンなどの化学物質が放出されます。化学物質が細胞の炎症を起こしていく中で、血管透過性が亢進して水分が血管から漏れると、周囲の組織が浮腫をおこすのです。皮膚で起これば蕁麻疹ができるし、気道で起これば浮腫で窒息するし、消化管で起これば腹痛下痢嘔吐を起こすし、血管内水分が減ると血圧が低下し、ひどい時には意識障害を起こしてきます。アナフィラキシーはこれらのことが一気に起こる全身性の反応なのです。アナフィラキシーショックというのは、アナフィラキシーが原因でショック(血液循環が保たれず重要臓器の機能が保てなくなる状態)に陥った状態をいいます。

アナフィラキシーの診断

アナフィラキシーは全身性の反応ですから、様々な症状がでます。明らかに急激な蕁麻疹が出現して苦しそうにしているならば、アナフィラキシーを疑って救急要請していただいた方が良いです。診断基準としては、ガイドラインで以下のようなものが提唱されています。

アナフィラキシーの診断基準:上記1-3のうちのどれかを満たせばアナフィラキシーとする(アナフィラキシーガイドラインを元に著者作成)
アナフィラキシーの診断基準:上記1-3のうちのどれかを満たせばアナフィラキシーとする(アナフィラキシーガイドラインを元に著者作成)

注意していただきたいのは、アレルギーといえば蕁麻疹を思い浮かべますが、アナフィラキシーでは呼吸困難と腹痛だけというように、皮膚症状なしに発症する場合もあるということです。必ずしも蕁麻疹が出るとは限りません

アナフィラキシーの治療

アナフィラキシーだと考えたら、急がねばなりません。即座に大腿中央前外側にエピネフリン(アドレナリン)を筋注します。エピネフリンの投与により、肥満細胞から化学物質が放出されるのを抑制できるのです。筋注なら即効性が期待できます。皮下注射よりも血中濃度上昇が速いので、筋肉に打ちます。皮下に投与すると、末梢血管が収縮してしまい薬剤が流れません。筋注なら最大血中濃度まで10分程度です。なお、呼吸停止や心停止に至ってしまった人が心停止までにかかった時間の中央値は、アレルギーの原因が薬剤の場合5分程度、虫の毒で15分、食物で30分です(Clin Exp Allergy. 2000 Aug;30(8):1144-50.)。最近はアレルギーを有しているとわかっている場合、エピペンを持つ人も増えてきました。とにかく早く対処する!まさに救急疾患です。

二相性アナフィラキシー反応

アナフィラキシーでは、二相性反応にも気をつけなくてはなりません。アナフィラキシーの症状が落ち着いた後、数時間してからアレルゲンへの接触なしに再度アナフィラキシー症状を呈することがあり、これを二相性アナフィラキシー反応と呼んでいます。怖いですよね?全例に起こるわけではないのですが、海外の報告によると、発生率が23%程度(N Engl J Med. 1992 Aug 6;327(6):380-4.)というものから0.4%(Ann Emerg Med . 2014 Jun;63(6):736-44.)というものまであり、実態は不明でした。そこで冒頭の論文です。これは、日本のアナフィラキシーの実態、特に二相性反応の発症率などを調べた研究となります。横浜労災病院と日本大学医学部附属板橋病院が、2016年6月から2019年5月までに、両病院の救急部門を受診してアナフィラキシーと診断された患者の症状と徴候、治療、経過、疑われる誘因を調査しています。

302人の患者が対象となり、アレルギー反応の既往があったのは179人(59.3%)。症状については、皮膚症状297例(98.3%)、呼吸器症状248例(82.1%)、消化器系症状150例(49.7%)、循環系症状55例(18.2%)となっており、やはり皮膚症状を示さない例も存在しています。アナフィラキシーの誘因として最も多かったのは食品(230例、76.2%)で、次いで薬物(33例、10.9%)ということです。

そして、302例中19例(6.3%)に二相性アナフィラキシー反応が認められました。患者の年齢、性別、アレルギー歴、発現症状や原因物質、症状の重篤さとの関連性はなく、治療法でエピネフリンを使用すると二相性アナフィラキシー反応のリスクが減少し、ステロイドの使用は二相性アナフィラキシー反応のリスクと関連していなかったということです。初期治療にステロイドを選択されることも多いかもしれませんが、少なくとも二相性反応に対しては効果が乏しい様子です。アナフィラキシーに対するステロイドの有効性については決着がついておらず(Cochrane Database Syst Rev. 2012 Apr 18;2012(4):CD007596.)、ステロイド投与は積極的には推奨されていません。

なお再発までの時間は2~48時間(中央値:10時間)で、二相性アナフィラキシー反応を起こした19例中7例(36.8%)がエピネフリンの追加治療を要しています。初期症状が重篤でなくても、しっかりエピネフリンを投与し、経過観察することが重要です。世界アレルギー機構のガイドライン(World Allergy Organ J. 2015 Oct 28;8(1):32.)では、少なくとも4時間の観察が推奨されておりますが、もう少し長めに見ておいても良いのかもしれません。

秋とアナフィラキシー

だんだんと冷え込んできて、秋を感じております。秋と言えばキノコという話をしたのですが、食欲の秋であり、さらには運動の秋、そして繁殖期を迎えて少し獰猛になっているというスズメバチなど、秋はアナフィラキシーのハイリスクかもしれません。皆様が健康に過ごせますことを願っております。