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【ソチ2014パラリンピック】「政治を持ち込まないで!」ウクライナの抗議行動に共感できない空気

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
メダルセレモニーでメダルを隠すウクライナ選手達。

ロシアとの緊迫する情勢の中で会場を喝采の渦に巻き込んだウクライナの参加。しかし、その抗議行動は日に日にエスカレート、メダリストがメダルを隠したり表情を殺すシーンが相次ぐようになり、会場の雰囲気も少し変わってきました。ウクライナによる一連の抗議行動について、現地の意見を取材しました。

「恐ろしいことが起こればすぐに撤退する」というスシュケビッチ会長は国会議員も務める。
「恐ろしいことが起こればすぐに撤退する」というスシュケビッチ会長は国会議員も務める。

◆なぜ対立しているのか

大会直前の記者会見で、ウクライナ・パラリンピック委員会のスシュケビッチ会長は「ウクライナチームはロシアの侵略に対し、パラリンピックをボイコットすることで平和に対するデモを行うことも考えたが、そんなことをしても数時間で忘れ去らせてしまうだけだろうから、それよりはゲームを続ける中で平和を訴えていくと決意した」と訴えました。また、プーチン大統領に対しては「パラリンピックの一員として話をし、少なくともパラが終わるまでは平和を望む」と伝え、プーチン大統領は「考慮する」と答えたといいます。

一連の言動で支持率が上がっているというプーチン大統領。掲げているクリミア半島軍事介入の大義は「ロシア系住民の保護」です。しかし、保護が必要な状況であるという証拠がないという批判を受けています。そもそもロシアとウクライナの間にある一番の問題は“港”と“エネルギー”です。ロシアは国土のほとんどを高緯度の冷帯地域が占めているため、1年を通して凍らずに使用出来る“不凍港”をどうしても押さえたいんですね。これは貿易だけでなく海軍力においてアメリカに後れを取ってしまっている原因の一つです。またウクライナ側はメインのエネルギー資源である天然ガスのほとんどをロシアから輸入していますので、止められてしまうとまずいわけです。そういう駆け引きが、国際大会の場に波及してしまった形です。パラリンピック閉会後の20〜21日に開かれるEU首脳会議で、天然ガス供給の「脱ロシア化」について議論されると予想されます。

ロシアに次ぐメダルを獲得する強豪ウクライナ選手団。
ロシアに次ぐメダルを獲得する強豪ウクライナ選手団。

◆ロシア・ウクライナの対立、現場はNo!

ロシア・ウクライナ双方の言動について、多くの関係者が「そのテーマについては分からない」と口をつぐむ中、ロシア人の女性ボランティアは「金メダリストとしてそういう態度を取るのは良くない。政治を持ち込むべきじゃないと思う」と。男性ボランティアは「プーチンは俺の父ちゃんじゃないから、俺に聞かれても知らないよ」と笑って答えてくれた。

笑顔のないメダリストを応援団が笑顔で見守る。
笑顔のないメダリストを応援団が笑顔で見守る。

また、ウクライナ人記者は「例えばメダルを捨てたりというような、派手にメダルを侮辱するような行為をしたら出場が取り消されてしまう。そういう意味で今回の抗議はギリギリの行為です。こういう時だからこそロシアの人たちと仲良く助け合っていくことが必要なのに、助け合って生きていける仲であるということを証明出来る場であるはずなのに、こういう辛辣な態度をするのは共感出来ない」と嘆いていました。

国歌が流れると応援団は涙を流しながら歌っていた。
国歌が流れると応援団は涙を流しながら歌っていた。

◆「国」という抽象化と国際大会の意義

オリンピック・パラリンピックと国際大会で取材を続けるイギリス人フォトグラファーは、「ウクライナの気持ちは分かる。でも結局の所、国際大会のメダルというのは委員会や国ではなくて、個人に対して与えられているものなんだから、行為を強要するのは良くないよね」と話してくれました。国際大会では、どうしても国対国という捉え方をしてしまいがちです。メダルの数で競うような風潮にも問題があるかと思いますが、そういう捉え方をしたとしても、平和的に楽しむことも出来るはずです。そもそもオリンピックもパラリンピックもそういう理念があって始まったはずです。

様子を窺いながら、思わず笑みが漏れるシーンも。
様子を窺いながら、思わず笑みが漏れるシーンも。

競技である以上勝ち負けは当然重要ですが、どちらにもドラマもあるし美しさも楽しさもあります。双方のプレーやプロセスに興味を持てるような報道をすることで少しずつでも見方が変わってくるのではないかと思いますが、現状パラリンピックにおいては結果のみを追うリザルト記事やメダルがらみのダイジェストが大半を占めます。多くの人が競技や選手に興味を持ち、また興味を持てるような報道が期待されます。2020年に向けて、日本がその先導が出来るように、まずは、すでにオリンピックやパラリンピックに関わっている選手団やメディアが意識と行動を改善していく必要があるのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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