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ファミマ最終赤字の見方

渡辺広明コンビニジャーナリスト/流通アナリスト
雨の中のファミリーマート 筆者撮影

ファミリーマート107億円の最終赤字。人口減少に追い打ちをかけるコロナ禍の3月から8月の半年間の決算ではあるものの、大手コンビニの赤字は衝撃的なニュースだ。

伊藤忠商事子会社化の布石

親会社の伊藤忠商事のTOBによる子会社化が迫っており、上場企業としてのファミリーマートの決算は今回が最後となりそうだ。

ファミリーマートのホームページでは、2020年5月29日現在として、事業等のリスクで減損という項目で、

「当社グループは、店舗にかかる有形固定資産およびのれん等多額の固定資産を保有しています。店舗の収益性低下により各店舗の簿価が回収できず減損処理を行った場合、当社グループの事業の遂行や業績及び財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。」と記載されていて、それを今回顕在化させ子会社化の前に粛々と実行したとも考えられる。

経済ジャーナリストに話を聞くと、

「有形固定資産等の減損損失422億円の計上については、一部店舗の収益性低下というのは発表の通りだが、その中にはサンクスサークルKなど他のコンビニの統合時の買収額(不動産価値+ブランド価値)が、現状における収益性の実態が買収時より低くなっているため、コロナ禍の収益低迷の理由と重ねられるタイミングで、その差額の減損計上を実施したと考えられる。この対応は今後収益率を上げられ伊藤忠商事が子会社する前に対応した可能性が高い。またファミリーマートが50%保有する台湾ファミリーマートの株の5%をドン・キホーテとの合弁会社に譲渡が決定していて評価額が500億円と見込まれるため、今後ファミリーマートを子会社化する伊藤忠商事の決算を睨んだのではないか。」との見解も聞かれる。

立地と商品力

子会社化に伴う対応が考えられる一方、人口減と出店飽和により、コンビニ業界全体が曲がり角を迎えているのも間違いない。8月の既存店売上高の前年同月比は、ファミリーマートは7.7%減でセブン-イレブンが横ばいだった事を考えると営業面においてもファミリーマートは非常に厳しい状況である事が数値からも見て取れる。

コンビニの売上は、店舗での接客が大切な要素とはなるが、個店の売上では立地、全体の売上では商品力がポイントとなる。

立地については、既存の店舗の置き換えは難しいため、当たり前だが一挙に改善とは行かない。

ファミリーマートは、サンクスサークルKやam/pmとの合併もあり、店舗が隣接している場合が多く売上のカニバリが発生しているケースも

多いと推察される。

また、am/pmが都市型コンビニのコンセプトでドミナント出店していた為、家賃が高い立地の店舗が多く、コンビニのフランチャイズ店舗のほとんどは家賃が本部負担の為、本部の収益を悪化させる一因となったとも考えられる。

商品に関しては、コンビニ全体の話ではあるがコロナ禍の節約嗜好の高まりで定価販売がマイナスに働いている。

コンビニは収益を分担する仕組みの為、安売りの薄利多売は難しい。そのためマスメリットを活かした買いやすい価格のPB商品(プライベート商品)の更なる充実、大手メーカーのブランドとコラボしたNPB商品(ナショナルプライベート商品)の展開による差別化が求められる。ファミリーマートはこの分野でも店舗数の多いNO.1であるセブン-イレブンとの厳しい戦いに勝っていかなければならない。顧客のニーズを把握し、今まで以上にメーカーと協業し、ファミチキに続くヒット商品を生み出していく事がこの苦境から脱する為には必要不可欠だろう。

合併による弊害

ファミリーマートの各オーナーに話を聞くと、吸収したチェーンのオーナーを蔑ろにして来たのではないかとの声が複数あり、看板は統一されたもののチェーンとしての一体感が無いとの意見もある。

また、各コンビニ店舗をサポートしている税務顧問によると、他チェーンからファミリーマートに転換したオーナー店は財務状況が厳しい場合が多々あり、契約更新しない店が多くなる可能性が高いとの見解もある。

ファミリーマートの今回の最終赤字は、コンビニ業界の全体の警鐘なのかもしれない。

2000年に入り、各コンビニでは叩き上げでは無い経営者による短期的な収益アップが優先され、中長期視点経営が行われないケースが散見された。

公正取引委員会の「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査」がそれを如実に表しており、オーナーの労働環境、本部からの仕入強制、ドミナント出店による売上ダウンなどオーナーの厳しい評価が並ぶアンケート結果となっている。この20年の膿が一挙に噴出したカタチだ。

こんな厳しい環境だからこそ、一番大切な現場の事がきっちり分かる経営陣による舵取りが求められているのかもしれない。

コンビニ経営の本質はフランチャイズビジネスで、各加盟店の力の集結が大切となる。本部は加盟店ときっちり向き合う時間をどれだけ増やすかが最も大事になり、成否の分かれ道となりそうだ。

世界最高峰のリアル小売業のコンビニが正念場を乗り越えてより顧客に役立つ店であり続ける事を期待したい。

コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

渡辺広明 1967年生まれ、静岡県浜松市出身。コンビニの店長、バイヤーとして22年間、ポーラ・TBCのマーケッターとして7年間従事。商品開発760品の経験を活かし、現在 (株)やらまいかマーケティング 代表取締役として、顧問、商品開発コンサルとして多数参画。報道からバラエティまで幅広くメディアで活動中。フジテレビ「Live News a」レギュラーコメンテーター。 「ホンマでっか⁉︎TV」レギュラー評論家。全国で講演 新著「ニッポン経済の問題点を消費者目線で考えてみた」「コンビニを見たら日本経済が分かる」等も実施中。

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